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格好つけの若侯爵(若きヴェルディナントの悩み)

 むすりと。


 自分でも本当に珍しいことにハッキリと負の感情が表に出ているのが分かる。

 それに対して目の前の赤毛の男が笑っていることでさらに拍車がかかる。


「…くくくっ…」


「何笑ってる…はっ倒すぞアーロン」


「いやぁ…多分聞くまでもないけど…お前のお姫さまだろ?その顔」


「…………どうしたらいい加減本気にしてもらえるのか…ちょっと弱ってきたよ…」


「今日は何言われた?」


「…いい加減本気にして欲しいと言ったら『いや無理』と」


「だあーーーっはっはっはっ!!!サイッコー!!!」


「…下品なその口に、最近ジルパ国から取り寄せた魚の干物を突っ込んでりやましょうか。吐かないように口も縫い合わせてね」


「冗談。それ最近話題の最っ高に臭いっていうやつだろ」


 目の前の赤毛の男は「んべっ!」と舌を見せてきた。

 嘆かわしいことにこれも貴族で、高位の爵位もちで、自分の友人である。

(ちなみに先程話題に出た魚は、オリヴィアに見せたら「くさや!!」と小躍りして喜ぶものである。)


「まぁこれくらいにして…そもそもスタートが悪いだろ?真摯にそこから訂正しろよ」


「……態度で示しているつもりなのだが」




 _オリヴィアとの出会いは6年前。

 魔導石動力エンジンの開発融資のメンバーだったことだ。

 ローズバーグ家が求めたものは、エンジンとその関連事業の純利益の3%。

 考えたものだと思う。

 融資額は追加メンバーの中ではそう多くなかったが、リターン数値を低く設定しつつ、かつ関連事業もリターンに含めたやり口は賢いと思った。

 ローズバーグ家の嫡男の仕事かと思って調べれば、出てきたのは正式な社交界デビューも前の少女。

 初のお見合いで『個人資産は分散投資してるか』と尋ねご破算にしたという逸話のある少女。


 率直に言って欲しいと思った。


 言っても10歳の少女。

 当時20歳だが…最大限に容姿と財力、それらしい素振りを見せればすぐに好意を寄せてくると思った。

 流石に10歳の少女には手を出すつもりにはなれなかったので、好意を利用して上手く使うつもりだった。

 だというのに、それを見透かし、ドン引きした顔を見せられた。


 _人生初の衝撃だった。


 自慢でないと言っても自慢になるが、外見と生まれから、好意を持たれないことがなかった。稀に嫉妬されることはあっても、それはどう足掻いても、『オーランド・ヴェルディナント』という存在を無視できないという証明だった。


 あんな風に見透かされたのは初めてだった。


 それから理由をつけて構いに行った。行けば行くほど彼女の非凡さがわかる。

 そして驚いたことに、あれだけ投資に優れた彼女にとって「投資」と「お金を稼ぐこと」は手段であって、『目的』ではないらしい。


『私には夢があるんです、だからもっとお金を稼ぐの!』


 そう胸を張って言う姿は、全くもって貴族令嬢らしくない。


 だが…とても格好いいと思った。

 女性に対しての褒め言葉ではないかもしれないが。


 そして彼女が14歳の頃、自覚した。


 彼女を誰にも渡したくないと思っていることに。

 夢を叶えている姿を、傍で見たいと思っていることに。


 だが初対面の印象が悪すぎたせいか、何を言ってもなだめてもすかしても本気にしない。欠片も信じない。

 こちらが噂を振りまいて、お見合い話が来ないようにしているのも『未だに子飼いにしたいのか』と思っている始末。


 そうじゃない、そうじゃないんだ、と説明するには出会って早々のやらかしが赤面もので。


 言葉での訂正もできず、本日に至る。



「言葉なしで伝わるお嬢ちゃんなのかね?」


「……愚鈍ではない、ぞ」


「そりゃ経済面だろ。男女の機微はどうなのよ」


「……それらしいものは俺が片っ端から潰してしまったから……」


「じゃあダメじゃん。育ってねーじゃん男女の機微」


 がくり、と国一番の色男の首が項垂れた。ダメだこりゃ。


「……まー楽しい話はここまでにして。そろそろ行かねーと」


「ああ…そうだな…今回は議題項目が多いから」


「まーた革新的なネタ揃いで。これもどうせお嬢ちゃんだろ?」


「惚れるなよ?ちぎるぞ?」


「どこを?!ていうか惚れないわ!!」


「なんだ、見る目のないヤツめ」


「……お前ほんとユカイな性格になったよなぁ…」


 さてさて、じゃれあいはここまでにして、と赤毛の友人…アーロン・セルヴァンテス侯爵令息は先を歩く。


「行くかぁ魑魅魍魎の議会に」


「そうだな」


 そして必ず勝ち取ろう。彼女の見えているものの一端を。


 そしてなんてことない、という顔をして彼女にさしだすのだ。


 これが俺の愛の形なのだから。

一人称は実は俺。

好きな子には格好をつけたい侯爵閣下です。

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