第8深 ソラの新たな日常。
ラームによる診断を受け、他に用がなくなったソラは戦利品を換金もせず統治支局を出た。
【どうだ?このまま探索者とやらを続けられそうか?】
聞こえてきたのは、ソラにしか聞こえない例の声。
「ああ、あのラームでさえ俺のステータスは視えないらしい。だからよほど危ない橋を渡らなければ…うん、大丈夫だろう」
と、返答しながらソラは思い出していた。
狂戦士化したスプリガンに殺された後の事を。
死んだはずの自分が謎の球体から取引を持ち掛けられた後の事を。
そして、世にも怪しく珍しい種族『ダンジョン人間』に、自分がなってしまった、あの後の事を──
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《個体名ソラは種族進化した影響により──レベルがリセットされました。》
「レベルリセットぉ?…おいおい力を得るどころか弱くなってんじゃ──」
《その影響はスキルにも及びます。【空白】は【内蔵】に変異。個体名ソラは『内蔵ダンジョン』を宿しました。その影響によりダンジョン能力も内蔵。》
「スキル変異?内蔵ダンジョン?ダンジョン能力?いやいきなり…意味分かんねーよ」
《それらダンジョン能力をダンジョン人間用にスキルへとカスタマイズ。》
「え…それってもしかして俺にもスキルが──」
《個体名ソラは『ダンジョンスキル』の可能性を秘めています。》
「──って、秘めるにとどまったっ!いやそれでも…これから覚醒してくって事か?俺が?マジか。《いいえ。》違うのかっ」
《個体名ソラは既に、ダンジョンスキルに覚醒しています。先程【吸収】を使用した事をお忘れですか?》
「お、おお…そうだった。確かに俺はさっき【吸収】とかいうのを…アレもダンジョンスキルか…。つかこれって【空白】の収納とどう違うんだ?」
《ダンジョンコアを吸収した事はその熟練度に大きく影響しました。【吸収】のスキルレベルが大幅に上昇済み》
「お…おおお。覚醒してすでにスキルレベルがアップしてるなんて事が──ってダンジョンコア?…そういやさっきも言ってたな…オイそれって…」
《個体名ソラの命の在り方はダンジョンと同化した事により変化──》
「──…いやだから、ちょ──ええっ?」
《個体名ソラはダンジョンスキル【依魂】及び【操力】に覚醒しました。》
「おお!またスキルを────じゃなくて!」
怒涛過ぎる展開。ソラは見事に翻弄されていたのだが…ここでようやく理解した。今の状況が、想定の遙か外…であるという事に。
「ダンジョンと同化した……だとぅ?」
復唱してみるがまるでピンとこない。だがそんな戸惑いは完全に無視された。
【おいソラ!迷いの森が言うには『そろそろ出てくんなきゃまずい』ってよ!その前にもっと素材を持ってっていいらしい。だから今のうちに【吸収】しまくっとけっ!この親切を無駄にすんじゃねえぞ!つか、ほら!早くやれやぁっ!】
「……ダンジョンの親切って……いやいや、だからそこじゃなくって!おいお前!少しは質問に答えろ!あと急に口調変えるヤツもやめろ!心臓に悪いからっ!」
【だからこれは仕様だと思えってさっき──
《個体名ソラはもう既にダンジョンスキル【依魂】に覚醒しています。なので心臓の機能にもはやそれほどの意味はないと答え──》
──だああ!もう!】
「だか──え?ちょ待……『心臓に意味がない』だと??……いやいやいや、それってどーゆー──」
このように。聞けば聞くほどソラの混乱は深まるばかり。かと言って、
【うるせぇ!早くやれええええ!】
この声が容赦してくれるはずもない。
「ああ、もう!わかったよやけくそだもうっ!…【吸収】っ!【吸収】!これもっ!それも──!」
ソラは急かされるまま、藻掻くようにして虹色空間の中を渡り泳いだ。そして奇妙なその『声』が命じる通りに片っ端から吸収していった。その空間に漂うもの全てを対象に…──
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──と、このようにして。
ソラはもう人間ではない。
『ダンジョン人間』になった。
