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ユージーン・コリントス伯爵令息の友人は

「出たな女泣かせ(ローズバーグ)


「ひどい言い草だな、ユージーン」


 人間、思いもかけないものを目にすると、咄嗟に暴言が出るらしい。俺調べ。

 目の前で苦笑する、人の良さそうな美青年。

 その印象をまんま受け取ると、痛い目にあうということは少年期に学んだ。


「何がひどいもんか。俺がいいなって思った令嬢()は軒並みお前にいっちまう!当たり構わず惚れさせといて、そのくせ誰とも深い仲になりゃしない?逆に罪作りだろ。正当な意見だ正当な」


「失礼だなぁ…俺は何もしていないよ。大体、(ふるい)にかけたと思えばいい。ユージーンを放って俺に寄ってくるなんて、見る目が無さすぎる」


「それには同意してやるよ。見た目だけじゃなく、お前の腹黒さを加えたら、誠実な俺の圧勝だね」


「あとはそれを見抜ける女性が現れるだけだね、いやぁ…あと30年後くらいかな?楽しみにしておくね」


「うるせー!!…てか何しに来たんだよ?普段お前ほとんど大学部なんて顔出てないだろ」


「必修科目はちゃんとやってるさ。今日はまぁ、ワロキエ教授に用があってね」


「ワロキエぇ?…お前、次は何企んでるんだよ」


「おいおい、何で俺がワロキエ教授に会いに来たら悪巧みになるんだ?」


「……お前がチョコ工場に携わる前は、食道楽のテナンの馬鹿、魔導石動力の改良に手を出す時は、鉱山持ちのアビゲイル嬢。可哀想に、他にも他にも…すっかり骨抜きだ」


「みんないい友人だし、今だって交友は続いてるよ」


 信用がないなぁ、と嘆いてみせるが目が完全に笑っている。

 こいつの人当たりに騙されるやつは哀れだ。こいつほど、人の一挙手一動を面白がるやつなんていないってのに。


「でも本当に何でワロキエ教授よ?高分子…化学だっけ?専門外だろ。そもそも長期休暇中にわざわざアポ取って来るって何事よ?」


「うるさいなぁ、根掘り葉掘り遠慮がない…厄介なやつに見つかったなぁ」


「いや本当お前にだけは言われたくねーわ!!」


 思わず勢いよく返せば、声を出して笑われた。

 楽しそうですねコノヤロウ!


「あーもう…真面目に返すとワロキエ教授なら「ジョシュア様!!」」


 心優しい俺が、目的の人物の行方を教えようとした瞬間にそれを遮る甲高い声。うげ。

 目の前の男も、一瞬だけ目を陰らせた。といっても多分俺しか気づかない程度。


「これは…オルコット令嬢、休暇中にこんな所でお会いするなんて驚きです」


「ターラとお呼びになって結構よ。エマーソン伯爵家での夜会以来ですわね」


 ぐいぐいくる見事な金髪。由緒正しいオルコット伯爵家の3女だったか。ちなみに俺も夜会にいたんですがねー無視ですねーむしろ見えてないですねー。そして能面(お付の人)も俺を無視なのね。


「なんという光栄…私のような若輩が、オルコット家の令嬢を名前でなんてお呼びできません。美しい方には敬意を払わなければ」


 やんわりと名前呼びを拒否。しかし相手を不快にさせないやり口。お見事です。お前の猫何匹いるん?


「まぁ…なんて思慮深い方なのかしら。うふふよろしくてよ、(わたくし)をたてる方でないと、とてもお父様もお付き合いを許して下さらないわ」


 わぁ本当にぐいぐいくるーー。外から見てると面白ーーい。でも完全に存在消されてるーう。

 ていうかその発言は色々令嬢としてギリギリでは?お嬢様?


「オルコット家の当主であれば目も厳しくなるというもの。当然のことでしょう。至らない我が身を恥じ入るばかりです」


 遠回しに遠回しにお付き合いご遠慮してるけど、多分通じないぞ?妖怪猫かぶり。


「ふふ、謙遜はよろしいわ。…それより、来月のゴッダート家のパーティー、エスコート役の兄上の都合が悪くなってしまったの」


 ちらちらと様子を伺う顔。流石に直接は誘わないのね。


「なんとそれは…残念です。ですがオルコット家の令嬢とあらば、申し込みも絶えませんでしょう。羨ましいことです、わが妹とは大違いだ」


 あ、面倒くさくなったな。カード切ってやがる。


「ジョシュア様の妹御といえば…あら…」


 途端に曇る顔。ジョシュアのキラキラで、『あの娘』の存在を忘れてたな、このお嬢さん。


「ええ、不肖の妹でして。今も外国を飛び回っているんですよ。兄としては心配なのですがね」


「そ、そうですわね…!私のような年長者の指導があれば良きように変わるかもしれませんわよ!」


 あ、しぶとい。しぶといぞお嬢さん。


「なんと寛大なお心遣い…有難うございます。実はここだけの話、妹のアレは母譲りでして…」


「…え?…」


「『ヴァンダールの跳ね馬』」


「!?」


「父なんかは面白おかしく、母がそう呼ばれていたなんて話すんですがね。息子としては心配ですよ。母は『跳ね馬』、妹はアレですからね。私自身も縁遠くなってしまいまして」


「そ、そうですの…」


「といっても大切な家族。両親は生涯側で孝行したいですし、妹も嫁ぎ先が見つかるまではしっかり見てやろうと思ってまして」


「!!!!よ、よいご縁が見つかるといいですわね!!では私はこれで!!!」


 登場に負けず劣らずの素早さでお嬢様(と能面)は去っていった。

 後に残るは上機嫌な男。


「やぁ、流石はわが愛しの家族。効果抜群だね」


「…ねぇお前、本当に1度怒られたらいいと思うよ。リヴィちゃんはともかく、アデライード様はまずいだろ」


「まずいわけあるか。うちの父の定番惚気話だぞ。一定年齢以上の貴族ならまぁ知ってるネタだ」


「それが惚気話になるって本当に凄いわ…まぁいいや…ワロキエ教授ならサロンにいたぜ?他にとっつかまる前に行っとけよ」


「そうか、ありがとう、ユージーン…ときにうちの妹なんだけどね、貰う気はないかい?」


「ば!お前俺に死ねっての?!侯爵に首切られて死ねっての?!」


「いやぁ…俺としてはお前みたいないい男に妹をやりたいんだけどねぇ」


「いーやーでーすー。リヴィちゃんは可愛いけど俺は死にたくありませーん。とっとと行けー」


 残念だなあ、と笑う男。

 少年期、俺はこいつを、成り上がり子爵家と馬鹿にして、笑顔でけちょんけちょんにのされた。しまいには馬糞を踏まされるハメになった。

 ユージーン・コリントス、絶対に縁続きにはなりたくありません。友人でお腹いっぱいです。

 ふと思いついて口にする。


「そう言えば、リヴィちゃん外国ってどこ行ってるんだ?」


「ああ、フランテ王国だよ」


「フランテ?」


「うん」


 そう言ってにっこり笑う。


「今頃空で吐いてるんじゃないかな?」

兄は自由人。ローズバーグ家の子は伯爵家に何かしらやりがち。

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