振り切ったやつほど怖い
「い、今なんと仰いまして?アルくん…」
藪から棒に、弟の口から飛び出した言葉に動揺が隠せない。
落ち着け、そんなはずはない。この子は私と違って品行方正なんだから…!
「何ですかその呼び名。気持ち悪いんですけど。あと奇行に加えて耳まで悪くなりましたか」
「『アンタの考えてること、洗いざらい全部吐きやがれ』って言ったんですよ」
弟がグレた。
状況を整理してみよう。
→オーリー様に対するプレゼン(にもなってない…吐ける)に失敗。
→応接室で反省会中。弟(関係性悪し。ここ1週間ろくな会話なし)が突撃。
→対談の心の準備もない中、いきなり「姉上、アンタの考えてること全部はきやがれ」と言葉でビンタされる。
うん。
わからん!!!
というか…
「ど、どこでそんな言葉遣いを…っううっ…お姉ちゃんショック…!」
「普段の姉上の奇行に比べたら屁でもありませんよ。ちょっとはこれを機に自分を省みてください」
ふん、と鼻で笑われる。わぁ、そんな顔も様になるー。さすがツンデレ美少年~…て!!
「へ?!屁っていったぁ!!うそだぁうちのアルくんはそんな事言わないんだからぁ!!!」
「そうですね、今までは言いませんでしたね。でも姉上にならもういいかなと。姉上ですし」
「う?!今までになくストレート…で、でもアルらしくない~!小さな紳士だったじゃん!私がいくらダメでも、それに対して自分の紳士道曲げなかったじゃんーー!!嫌味は言っても、品のない言い回しはしなかったじゃーん!!」
「今までの僕じゃ、あなたがちゃんと向き合わないからでしょう!」
虚をつかれた。
「あなた、今まで僕が言ったこと、真剣に向き合ったことないでしょう!」
「そ、そんなことないよ!アルをいい加減に扱ったことなんて…」
「僕が!たくさん色んなことを言ったとき!あなたは困ったような顔しかしなかった!」
そんなこと、と言い返そうとして気づく。
『姉上、何でせっかく誘ってもらったお茶会、断ったりしたんですか』
『姉上、刺繍とかダンスとか家政学とか…ご令嬢の教養をなんで学ばないんですか』
『姉上、どうして投資の真似ばかり…』
度々繰り返された弟からの諌言。最初はただ不思議そうにしていた。それが段々と厳しいものになってきて…
『や~…苦手なんだよねぇ…お茶会とか…それより好きなことしてたいっていうかー』
『うーん…必要性が分からないって言うか…』
『……ごめんね、アル…』
そうだ。
いつもいつも、はぐらかしていたのは。
ちゃんと向き合って、話さなかったのは、私だ。
「あなたのことが大嫌いです!いつもいつも…貴族らしくない、品のない行動ばかりのあなたが!」
「僕とちゃんと向き合わないあなたが!」
「だいっきらいだ!!!」
どうせ理解してもらえないと。
それなら好きにやって、分かってもらえる人にだけ、分かってもらえばいいやと。
ちゃんと向き合うことを放棄した。
「どうせ、今まで通りに話して『大嫌い』と伝えたところで、あなたは僕と向き合わないでしょう」
「それ、は、」
「『今まで通り』ならどうせ気にも留めなかったでしょう…どうせ、『いつものこと』だからって…はは」
否定が出来ない。アルに拒否されるのは『いつものこと』だ思っていた。理解されるはずがないと。自分は変えられないし、仕方ないと。
だから。
「ざまあみろ」
咄嗟に。
咄嗟に、抱きしめていた。
振り払われるかも、とか拒否されるかも、とか、考える余地すらなく。
そうしなきゃだめだと、思った。
「……何、抱きしめてるんですか……」
意外にも、振り払われることなく、腕に収まった体。
まだ私より小さな体の…私の弟。
「ごめん…ごめんね、アル…」
「…何に対して謝ってるんですか?今までの自分の行動を?これからはちゃんとした淑女になってくれるんです?」
「違う。それにそれは出来ない。謝ってるのは、私が、アルの言う通り、ちゃんと向き合ってなかったこと」
「アルにちゃんと、『私がどう思って』、『どうしてこんな事をしているのか』、て話さなかったこと」
向き合って、理解されなくて、嫌うなら仕方ない。
でも私は、ちゃんとこの子と向き合うことすらしてなかったんだ。
その選択肢すら、与えなかった。
ー嫌うのなんて、当然だ。
「ごめんなさい、アル」
「……許しません」
「…うん」
「許しませんけど、謝罪は受け取ります。ちゃんと向き合ってくれるなら」
「うん…!」
ぎゅっと抱く腕の力を強くする。
いっぱい傷つけてごめん。
不名誉な噂で傷つけてごめん。
その釈明すらしなかった…本当にダメな姉でごめん。
思いつくまま、言葉にする。
自己満足だとしても。
ちゃんと、アルの受けた痛みを、考えて、ちゃんと向き合いたいと思いを込めて。
「…ちゃんと話してくれますか?姉上が考えていることを」
「勿論だよ…!これからはちゃんと話すから!」
「言質とりましたよ?」
がしっ!と肩を掴まれる。
え。
ちなみに私はまだアルを抱きしめていた。
そこから肩を、あらん限りの力で掴まれ…捕まえられている?
「あ、アル?いだだだだだ?!肩痛い肩痛いから!」
「さぁさぁ姉上、ちょうど折よく応接室ですしね?立派なソファもありますからね?」
「そ、ソファへのエスコートはもっと優しくしてくれないかなぁ?!折れるめり込む!私めり込んじゃう?!」
「実は申し訳ないんですけど。侯爵閣下との対談、こっそり聞かせてもらってたんですよね」
「え゛」
あのクソみたいな提案を。
「あの稚拙な馬鹿らしいとんでもない投資話をですよ」
「ぎゃああああーーーーーーー!!!!」
身内にあんな所を聞かれていたなど、これ以上ない辱めである。
「よくあんな提案したなって思いました。姉上らしくない」
「やめてぇ…それ以上…私の傷口に塩振りかけて擦らないで…」
「らしくなさすぎましたね。らしくないからこそ、何かあるんだろうなと思いました」
ぴたり、と動きが止まる。
思わず顔をあげると、驚くほど大人びた弟の顔があった。
「姉上、あなたは本当は何がしたいんですか」
誤魔化すことは許しませんよ、言質とりましたからね、という副音声も何故か一緒に聞こえてきた。
弟の逆襲。
今週はあと1話くらいあげられそうです。
なかなかあげられず、申し訳ありません…
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選択肢が多くて申し訳ありません。。。