…その事実は他の誰にも知られたくはない。
(……この世界の真実を知った今はな…なおさらだ。)
あの後色々あった。ただでさえ、究極的な厄介ごとに巻き込まれてしまっているのだ。
この正体が知られた場合、その厄介がさらに増すのは火を見るより明らかだった。
(でもあのラームでさえ俺のステータスを解析出来なかった。国家全体で見ればどうか分からないが…少なくともニョルニ…いや、この11区にはラーム以上の診断能力を持つ者はいない。…という事は…)
ダンジョン人間であるという、自分でも正体不明なこの正体を知られる危険、それを回避する算段は一応立った…という事になる。
(いや、用心には用心を…だな。支局の人達はともかく…統治局本部には絶対知られちゃいけない)
そんなこんなを考えているうちにいつの間にか、自宅にたどり着いていた。しかし玄関の鍵穴に鍵を差し込むこの瞬間も安堵する余裕なんてない。ダンジョン人間となった事で色々と気苦労が増えているからだ。
その一つとして、今日は暴走したオーガを殲滅するという快挙を成し遂げた。だがそれはなるべく顔を見られないようにしてやった事だし、本部にはもちろんのこと支局の方にも報告を上げていない。さっきも述べた通りだ。今は目立ちたくはない。
やむを得ずバスの乗客達にダンジョン人間の力の片鱗を見せる事になってしまったが、彼らに証言されてもソラはシラを切り通すつもりだ。実際にそうなったら最弱というこの立場を利用すればいい。確たる証拠でもない限り誰も真に受けないだろう。
(それにしても…オーガ種の暴走なんて相当な騒ぎになるはず。なのに支局じゃ誰もその話を誰もしてなかった…)
あの様子だと他からも報告は上がっていないのだろう。バスの乗客達を始め、車外で逃げ惑っていた人々からも。
『探索者は舐められたら終わり。』探索者界隈にはそういった風潮がある。
死体を始め持ち主不在となった外部のありとあらゆるものを吸収し…つまり犯罪の証拠を自動隠滅してしまうダンジョンの中というのは無法状態に等しく、脅威となるのはダンジョンの罠や魔物達だけにとどまらない。犯罪行為も厭わない質の悪い同業者も中にはいて、そっちの方にも目を光らさねばならない。
そんな輩の無用な企みを事前に跳ね返すには『わざわざあいつと揉めるのは面倒だ。』と思わせるのが一番だ。だから探索者達はことのほか面子に拘る。
つまり、オーガどもが暴走したあの場にいた探索者達全員にとり、『何もせずに逃げた』という風聞は都合の悪い事実…
(それで口をつぐんだ…いや、それにしても不自然だ。)
ソラは一瞬で思い直した。
(統治局本部…奴らが従える『ダンジョンの力』を利用し、揉み消した…、そう考えるのが妥当か………うーん、怖いな)
改めて統治局本部への警戒を深めるソラなのである。と言っても、同じ統治局という名を冠しているが支局のスタッフまで疑う訳ではない。
彼らは統治局に形式上属してはいるが、このエリアが抱える特殊過ぎる事情もあり、『本部とはまったくの別物』なのだ。
それに、ソラとしても彼ら支局員達が自分を『最底辺弱者』だと考えている今の状況は大変都合が良いと思っている。支局経由で統治局本部の方も自分を取るに足らない存在だと認識してくれるなら有り難いからだ。
(そうだ。こうして舐められてる間に一刻も早く、少しでも強くならないと…)
と、このようにして本意なのか不本意なのか、とにかく底辺探索者として扱われているソラなので彼が割り当てられた家はとても粗末なものとなる。
旧式の倉庫…のような見た目。
ともかく大雑把な造り。
大量の錆びくれた配管達や、用をなしてなさそうな換気口が未練がましく壁に張り付いていていかにもみすぼらしい。
『何だか錆び臭いし埃っぽい』という苦情が周囲から出る始末だ。そんなボロアパートの地下にある一室…それがソラの自宅だった。
今朝の若僧探索者ようにソラに絡んでくる輩は多いので、万が一襲撃される事でもあれば逃げ道が確保出来ないこの物件は最悪と言っても良かったが、今の彼にとってはこれも都合が良かった。
敵の侵入口を一つに限定出来る所なんて特に。今のソラにはある程度の敵なら正面から撃退する戦闘力が備わっているからだ。…しかし備わった一方で、
