失敗の苦い味
「彼らの病理学、法医学、衛生学などの医療分野における発表は、目を見張るものがあります。今後の社会において絶対に必要で…」
「リヴィ」
熱を込めて伝えれば、驚くほどひやりとした声に止められた。
「貴女の言いたいことは分かりました。確かに彼らの研究は、今後役立つ可能性があるのでしょう」
口を挟むことが出来ないほど、冷たい声音だった。
「今後。便利な言葉です。ですがそれはいつですか?いつ投資の採算が取れるのでしょう?それが具体的にどれほどの利益が見込めるのか。我々投資家に必要なのはそう言った情報では?」
「それは…」
「今貴女が仰った分野は、確かに今後の社会に必要です。必要で、かつ利益が見込めるのであれば投資します。ただ、必要だからと投資して、損をするのは御免です。私には」
「この研究グループに投資しなければならない理由が思いつかない」
お茶も冷めてしまいましたね、と言葉を締められる。
「…今日はこれで失礼させていただきましょう。ご期待に添えられず申し訳ありませんが…リヴィ」
「は、はい」
「……今日の貴女はらしくない。冷たいことを言って申し訳ないが、少し冷静になられることをお勧めしますよ」
また近々お会いしましょう、そう言って髪に口付けられてから、侯爵は立ち去って行った。
見送ってから、数秒後。
「……やっちまったわ………!!!!」
オリヴィアはその場に、崩れ落ちた。
「あれ、なんか今日は、いつもと違う顰めっ面だな」
会った瞬間に、悪友に指摘され、さらに凶悪な顔になる。
「…お前は俺の顰めっ面の種類がわかるのか」
「いや、お姫様にいつも会ったあととは、なーんか違う顔だなと」
「…ああ…お前にそれだけ理解を示されるというのは気持ち悪いが」
「酷くない?!お前さん?!」
「当たってるな…彼女に新しい投資話をされたのだが」
「あら珍し。そんな話いつもならウキウキじゃない」
「…いつもならな。らしくなかった。情熱や未来予想などばかりで、現実的なメリット、デメリットの着眼点が薄くてな」
「あら?あら?さらに珍し!あの成金令嬢が?」
「…おい!」
「あ、ごめんネ?でも俺的には褒め言葉よ?夢物語だったわけ?」
「…着眼点自体は悪くない。が、あまりにも投資話としては危うすぎる。必要なものの割に、得るものが未確定で少なすぎる」
「ますます珍し!…うーん…なんか冷静じゃいられなかったのかね?それこそ夢だったとか?」
「…?どういうことだ?」
「ほらぁ、人間て手に入れたいものがあると、つい興奮して暴走しがちじゃない?悪いとこに目をつむりがちというか。それこそ投資してくれって奴はそんな輩が多いだろ」
「…」
「どうしてもやりたいことだったのかねぇ、ちゃんとフォローしたんだろ?」
「……」
「やだなにその沈黙」
「…『冷静になってから会いましょう』と…」
「……ヤダーヤダー最低よこの男!そこは優しく諭してフォローする所じゃないのォ?!」
「気色の悪い声を出すな!いや、俺も冷静じゃなかったというか…」
「お前、本当にお姫さまとどうこうなる気ある?投資仲間希望じゃないのよ?今のところ、男としていいとこないんじゃ?」
「……」
「後でフォローしときなさいよォ!」
「…………わかった」
「聞いたか?あの成金令嬢、今度はプロイスト公国に向かったらしいぞ」
「は?この間までフランテ王国に行ったと聞いたが?」
「儲け話となると飛んでいくのだな。まるで蝗じゃないか、ははは!」
「まったく…貴族の片隅にも置いておけない…」
そんな雑談を尻目に。
「……オーリー君はあれから最近お姫さまに会えたのかなぁ?」
「………もうずっと海外でな、出した手紙を読んでいるのかどうかさえ……」
「…」
「……」
「………リカバリー、できたらいいね」
そこには、崩れ落ちる若侯爵の珍しい姿があったとか。
本日はここまでです。
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