形見の人形
従兄弟が死んだ。
小学校卒業を目の前に。
病気になってから亡くなるまであっという間だったそうだ。
葬式の後、死んだ従兄弟のお気に入りだった人型の怪獣の人形を、仲の良かった別の従兄弟が形見分けとして受けとることになった。
ところが一週間もたたないうちに人形をもらった従兄弟が「この人形、呪われてる!」と騒ぎ出した。
それからいろいろあったらしくて、どういう経過でそうなったのかはわからないが、その人形を僕がもらい受けることになった。
欲しいなんて一言も言ってないのに。
その結果、人形は僕の部屋の隅にある棚の上に置かれた。
数日は何もなかった。
ところがある日、自分の部屋に入ろうとしてドアノブに手をかけたところ、かさかさかさと小さく素早い音が聞こえてきた。
一瞬動きが止まったが、それでも戸を開けて中を見た。
しかしなにもなかった。
どう見てもいつもの自分の部屋だ。
次の日、自分の部屋の前を通り過ぎようとしたところ、またかさかさかさと小さく素早い音が聞こえてきた。
慌てて戸を開けて中を見たが、まったく変わった様子はない。
ところがその翌日、僕は見てしまった。
棚に置かれた怪獣の人形がいきなり棚から飛び降りて走り出し、部屋の反対側に行ったかと思うと、そこから引き返してまた棚の上に戻ったのだ。
それも結構なスピードで。
足音は前に聞いたかさかさかさという音だった。
息が止まるかと思ったくらいにびっくりしたが、僕は同時にあることを思い出した。
死んだ従兄弟は生まれつき足が悪くて、全力で走ったことが一度もない。
「一回でいいから、力の限り走ってみたいな」
従兄弟がそう言っていたのを聞いたことがある。
その後、僕の必死の訴えにより、人形は近くのお寺に納められることになった。
僕は思った。
お寺なら本堂も庭も広いので、思いっきり好きなだけ走ることができるな、と。
終






