表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/30

幼なじみもどきは、悪友で親友

「いや~やっぱり現地は来るに限るわね!話と違うことなんてザラにあるし、信頼関係が違ってくるわ!」


「だからって子爵家令嬢が直接乗り込むとか、本当にねーからな。今更言っても聞かねーだろうけど」


 ウキウキ気分で屋台の並ぶ市場を歩けば、呆れたようにエイベルが窘めてくる。

 ちなみに外国人の、育ちの良さそうな若者二人組で歩くなんて正気ではないので、ちゃんと護衛にはこれみよがしに付いてきてもらっている。


「よーく分かってるじゃない。そーよー現地視察出来るのにしないなんて怠慢だわ!今回は実際来てみて大正解だったわけだし」


「まぁなぁ…何なんだろうな、お前の嗅覚…」


 今回は私は東にあるシェン国にお茶の契約農家を探しに来た。

 自前の動力汽船も出来たし、空輸で仕入れようと思ったのだ。


 シェン国は前世の中国茶のようなものが多い。現在は海経由で仕入れるのが主流だが、なにぶん時間がかかる。それに海の船で輸入を運行するとなると、大型船が必要だ。さらにその大型船の積荷をいっぱいにして運ばなければ損がでることも少なくない。空輸であれば早い上に、大型船ほど積む必要がない。輸送コストも安い。いい事づくめだ!


 そこでわざわざ人伝に紹介してもらって来たわけなのだが…


「まさかゴミで嵩増ししたものを買わせようとするとはね。来てみてよかったわ。結果他の農家と、より良い値段で契約を結べたわけだし」


「紹介者の顔を潰すだろうになぁ…」


「紹介者にも直接は知らない、と前置きと注意はされてたのよ。所詮小娘とおもったんでしょ。あとこの国に限らず、外国人相手にこの手段をとる輩は多いわよ。ジェンダ男爵がカカオを仕入れようとして、袋いっぱいの石を寄越されて、カンカンに怒ってた話知らない?」


「あー…聞いたな。あの温厚な男爵が凄い剣幕だったって聞いたことある。」


「取引先が南方のエフマンで、海経由で時間もかかるからまんまと逃げられたって話されてたわ。いい教訓にしてくれですって」


「…もー…本当に人がいいなあの男爵」


「それだけではないけどね。本来やり手だもの」


 話に出たジェンダ男爵は輸入業で一財築かれた方だ。これまでは海、陸路を主体にされていたが、動力汽船にも興味を持って、現在購入検討中らしい。ぜひよろしくお願いします。


「…まぁ男爵もだけど、お前もなー。お前に付いてくと本当にいい勉強なるよ。ありがとな今回も」


「どいたまっ!悪い勉強もいっぱいだけどね。伯爵令息らしくない言葉使いおぼえちゃって!」


「違いない、それも間違いなくお前のせいだわ」


 屋台で買った謎の串焼きを、躊躇い無く頬張るくらいにはエイベルも逞しくなった。

 こうして見ると、妙に小奇麗なことを除けば下町に上手く馴染めるようになったなぁと感慨深い。

 もっとも最初は半べそかいていたが。


「今回は?こんなもんか?」


「そうねぇ、他の物も出来たら見てみたいけど。今回はあんまり見る時間ないのよねぇ…」


「空輸に向いてるって言ったらあんま嵩張らないものか…シェン国は絹も有名だろ。手を出さないのか?」


「うーん…絹に関しては既得権益が強すぎるからねぇ…うちレベルだとちょっと手を出すの怖いわぁ…」


「お前のとこ家格はともかく、保有資産でいえば下手なとこ手を出せないだろ。」


「ばーか。それでも王妃様の御生家、敵に回せるわけないでしょ」


「おー…おっかね。そりゃ無理だわ」


 雑談をしながら、屋台を通ると店の並びが急に変わった。

 小間物屋のゾーンに出たらしい。


「今回はお土産買っておしまいかしらね!何かいいものないかしら?」


「お前毎回お土産こういうとこだよなぁ…ジョシュア様とか喜んでくれるの?」


「逆よ。無駄に高いものよりこういう現地の生活が見える物の方がジョシュ兄上は好きなの!アレンは…受け取っても貰えないけど…」


「……あー……根が深いな、どんまい」


 うう、弟のアレンは最近口も聞いてくれない。理由は明らかで私が『成金令嬢』の名を欲しいままにし、訂正する素振りも見せないからだ。


「…アレンもそれでからかわれたりしたってな。悪名を広めた身としては…俺も責任を感じる…」


「いや…元を辿ると全要因私だからね…」


『姉上なんて大嫌いだ!』と叫ぶ可愛い可愛い弟の姿が瞼に浮かぶ…ごめんな、本当にこんな姉ちゃんで。


「でも変えられないんだろ?」


「うん、変えられない。目標があるんだもん」


 こればっかりは。

 いくら可愛い弟のためと思っても、譲れない。

 ずっとずっと12年間も、思い出したあの日からずっと抱えている思いなのだ。


「…それがなんなのか分かんねーからさ、無責任に絶対助けるなんて言えねーけど」


 ぐしゃり、と灰色の髪を掻き回される。




「損がなけりゃ助けてやるよっ!」



 にかっと笑う私の親友(悪友)




 ふっと少しだけ心が軽くなる。

 きっと、あとを押してくれるひとがここにも居る。


「…あてになんないけど、頼りにしてるわよー」


「へいへーーい」




「………にしても『損がなければ助ける』なんて…随分商人みたいなこと言うようになったわね…」


「……言うなよ……俺も最近気にしてるんだから……これもお前のせいだからな絶対……」



 うん、ほんとごめん。

お読みいただきありがとうございます。

気に入られましたら、ブクマ、☆評価をお願い致します。


※怪我のため、明日の更新は無いかもしれません。とりあえずこちらも書き溜めた分、載せます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