無理なもんは無理(口に出しちゃいけないやつ)
ふぅ、とため息をついて退席を促すことにした。
「今日は、この後予定があるので。そろそろお引き取りくださいな」
「おや、今日はどこへお出かけだい?」
「動力汽船の竣工式です」
こちら我が家…というか私が力を入れ投資完成してもらった力作なのですよ!!
なんと空飛ぶ船!まるっとしたボディ!
見た目は某ジ⚫リの海賊船!目があ!目があ!の方です。
これで物資の空輸が可能になるし、好き勝手動きやすいと言う訳ですよわはははは!
ちなみにこちら第一号ではない。
すでに先んじて生産はしており、売り出してもいる。
今回はあくまで我が家…というかほぼ私の動力汽船のお目見えということね。
すると目の前のイケメン2号がにっこりと笑った。
「ああ、そうだった。せっかくだ、私もついて行っても?」
「正気ですか?」
にっこりと笑われる。美しい。だが。
「…現場の人たちの胃が破裂するのでやめてください。」
現場からすると、突然の国家重鎮のお出ましなど絶望のサプライズでしかない。
全力でやめていただきたい。
「つれないですね、恋したっている女性の晴れ舞台をみたいという男心を理解して下さらないのですか」
「それを言うなら、小市民の気持ちを理解してください。先触れもなく訪れて、何人を病院送りにするつもりです?」
そこまで言うとふぅ、と何か言いたげなため息を落とし、引き下がる。おや。
「…仕方がありません。今回は確かに急ですね。」
おお、近年稀に見る素直さ。
いつもこうであったらいいのに。
と。
「ですが…」
すっと近寄られ、腰を引き寄せられる。
耳元で囁く声。
「…お土産は、欲しいですね」
コ ノ ヤ ロ ウ 。
「…縫績工場でしたか。確かにいいと思いますよ。ただ」
「…ただ?」
「急速な工場化は、雇用状況の不安定化。具体的には周辺環境への雇用希望者の殺到。結果的に失業者があふれ治安の悪化なども懸念されます…他の受け皿のご用意が必要かと」
「…なるほど?」
「あとは工場の排水などで水質や空気が汚染される恐れもあります。さきにそちらの整備を済ませる方が結果的にはよいと思います。」
「…ほう」
「そしてこれは私の個人的な願いですが、どうぞ雇用環境には気を配ってください。工場主が被雇用者を虐げないよう。ルールを設けてください。虐げれば、後々かならず反発が出ます。長期的な視点でいえば必ず必要です。」
前世の私は気軽な気持ちで「レ・ミゼラブル」を見て死んだ。心が死んだ。それこそ三日くらい立ち直れなかった。
……フォンテーヌ!くう……!
もともと工場はあったが、魔導石の動力化で産業革命の様相を呈している。
だが。
(産業革命は明るい話ばかりじゃなかった…失業者も増えたり、逆に子どもが長時間働かされることになって身体に影響が出たり…)
少なくとも、自分の関わった分野でそんなこと起きて欲しくない。
フォンテーヌのように、不当に扱われ、職を失い、尊厳を、命を落とすような人は出て欲しくない。
(せっかく国のお偉いさんなんだもの。何とかしてもらおうじゃない)
最後の願いを聞いて、暫く考え込んでいたようすだったが、おもむろに背中を撫でられ、こめかみに口付けを落とされた。ひい!
「…流石です。ありがとうございます。ぜひ参考にさせていただきましょう。」
そう言ってやっと離れたかと思えば、苦笑される。
「…そろそろ本気にして欲しいのですが。私とのことも」
いや、こちら子爵家ですよ?
あなた若き侯爵閣下でうさんくさいけどイケメンで国の重鎮ですよ。
「いやそれは無理」
あ、やべ口出てた。
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