倉庫
スクーターのブレーキを引き、ミリィは足を地面につけた。
目の前に古い、木造の倉庫があった。
昔は納屋として利用されていたのだろうが、その後倉庫として使われたこともある。しかし町外れに位置していることもあり、不便なのでいまはだれも使用していない。
はずであったが、ひとりこっそりこの倉庫に通っている人物がいる。
それがパックだった。
倉庫の前に一台の自転車が停まっていた。
パックの自転車である。
どうやら中にいるらしい。
ミリィはため息をついた。
なんで自分はわざわざパックに会いにこんなところまで来るんだろう。
パックはミリィと同じくらいの年頃で、この町に母親と二人暮しをしている。ミリィは違って、春と夏の休みに祖父に会いにステットンの町へやってくるのだ。
パックの家は祖父の大佐の家に近いこともあり、子供のころはよく遊んだ。
昔の話しだ。
パックの趣味は機械いじりで、機械だったらなんでも興味があった。いったん、機械を手にすると、まわりのことなどいっさい気にならなくなる。
それがミリィには面白くない。
まったく男の子ったら!
この春休みにひさしぶりに顔を合わせたのに、パックときたらまったく上の空で、ミリィのことなど忘れているみたいだ。
たぶん、また新しい機械を見つけたのだろう。
どうしようか、中にいるなら声をかけようか……。
もう! なんで自分はこんなにパックが気になるんだろう。パックは自分のこと、なんにも気にしていないのに。あいつの頭の中にあるのは機械、機械ばっかりだ!
唇をきゅっと引き結び、ミリィは倉庫に近寄った。
扉に手をかけ、ちからをこめた。
かすかに軋んで扉は開いていく。ミリィは隙間に顔を押し当て、中をのぞきこんだ。
暗い。
内部を照らしているのは、倉庫の天井にある明り取りの窓からのひかりだけだ。
その中に、シートをかけられたなにかが見えている。
なんだろう?
そうとう大きなものだ。
シートの一部がめくれ、その前にひとりの少年がこちらに背中を見せ、座り込んでいる。手元がしきりに動き、なにかの作業をしているようだ。
パックだ。