ラピスラズリの憂鬱
弟のターン。
ガタン!バタン!と忙しなくドアが開閉する音がして、ああ、『あの人』が帰ってきたんだなと察する。
気が重い。
あの人はいつも嵐のように騒がしい。
溜息を零しながら、今まで読んでいた本に栞を挟み、席を立つ。
儀礼的とはいえ、出迎えなければな行けない。
どんなに恥知らずだとしても、あの人は『姉』なのだから。
「父上、母上!ローズバーグが一女オリヴィア、ただいまシェン国より帰還致しました!」
「おお…!お帰りリヴィ!予定より少し早い帰還だな?言ってくれれば港まで迎えをよこしたものを」
「まぁリヴィ貴方…そのような格好でまた帰ってきたのですね。今更ですけどせめて着替えてから帰ってらっしゃいな…どうせ聞かないんでしょうけれど」
ふう、と溜息をつかれる母上は、それでも目は嬉しげだ。
僕としてはもっと強く注意してくれればいいのにと思う。
相好を崩して出迎える父上なんて以ての外だ。
「申し訳ありません、時間が惜しかったものですから!それにこの格好、素敵じゃありません?動きやすいしすっかり気に入ってしまいました!」
くるっとその場で回ってみせる姿に眉を顰める。
灰色で少し癖はあるがたっぷりとした髪は1本に。
青地に銀糸のシンプルなピーコート。
そこから覗く足は…ドレスやワンピースではなくトラウザーズ…庶民が履くような形のズボン。(何やらやたら頑丈そうな布地ではあるが)
靴は膝まである皮の編み上げブーツ。
どこをとってもひとつも令嬢らしくない。
不快感が募る。
「お土産買ってきたんですよ!ジョシュ兄上はお仕事で出られているのかしら?アレンは…」
ふ、と視線を巡らされ、ひた、とそれがかち合う。
その顔に一瞬走った緊張を、僕は見逃せない。
ああもう。
「アレン!アル!ただいま!お土産買ってきたのよ!」
「お帰りなさい姉上。僕はこれから出かけますのでお構いなく。無事帰られて何よりです。」
一息に言って横を通り抜ける。
「姉上。お金稼ぎもいいですけど最低限のマナーは守ってください。そんな格好で動き回って、喜んで、とても恥ずかしいですよ」
ばたん、と扉が閉まる瞬間に言い捨てる。
言ってやった、という興奮と、言ってしまったという後悔。
正しいことを言っているはずなのに、言った僕が苦しくなる。くそ。
俯くとちらりと目に入る、灰色。
父譲りの、兄と同じ…姉と同じ灰色。
兄と姉は目の色まで一緒だ。父譲りのローズクォーツ。
僕は母譲りのラピスラズリ。
本当に小さい時は泣いたことを覚えている。
『どうしてぼくだけ色がちがうの』
『あにうえとあねうえと一緒のピンクがよかった!』
そういってどうにもならない事で泣きわめいた。
そんなとき手を取って…姉は言った。
『アルの目は幸運を呼ぶラピスラズリよ!知ってる?ラピスラズリって最強の幸運を呼ぶのよ!最強の幸運をもたらしてくれるアルは最強なのよ!!』
そんなふうに手を取り、笑って…
あの時は姉のことが大好きだった。
大好きだったのに。
今はこの灰色が恨めしい。
いっそ母とおなじブルネットがよかった。
『見ろよ、ローズバーグだ』
『ああ…あの成金な』
『恥ずかしいよな…実の姉があんな拝金主義だなんて』
『貴族の誇りを何だと思ってるんだろうな』
『俺は同情するね…自分の姉があんなんじゃなくてよかったって心底思うよ』
『金の力で侯爵にまで取り入ってるって話だぜ』
『本当に恥知らずだよな』
『恥知らず』
『恥知らず』
『恥知らず』
どれだけ目を瞑っても、懇願しても悪意は消えなかった。
耳を塞いでも、どうしても悪意はずっと追いかけてくる。
姉のことが嫌いだ。大嫌いだ。
ずっと好きなままでいさせてくれなかった、姉が、だいきらいだ。
反抗期+愛憎のもつれ(なんか違う)
身近な家族ほど、大好きで大嫌いになりがち。
アラン・ローズバーグ(13)
重度の拗れたツンデレシスコンボーイです。
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