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壮絶なる旅路

「……う、ぷ……!」


「駄目そうね…ジンジャーティーよ、できれば飲んだら効くと思うのだけど…」


「…う!今は無理…!!!!!」


 死んだようだった弟は、だだだだだ!と今までが嘘のような動きを見せ。




 うええええええ…………




 吐いたらしい。




 トイレまで持ちこたえたのは、誇り高い彼の矜恃であろう、名無。

 完全に船酔いである。

 今回初の動力汽船(空の旅)だった弟。

 つっけんどんな態度とはうらはらに、ワクテカしているのは表情から分かった。

 が。

 今回の空の旅。

 少々気流が乱れていた。

 小型飛行機に乗ったことがある方は分かるだろう。

 ジャンボ機ならいざしらず、小さな機体はかなり、揺れる。

 初めての船旅の緊張、そして未体験の機体の揺れ。


 哀れ、弟は限界を迎えた。


 ちなみに、姉たる私は最初の旅できちんと吐いたよ★

 その後はちゃんと学習して色々対策しましたわ。…アルにも一応色々対策はさせたんだけどねー…緊張が勝っちゃったかな。


「えーと、アル、もう横向きで寝ちゃいなさい。上向きはダメよ。万が一のとき喉に詰まったら大変」


「……はい、姉上」


 顔面は最早真っ白である。

 いつもの反抗的な様子はまるでない。弱りきっているらしい。


「あと40分もすれば着陸よ。それまでなんとか頑張って」


 その前には座らせなければいけないのだが。

 流石に今は少しでも休ませてやりたい。


「…」


 弟は言葉を返すことも無く、少しだけ頷いてみせた。


 ほんのちょっと。


 ほんのちょーーーーーっとだけ。


 可愛いなと思ってしまったのは、本人には言えない。

 言ったら多分、殺される。









「……酷い目にあった………」


「いやまぁ、今回はちょっと私もキツかったから仕方ないよ」


「…慰めはいらないです…」


「初めてだから本当に仕方ないって!…今日は温かいスープを飲もう。力が出るよ」


「………はい」


 むすっとしながらも、素直に応じる。

 うーん、正直いつもこれくらいだと有難い。




 あの後。

 なぜフランテ王国が革命の危機にあるのかを、滔々と説明させられた。

 フランテ王国は隣国ではあるが、決して長らくの友好国であった訳では無い。

 100年遡れば、血で血を洗う戦争も行っていた。

 条約も締結し、友誼を結んだとはいえ、お互い油断のできない相手だ。


 ー魔導石動力の研究成功は、恐らく、フランテ王国にとって脅威だった。


 技術提供はあったとはいえ、先を進んでいるのは開発国。

 フランテ王国は、魔導石動力の研究と、軍事転用に力を注いだ。あまりに急ぎすぎた。

 多くの税金が軍備金に回る。

 そして残念なことに、魔導石動力による工場化の推進の裏で、多くの失業者が生まれ、その対策が疎かになってしまっていた。

 当然、民衆の不満は高まりつつある。

 おり悪く不作が続いてしまっていることも、物価の高騰に拍車をかけてしまっている。散々だ。


 ーこのままでは間違いなく、革命が起こる。


 そう結べば、弟は難しい顔をして言った。


『姉上は、何かするつもりなんですか。それに対して』


『…うん、この流れを変えることは難しいと思う。だから私のできる範囲で、だけど。まずはフランテ王国の商会と取引をしようと思ってる』


『…姉上。僕は姉上の考えていることが分かりません。』


『う、うん』


『姉上のやろうとしていることも理解できない…けど、その意義を僕には見極める必要があります。それは僕に足りないものだから。ローズバーグ家の人間として、今必要なものだと思うから』


『僕もついて行かせてください。』


『僕はローズバーグのであることを誇りに思いたい』


『俯かずにいるために、ついて行かせてください』



 その結果が冒頭の嘔吐である。誠に申し訳ない。

自分で巻き込まれてしまった弟。

哀れ。

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