最悪の未来
「そもそもとして。新興貴族と呼ばれる方々の殆どは、平民から陞爵された方々、ないし有力な商会などを取り込んで力を増された方達。彼らは何故貴族としての身分を欲したか、わかる?」
「尊い、身分だから、名誉があるから、という訳ではないんですよね………貴族にしか、できないことがあるから?」
「具体的には?」
「…自分たちのやりたいことをするための法整備、とかですか?」
「漠然とはしてるけどまぁ当たり。どんなに資金力を持っていたとしても、貴族制度、分かりやすく上に立つ存在がある限り、最悪貴族に妨害される恐れがある。新興貴族でも嫌がらせや圧力がかかることもあるけど、貴族同士のコネクションを使えば、逆に法整備を推進することも出来る。つまり」
ふ、とここで息を吐く。
「貴族にしか入れない場所に入ることが出来る」
「貴族にしか入れない場所?」
「もちろん貴族議会よ」
「?貴族議会のメンバーは一部の伝統貴族だけのはずです!」
「構成する代表議員はね。少なくとも侯爵ないし辺境伯以上。だけれど彼らを代表議員たらしめるのは?爵位だけじゃない。いかに影響力のある支持者を自分に集め、代表たらんとするか。では影響力のある支持者とは?」
「っ…それ、は」
「勿論、伝統貴族だって、歴史がある。コネクションがある。ないがしろにはできはしない。でも社会に多大な影響力を持ち、資金源も豊富な新興貴族。彼らを蔑ろにする理由はない。むしろどこも自分の傘下に組み込みたくて必死。そうやって今の貴族社会は出来た。新興貴族達を『成り上がり』と蔑みつつ、切り捨てることが出来なくなった。けれど」
「実際問題、新興貴族の力は、いえ平民の力は増している。一次産業から二次産業、今は三次産業までなり手が広がり、平民層の消費力も上がった。経済の回し手が、貴族から平民に移ってきているわ…実際近年の、ここ1帯の新しいお店のターゲット層はほぼ平民向け。気づいていた?」
国民の9割は平民だ。力のない時は、1割の貴族が管理していても全く問題なかった。
何故なら貴族は、絶対的な権力者であり、庇護者でもあったからだ。
だが今はそのパワーバランスが崩れはじめている。
消費は力だ。少なくとも、社会の方向性を変える力を持つ。
「…平民が、力を持ってきたのは理解しました。でも、それでも施政者として王が、貴族がいる限り、力を失う、ということが有り得るのですか?」
青ざめた表情で、恐れを感じながらも、尋ねてくる。
怖いのは当たり前だ。
貴族というものが成り立たなくなるということは、自分の足元が崩れていくような思いだろう。
それでも、逃げずに、現状認識をしようとする弟を、眩しい思いで見つめる。
「逆に問うわ。力を持ってきた平民、ならびに新興貴族達。彼らにとって目の上のたんこぶは誰?」
「え」
「そんじょそこらの貴族よりも力を持った商会や、組合。彼らは自分たちに都合のいいように社会を回していきたい。その時に足枷になるのは、誰?新興貴族は上位組織の一部になることで、上位組織そのものを回していこうとした。ただ上位組織自体のパワーが落ちてきている。この場合、次に彼らはどうしていく?貴族になったのはメリットのため。そのメリットが少なくなったら?」
「あねうえは」
震える唇で、つむぐ。
「あねうえは、何を言ってるのか、分かっているんですか…?!それは謀反が起きると言っているようなものですよ?!」
「最悪の場合は、そうなると思ってる。そしてそれは『謀反』じゃなく、『革命』になると思ってるわ」
かくん、と。
糸が切れたように、目の前の体から力が抜けた。
ごめんね、常に最悪の想定はしておく主義なのよ。




