彼女との出会い。 そして。
4月も中旬、暖かな日差しと温い風が眠気を誘う。
窓側には車椅子に座った女生徒が静かに寝息を立てていた。
気になった私は足音を立てず、そっと彼女の前に立つ。
「ん…?」
気配を感じたのか、影が重なったのか。
何故だか分からないが彼女は目を開けた。
「ふわぁぁ…ぁ…あ!!?」
目覚めた彼女はあくびの途中で私と目が合い、サッと口元を手で隠しそのまま硬直した。
そんな状態の彼女に私は名乗った。
「私は赤佐依音。 今日の補助係です。」と。
1時間程前
「ねぇ、何してんの? 早く行こうよ〜」
「ちょ待てよ。 俺、姫聖迎えに行かねえとなんだって」
朝、教室で騒ぐカップルが1組。
周りの生徒達は眠たげなのにも関わらず、そのカップルは朝から騒がしかった。
「そんなの放っておいたらいいじゃん!
それか他の人に頼むとかさ!」
女は男の腕を掴んでぐいぐいと引っ張る。
男は男で抵抗するつもりがないのか徐々に引っ張られている。
「頼むったって誰にだよ。
こんな事引き受けてくれる奴なんているわけないだろ?」
「うーん…。 あ! そうだよ!赤佐さんいるじゃん! 赤佐さんに頼もうよ!」
女は手を叩いて人差し指を立てる。
赤佐さんとは赤佐依音と言う女生徒だ。
「赤佐さんか〜。 俺絡んだことないんだけど引き受けてくれるのか?」
「大丈夫大丈夫! あの子頼み事断らないって有名なんだよ! 早くいこいこ!!」
この半月、彼女は頼み事を断ったことが無い。
初めの方は「ノート見せて」とか「宿題代わりにやって」など、その程度だったのが、「掃除代わって」だの「ボタンを縫って欲しい」など様々な分野で皆の力になっているのだ。
「ちょ!引っ張るなって!」
女は強引に男を引きずりまわす。
椅子や机にぶつかりながら赤佐依音の元に向かった。
「……ん。」
教室で暴れている輩がいるにも関わらず、本を読むことをやめない。 周りで起きてる事は気にしないのが彼女一一私だ。
「あーかーさーさん! ちょっといい??」
「…なんですか?」
勢いよく机にファイルが置かれた。
それと同時に私は本を閉じ、女の方を見る。
「ほら!あんたから言わないと!」
「いてて…。 あのさ、俺…姫聖補助係になったんだけど時間とか色々と合わなくてさ
代わりにやってくれないかなぁ〜って、頼む!」
手を合わせながら頭を下げる。
男の言い訳を簡単に言えばおそらく「めんどくさいから代わってくれ」との事。
「いいですよ。」と即答。
私は頼まれると断らない。 断れないのではなく断らない。 そこは勘違いしないで欲しい。
でも、親友の薙ちゃんによく怒られてしまうので断ろうとするが脳死で即答してしまう。
『まあた!面倒事引き受けたでしょ!!!』と、私の中の薙ちゃんが怒る。薙ちゃん怖い。
「まじ!? サンキュー! 詳しいことはファイルの中に書いてあるから頼んだ!」
係から開放された喜びからか男は颯爽と廊下に飛び出した。それを追いかけるように女も走り出す。
そもそもやらなければよかったのでは…と思ったがもう遅い。
「ふぅ…。」
静かになったところでファイルに手を伸ばす。
そこには『姫聖補助係』と書かれており、中を開けると色々な事が書いてあった。
『姫聖補助係』
『①姫聖星桜を補助する係である。
②8:50までに保健室に行き、姫聖を教室へ連れてくること。 この場合授業に遅れても遅刻にはならない(だが限度というものがある)
③移動教室の際も共に行動し、姫聖の意思をなるべく尊重すること。例一一トイレに行きたいと言えば連れていくこと。
④放課後は16:00に迎えが来るので正門に連れていくこと、保健室によることを忘れずに。
⑤姫聖をあまり不安にさせないこと。 1人で解決出来ない、無理だと思う前に保健室にいる田口先生を頼ること。
⑥この係が出来た理由は姫聖が孤立することを避けるため。
⑦星桜をよろしくお願いします。 父・母 』
「なるほど。 姫聖星桜…。どんな人なんだろう。」
7箇条は1枚の用紙にまとめられていた。
他に用紙が挟んであるわけもなく、この1枚で完結している。
「ファイル…いらないのでは?」
思わず口に出てしまったが、先生の用意したものだ、文句は言えない。
そんなことより今の時刻は8:35。 50分までに保健室に行かなければならない。
私は本とファイルを片手に持ち保健室に向かう。
今更だが保健室に着くまでに軽く自己紹介をしようと思う。
私は赤佐依音 高校1年生。
趣味は特になく、好きな物も嫌いな物も特にない。
今話せることはこれくらいかな?
