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兄から弟への課外授業

「すごい…!!これがチョコレート工場になるのですか?!」


 目の前の光景に思わず感嘆の声をあげる。


「ああ、そうだよ。動力エンジンのおかげで機関部が安定したからね。色々な工程で機械化が出来るようになったんだ…例えばそうだねこれを見てご覧」


「こちらの機械ですか?」


「手は触れてはいけないよ…これはカカオを均等に潰す機械だ。先では更にこれを篩にかける。これによりざらみの少ない均一なチョコレートが出来るんだよ。」


 その前には豆の選別、ローストして皮を割る、などの工程もあってね…と兄が説明してくれる。

 それをひたすら憧れの目で見つめ、聞き入る。

 勿論これを開発したのは兄ではない。

 ただこの事業に可能性を見いだし、投資を行った。その事がひたすら誇らしい。


 ―この事業は絶対成功する!兄上もジェンダ男爵もなんて素晴らしいんだろう!


「…さすがです、兄上…」


「私なんてまだまだだよ。チョコレートは元々人気菓子だしね。そこにジェンダ男爵が絡むとなれば尚更事業の信用性は高い」


「そもそもジェンダ男爵から投資を求められることがすごいと思います。」


 あの方は穏やかな方ではあるが、事業に関しては厳しく、眼鏡にかなったものでないとそもそも話すら聞けないと噂だ。

 だからこそ男爵という身分でありながら、あそこまで力をお持ちなんだろうけど。


「ありがとう、弟からそんな風に褒められるとは嬉しいものだね」


 照れたように兄上は笑われて、じゃあ歩きながらもう少し課外授業をしようか、と言われた。


 工場から出てもまだ興奮が冷めない。

 歩きながら話すのは、少し冷静になっていいかもしれない。


「さぁ課外授業の続きだ。ここから南東にある我らが領地、ダービル。強みは何だい?」


「ええと…まずは位置がいいです。産業と港のあるここ、レンプトンとは大きな街道が通っている。王都とは距離がありますが、レンプトンは海外航路の発着地になっています。輸入、輸出に関してこれ程いい立地はないかと。」


「うん、よく勉強しているね。付け加えるならば、動力エンジン車などでより迅速な物の動きが可能になった。もともとは穀倉地が多かったけれど、それによって加工品を作ったりする動きも活発になった。レンプトンからダービルを伝い、最終的には王都にも流れる。王都から距離はあるけれど、立派な影響力をもった地域になったね」


 一息をついて続けられる。


「少し前はここまでうまくはいかなった。王都と距離が有りすぎたんだね。日が経っても影響しない輸入品を王都まで届けるか、日持ちしないものは近隣で消費するしかなかった。だから品目は限られるし、輸入輸出に関して大きく利益が変動することもなかった」


「その時点で加工品にする訳にはいかなかったのですか?」


「当時は動力エンジンがなかったのだよ。工場化するにしても、人手がいるし製品が安定供給出来なければ利益見込も不鮮明だ。当時のダービルではそこまで人手が集まるかも不明だった。工場は初期投資もランニングコストもかかる。はっきりとした利益が見込めなければ手は出せなかった。有名工房品は数に限りがあるし国内需要も高いから、輸出まではなかなか回らない」


「動力エンジンで機械化工場をつくる…初期投資もランニングコストも相変わらずかかるね。でもどれくらい人手が必要かは分かる。…必要人数は機械化前に比べると格段に少なくて済む。そして安定生産は出来る。安定生産が可能なのであれば常に需要が求められているものー例えば消耗品、縫績産業は確実に利益を出せる。あとは…」


 にこり、と微笑まれる。


「貴族でも人気のある…チョコレート、なんかね?」


 はぁ、と思わず息をつく。

 今日何度目かともしれない、感嘆の息だ。

 やはり兄と話すのは楽しい。


「やはり兄上はすごい…」


「…私は既存のものに手を出しているに過ぎないよ。全くの新しいものは中々手が出せないしね。さて、事務所に戻ってきたね」


 兄はこの執務室を『事務所』と呼ぶ。

 事業などの事務をはくから、だそうだけれど。


「少し喉が渇いたな。お茶に付き合ってくれるかい?」


「あ、はい!お付き合いさせてください!」


 温かい紅茶を飲みながら話を再開する。


「ダービルは勿論だが、レンプトンもここ数年の成長は目覚しい。ここへ早々に拠点を持たれた父上は流石だよ」


「父上の手腕なのですか?」


「ああ、そうだ。父上は手堅い経営や投資をなさるからあまり目立たないかもしれないが、とても優秀な領主であり、投資家だ。」


 意外だった。父上はどちらかというと家族に甘く…あまり目立った話を聞かないから。


「お前もローズバーグ家の人間だ。そして我が弟ながら優秀だと思ってる。誇りに思っているよ」


 頬が熱くなる。憧れの存在に認められた。

 それが心から。


「…ありがとうございます…そう言っていただけると、とても誇らしいです。」


「…だからこそね。そろそろ長期的な…多角的な視野を得て欲しい、と思っている」


「……それ、は?」


「…これはあくまで、ここだけの発言だが」





「我々貴族は、遠からずその力を失うだろう」



なかなか終わらぬ兄から弟への指導…

この間主人公は好き勝手やっています。

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