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連続投稿です!
「うっ……」
川のせせらぎ、虫の囀りが耳の中を伝ってくる。
「あ、あれ俺は一体何を……?」
数分の間気を失っていたらしい。目が覚めたと同時に正気に戻った司だが自分が置かれている現状が理解できないでいた。
「確か駅前で落とした鍵を拾ってから……」
鍵を拾った後の記憶がなく、気がついたら大学でも家でもなく見覚えのない河川敷の土手で横になっていた。
「ここは一体どこだ……?」
今ある場所を確認するためにスマホを取り出そうとするが普段入れているズボンの後ろポケットにスマホが入っていない。
「ない……」
そんなはずはない、外出時はスマホが入っているか何度か確認するほどの神経質だ。今日も確実にスマホがポケットに入っていたはずだった。どこかに落としたとしてもポケットが軽くなった違和感で気づくはずだ。
「何かの拍子でバックにでも入れてたのかな」
だがどれだけ辺りを見渡しても教材が入ったバックもスマホと同様に失くなってしまっていた。
「仕方ない、あまり得意じゃないけどその辺の人に聞くしかないか……」
初対面の人に道を尋ねるのは苦手なタイプの司だがコミュ障御用達のスマホをなくした今苦手に立ち向かわなければいけなくなった。
「さてと」
覚悟を決め立ち上がるがここで大きな違和感にようやく気づく。
「この辺誰もいなくないか……?」
河川敷の周辺から人の声は一切聞こえず近くに建てられた橋にも人はおろか車一台走っていない。
近辺にある住宅街からも人のいる証明である生活音が一ミリたりとも聞こえてこない。
まるで集団神隠しにあったようであった。この世界に残された人は司しかいないと思わせてしまうほどに。
「一体何がどうなってるんだ……?」
ますます状況が理解できなくなる。しかしこのままここに滞在していても埒があかなくなると考え司は存在するかもしれない自分以外の人を探しに微かな望みに賭け住宅街へと向かう。
「こんな人気のない住宅街生まれて初めて来たな」
住宅街を縦横無尽に駆け回る犬と猫、食い散らかされ片付けられることもなくその場に放置された何かはわからない動物の死骸、自由奔放に鳴き続ける烏の群れ。この世界を支配していたと言っても過言ではない人が消え動物たちは本来の活気を取り戻し生き生きとしていた。
「もしかしたら全員家の中に篭ってるかもしれない……」
とりあえず片っ端の家のチャイムを鳴らすが人が出てくる様子はない。強硬手段としてドアノブを回すも全てに鍵がかかっている。扉を壊して中に入る手段も考えたが人が家の中にいたと考えると流石に申し訳ないという気持ちが勝り思いとどまった。
「はぁ…… 俺どうすりゃ良いんだこれから……」
八方塞がりの状況に意気消沈していると司の左方に街灯もない昼間なのに真夜中のように暗く奇々怪々の雰囲気が漂う裏路地が現れた。
「アニメやマンガでもよくこういう裏路地に立ち寄ったら何かしたらのBADイベントが起きるんだよな……」
でもこのまま何も起こらない場所を彷徨い続けるよりはマシだと考えた司は例え自らの身に悪いことが起きても厭わない覚悟で奇々怪々な裏路地の中へ入ってゆく。
「気味が悪いな…… 幽霊出てきたらどうしよ」
辺りが司の身長を優に越える塀に囲まれているため表通りと比べて気温も低くさらには恐怖心を煽るように冷風が幾度も司に当たる。それに加え所々から何者かに見られているように感じ背中にチクリと小針で刺された感覚が何度も襲いかかる。
「この裏路地どこまで続いているんだ……」
もう5分は歩いただろうか、なかなか突き当たりに到達できない。ここまで歩いて何も起きないと諦める想いが強くなる。それは司も同様だ。
「もういいわ、引き返そう」
諦めとここに居座ってはいけないという想いが勝りきた道を戻ろうと身体を180度回転させた──
──あなたここの人?
背後から突然聞こえた人の声と共に司の身体に悪寒が走る。
普段なら友達とかにこのように声をかけられたら声を出して驚くのが普通のリアクションであった。でも今回は違う、得体の知れない存在が背後にいる。その恐怖心が溢れ出しそうな声を逆に抑え込んだのだ──今声を出したら殺されると本能的に感じて
「……」
司は声も出さず動きもせずその場に立ち尽くすことしかできなかった。
──あのぉ、あれもしかして人形でしたか!? それだったらごめんなさい!こんな無駄な時間を作ってしまった詫びに八つ裂きに切り裂いてあげますので!
言っていることがサイコパスそのものであった。立ち尽くしてやり過ごすのは不可能だと分かった司は恐怖で凍りついた身体を無理やり解凍し意を決して何者かがいる背後へ振り返る。
背後にいた者──それは予想外の存在であった
最後まで読んでいただき誠にありがとうございます。
2話も近日投稿を予定しています!!