教室から保健室までは10分程度、歩いても間に合うのでゆっくりと向かう。
「失礼します。補助係で来ました。」
ノックを2回、扉を左にスライドさせる。
「あら、いらっしゃい。
姫聖さんなら隣の部屋にいるわ〜
寝ているかもしれないから静かに扉を開けてあげてね。」
座り心地の良さそうな椅子でくつろぎながら右側にある扉を指差す。この先生が田口先生だ。 保健室の先生さながら白衣を上着として羽織っている。
「分かりました。」
私はすぐ扉の前に向かい、先程と同じく左にスライドさせた。
そして現在。
「え…? 補助係…は昨日の人じゃないんですか?」
硬直が解け、昨日と違う人に疑問を抱く。
「昨日の人は時間と都合が合わない、つまりめんどくさくなったみたいですから今日は私が来たんですよ。」
嘘を混ぜて伝えるのも優しさと言うらしいが私はそんな優しさは知らない。
嘘は嘘で、真実を知った時に悲しむことしか出来ないから。
などと言うが今私が伝えたことは私が思ったことも混ぜて伝えていた。
「め、めんどくさく…。」
だが、そんな彼女は見てわかるくらい落ち込んでいた。
ふにゃんと上半身を前のめりにして手をプラプラさせている。
「分かってます…。分かってますよ…。
めんどくさいなんてことは元から…。すん…。」
声は震え、鼻をすする音が聞こえた。
流石の私でも目の前で泣かれそうになるとどう接していいのか分からなくなる。
「あの、良かったらこれ使ってください」
だからハンカチを差し出した。
小さめのハンカチだけど、彼女が使うのなら十分な大きさなはずだ。
「え、あ、ありがとう…ございます…。」
彼女は受け取るために顔を上げた。
その目には涙が溜まっており、ハンカチで目元を抑える。
「…すぅ、はぁ」
彼女はすぐ体制を戻した。
よく見ると彼女の体は震えていた。
私は自分から人と接することがほとんどない為、今の状況はものすごく気まずい。
こんな時、どうしたらいいか本当に分からない。
…薙ちゃん助けて欲しい。
「ぁぁぁ…。」
泣くのを我慢しているのか息を吐くのが長くなっている。
「……あ。」
その時、ふと思い出した。
私が読んだ小説に「人が泣いている時、悲しんでいる時、落ち着きがない時は頭を撫でてあげると相手は落ち着く。」と書いていたような気がするのを。
そう思った時、すでに身体は動いていた。
私は彼女の頭に手を添えていたのだ。
「…ッ」
彼女は身体をビクつかせた。
無理はない、急に頭に手を置かれると反応するに決まっている。
「……。」
けれど、私は無言のままゆっくりと撫でる。 相手を落ち着かせるにはこっちのペースに乗せることが大事とも書かれていた気もする。
静かな教室で傍から見れば異様な状態だ。
確かに今ここに人が入ってこれば無言で立ち尽くすか、すぐに扉を閉めるだろう。
「あ、あの…。」と、前のめりのまま声が聞こえる。
「なんですか?」と、私は撫でるのはやめない。
「も、もう大丈夫です…。
撫でなくても…大丈夫です。」
頭をあげ、私の顔を見た。
彼女の目は泣いて充血を起こしている。
目の周りも少し腫れていた。
「本当? 落ち着くまで撫でても良かったのだけれど。」
私も彼女の顔を見る。
でも頭に乗せた手をどけてはいない。
「はい…。 その…恥ずかしいですから…。」
私を見る彼女の顔は少しずつ、赤くなっていく。
耳まで真っ赤でこちらも少し調子が狂う。
なので、すぐ手をどけた。
「改めて、私は赤佐依音です。」
再度私は彼女に名乗った。
「…赤佐さん、赤佐さん?」
繰り返し私の名前を呼ぶ。
何か引っかかっている様子だ。
「はい、赤佐依音です。」
「赤佐さんって、あの赤佐さん?」
「どの赤佐さんかはわからないけど、その赤佐さんだと思いますよ。」
首を傾げ、頭上に疑問符を浮かべている彼女に私は言う。
「その赤佐さんなら…頼み事やお願いを断らないって言うのは本当ですか…?」
「まぁ、そうですね。」
「それなら…それなら私のお願いを聞いて貰えますか?」
真剣な顔で私を見ている。
…私にお願いをするのにそこまで?
「私にできることなら。」
彼女の目線に合わせるため私は片膝を着いた。
真剣な彼女のお願いを聞くために、私も真面目に話を聞く。
「…私の。」
「……。」
「私の友達になってください。」
右手を差し出し、頭を下げる。
「……はい?」
もっと凄い事を頼まれると思っていた私は呆気にとられ、その手を掴んでいた。
彼女一一姫聖星桜と出会って数十分。
その日、車椅子に座った彼女と友達になった。
初めての投稿です。
文脈がおかしい事もありますが、勉強しつつ改善していきたいです。
たくさんある作品の中からこの話を読んでいただき、本当にありがとうございます(*´∇`*)
自分のペースで更新していきますので、良ければまた読んでください〜