この世に、労災も傷害保険金もなかったのよ(真顔)
『本当に…あのとき⚫⚫さんがすすめてくれたおかげだよ…入る時しぶってごめんね』
4歳の頃だったと思う。
うちの庭の園丁が体が、梯子から落ち、怪我をしてしまった。
その光景を見た時に(たいへん!労災申請と傷害保険金請求をしなきゃ!)と咄嗟に思った。
そして(ん?)と違和感を覚えた瞬間、冒頭の誰かの言葉が蘇り、ブツン!と意識がとだえた。
その後は六十路まで生きた人生の一気見である。
熱は出るし吐くしなんなら死線をさまよった。
心配して涙を流す両親を見て(いい両親をもったなぁ)なんて思う4歳児。
ちなみに死因は酒を飲みすぎて肝臓を壊していた。(今生はほどほどにしよう。あとちょっとで七十だったのになぁ)
最初は4歳児の自分に、六十路まで生きた過去の自分が混じりこみ、混乱して泣いた。
両親は熱の後遺症かと思い、大層慌てていたのを覚えている。
落ち着くまでには何だかんだ1年近くかかった。
その間夜泣きしたり、突然癇癪を起こす私を宥めて心配してくれた両親並びに使用人の皆さんには今思っても感謝感謝である。
今は元の自我をベースにいい感じに過去がブレンドされた形である。乗っ取りとかならなくてよかった。両親のためにも。
しかし普通の幼児には戻れない。
落ち着いた頃、父に聞いた。
『父上、おちて怪我をした園丁はあのあとどうなったのですか?』
『園丁…?ああ!よく覚えていたな!半年…いや一年前か?お前がちょうど倒れてしまって焦っていた頃だなぁ』
『怪我してはたらけなくなっていたのでは?生活はだいじょうぶだったのでしょうか?』
『ははは!リヴィは賢い上に優しいな!大丈夫だよ。見舞金はちゃんと払っているからね。』
(見舞金!なるほど!)
『安心しました!ではお給金もその間ちゃんともらえていたのですね!』
『給金…?ははは、リヴィ、さすがにそこは払わないよ。働いていないのだから』
無 給 だ と ??
オリヴィアは激怒した。
直接雇用、いわば正社員である園丁の勤務中の事故で給与保障がないとは何事か!
詳細を聞けば見舞金は怪我の治療費+αくらいだという。
であれば、それと別に給与保障がなければ生活は危うくなるではないか。
家の貴重な人材に対する扱いをなんと心得ているのか!
最初は目を丸くしていた父はだんだん怯えてソファの陰に隠れた。
おこるむすめ、こわい。
(四十路のとき、明らかに仕事の重い荷物で腰痛めたのに、発症したのが夏休み中だったから労災おりなかったのよ!ほんっと腹立つ!!!)
完全に前世の筋違い怒りもしつつ、オリヴィアは猛っていた。
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