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第二話です
遅れてしまい申し訳ありません
背後にいた者──それは予想外の存在であった
白衣を身に纏いルビーのように澄んだ紅い眼の銀髪ショートで左目に眼帯をつけた世間でよくいう厨二病オーラ全開の女が司を見つめながら口角を吊り上げその場に立ち尽くしていた。
てっきり人の声を真似た宇宙人やエイリアンといった類かと思ったが人であったことに対しサイコパスなやつであっても何故か肩の荷が降りたような気がした。
「すっ、すみません! お、俺に声をかけたとは思わなくて! そっ、それで俺に何かご用でもありましたか??」
弧を描くように全力で両手を動かし気づいてませんでしたアピールを演じる。怪しまれて八つ裂きにされたら全てが終わる、とりあえず会話をしてなんとか見逃してもらえるように誘導するしかなかった。
「用も何もあなたはここの住人? それとも私と同じで知らずのうちにここに来ちゃったパターンの人?」
どうやらこの眼帯の女も司と同じく知らずのうちにこの世界へ来てしまったようだ。そうなると話は変わってくる。見逃してもらう前にこの眼帯女からこの世界について知っていることをなんとか聞き出さなければならない。
「そうだ俺もいつの間にかにここにいてよく分からないんだ……」
「あーそうかそうかー、あなたも私と同じかー」
司が同じ境遇だとしり眼帯の女は残念そうにため息をつき消沈する──直後眼帯の女の落胆の表情が一変戦慄が走るほどのニヒルな笑みを浮かべる。
「あははは!そうなるとやることは一つになるわけだ!」
眼帯女は纏った白衣の胸ポケットから何かを取り出し司へ差し向ける。
「ちょちょちょっとそれはまずいって!!」
眼帯女が差し向けてきた、それは医療現場で必ず用いられる手術バサミであった。そしてオマケと言わんばかりにもう一つ取り出し二刀流ときた。
「あなたも100人に選ばれたのでしょ? ならここで少しでも数を減らした方が合理的じゃない!?」
「落ち着けって! てか100人って一体なん……」
懸命な静止も虚しく眼帯女は地面を強く蹴り込み一瞬にして司の間合いへと入り込む。
「──さよならグッバイ」
人間離れしたスピード、気づいた時には懐に入り込み心臓部に狙いをすましハサミを突き立てようとしているときた。
眼帯女は恐らく人間やめてるレベルである。正直なところ眼帯女には100回挑んでも、1000回挑んでも勝てないであろう。無理ゲーはいつもなら諦めているところだが今回はシチュエーションが違う。コンテニューなし、自らの命がかかっている。こうなればやることは一つ──凡人には凡人なりの意地があるということを証明するしかない
「勝ち誇るにはまだはえぇよ……!」
回避はできないと直感し司は咄嗟にハサミの間に左手を入れる。そして勢いそのまま左掌中心部を刃は貫いていった。
「い、痛ぇなちくしょう……」
傷口から多量の血が流れ出し灼熱の痛みが左手に走る。だが心臓部への攻撃を防ぐことができた。
「──なっ」
予想外の展開に眼帯女は唖然としていた。それもそうだ、左掌は身代わりとなって貫かれただけではなく眼帯女の右拳を全力の力で握り込んでいたからだ。
「前ゲームでこういうシーンがあったから実際にやってみたけど上手くいって安心したよ…… ここから俺の反撃ってことでいいかな……?」
沸騰するように込み上げてくる激痛を抑え込み反撃開始の宣言をする。その様子を見ていた眼帯女は怯むのではなく嬉しそうに微笑んだ。
「初めてだよ! 私の攻撃を自らの部位を犠牲にして防ぎさらに反撃へ繋げようとするやつは!」
「そりゃどうも…… 」
「あ、そういえばまだ私の名前言ってなかったね! 私はナイチンゲール三世って言うんだ!」
「ナイチンゲール三世って世界的有名人の子孫ときましたか…… 俺は赤阪 司、至って平凡な家系出身の大学生だ」
「司…… 赤阪 司ね! よし憶えたぞー!」
「憶えた直後に悪いが反撃いかせてもらうぜ」
司は右手を掴まれ動きを封じられているナイチンゲール三世の顔面目がけ全力の右ストレートを放つ。
「へへ、そんなパンチ当たらないよーだ!」
刹那、ナイチンゲール三世は司の左手をいとも簡単に振り払うと司の頭上を優に越える側宙で司の反撃を涼しげに躱してみせた。
「おいおい、お前本当に人間かよ??」
「残念ながら君と同じ人間なんだなぁ!」
「同じ人間で安心したよ…… 次はどうやって反撃しようかな……」
とは言ったものの同じ手が2度通じる相手ではないし真っ向から向かっていっても確実に負ける。どう考えても勝つイメージが湧かない、まさに八方塞がりだった。だがこんなところで諦めて死ぬわけにはいかない──なんとかこの場を凌ぐ方法を考えなければ
「さぁ、今度こそその心臓もらっちゃおうかな!」
「そうはさせられねぇな…… だって今から俺はよ──」
司の考えついた反撃──それは
「──全力で逃げるんだからよ!!」
どう反撃しても勝てっこない相手にはもう全力で逃げるしかない。司はナイチンゲール三世へ背を向けると全力で裏路地の入り口へ向け走り出す。
「──」
奇抜な反撃手を考えてもいると思ったのだろうまさかの全力逃亡にナイチンゲール三世は呆気に取られ少しの間小さくなってゆく司の背中を見つめていた。
「正直逃げ切れる自信はないが奇跡に縋るしかできねぇ!」
家に引きこもり運動不足な身体を無理矢理動かす。突然息もすぐに切れたが生死がかかってるんだがそんなのお構いなしにペースを落とすことなく走り続ける。
「はぁはぁ…… あと少し……」
出口の光が差し込む、後ろを振り返るとなんと追いかけてくるナイチンゲール三世の姿はない。
奇跡──司の脳裏にその二文字がよぎった
「俺は生き残った……!」
奇跡が起きたと確信し裏路地を抜け出すための一歩を踏み出す──
「──残念でした! 逃亡失敗でーす!」
塀の裏に隠れていたナイチンゲール三世が裏路地へは出さんと司の目の前に立ち塞がった。
「な、嘘だ……」
やはり奇跡なんてそう簡単に起きるものではない。ナイチンゲール三世は気づけないほどのスピードで裏路地を抜け出しこうして司がくるのを待ち続けていたのだ。
一瞬にして絶望の淵へと落とされる──
「司は本当に面白いね! でもこれでおーしまい!」
ナイチンゲール三世は右手に持つハサミを構える。
司にやれることはない、もう死ぬことを待つしかない。だが最後くらい笑顔でいたいと恐怖を抑え込み今にも崩れそうな作り笑顔を浮かべてみせた。
「ここで笑顔を浮かべるんだ、本当に君は変わってるね」
宙に上がったハサミ、一切の迷いなく狙うべきものへ向け振り下ろされる。
──グシャ
刃が突き刺さりそこから噴水のように血飛沫があがる──
次話近日公開予定です