どうしても隙だらけになってしまう時間が出来てしまったが。
「ふー、戸締まり戸締まり。」
そんな事情もあってソラは部屋に入るとこもった空気に馴れるまでの作業として早速、鍵を何重にもかけていく。そしてそれを何度も確かめる。それに満足いったら部屋の隅々を確認し侵入の痕跡を確かめる。
……実際の所、今はまだここまで神経質になる必要などないのだろう。だが先ほども述べた通り、『用心には用心を』だ。神経質なくらいでいい。
(こんな用心深さは今後さらに必要となっていくはずだ…それに…こうでもしないと安心して潜れないしな…)
という訳で。人間を辞めた昨日の時点でこのような確認作業は徹底している。
その後は食事を簡単に済ませ、シャワーを浴び身を清め、たった一振りしかない得物…迷いの森で得た『精霊加護の短剣』を入念にメンテナンス、そして明日の探索に備えて道具袋の中身もチェックしておく。
ちなみに、【空白】は【内蔵】という名のダンジョンスキルに変異した。その際に収納能力を完全に失ってしまったようだ。
ダンジョンスキルには【吸収】というものがあり、それに収納機能が継承されたものと思っていたのだが、実際にステータスでその効果を見てみれば…
『【吸収】…ダンジョンスキル。素材を判別、吸収し、それらをあらゆる分野で活用するダンジョンの生態。それをスキル化。
このスキルを持つ者は内蔵ダンジョンにとって有用な素材となるかどうかを判別出来るようになる。そうやって素材判定されたものは吸収する事が出来る。そしてそれら吸収した素材は『領力』へと変換される。
(※ただし、様々な理由により『素材に出来ると判定されなかったもの』は吸収出来ない。因みに生成出来る『領力』量には限界があり、それを超えて吸収しても意味はない。)』
──というものだった。このようにして今のソラは収納系の能力を持たない。だから道具袋は必須のアイテム。
…と言っても隻腕になってまだたったの一日だ。こうした地味に面倒な準備を一通り済ませるのには、結構な時間かかってしまった。
あれほど『足を引っ張りやがって』と疎んできたスキル…【空白】。その能力である『なんちゃって収納』を早くも懐かしく思いながらソラは、
「ぃ──よし。」
面倒な準備をようやくと終える。そして
「ふー……っ」
軽く息をつきベッドに横たわった。自然、感じてしまった敷物の匂いと感触に、『そろそろ干さないとな』などと思いを馳せるのだが、これは寝るために横たわった訳ではない。
これでも『やっと落ち着いてそれが出来る』と居住まいを正したつもりなのだ。
今日のソラは大量のオーガを殲滅した。なので当然、相当、疲れているはず。だがそれでもとそれをするのは、実際のところ、興奮もしていたからだ。
「じゃあ、ダイブするか。」
こうして、ソラは内なる世界──内蔵ダンジョンに『ダイブ』するのであった。
《クレクレ劇場。》
ソラ「え…それってもしかしてこの作者もランキングに──」
裏声《この作者にだって日間なら『ランキング入り』の可能性を秘めています。》
ソラ「──って、秘めるにとどまったっ!いやそれでも…これから覚醒してくって事か?この作者が?マジか。《いいえ。》違うのかっ」
裏声《この作者は既に、あからさまなクレクレに手を出しています。恥も外聞もなく。しかも相当、執拗に。…お忘れですか?》
ソラ「お、おお…そうだった。確かに作者は毎回クレクレ劇場とかいうのを…アレって駄目なのか…。じゃあ後書きってそれ以外にどう使うんだ?」
裏声《後書きを悪用した事は作者の名声に大きく影響しました。【読者様方】の好感度は大幅に下降済み》
ソラ「お…おおお。投稿してこんな早く好感度ダウンするなんて事が──…そういや作者も気にしてたな…オイそれって…」
裏声《この作者のなろう作家としての在り方はあからさまなクレクレをした事により変化──》
「──…いやだから、ちょ──ええっ?」
《この作者は、なろうスキル【炎上】及び【開き直り】に覚醒しましした。》
ソラ「おお!あの有名ななろうスキルを────じゃなくて!」
怒涛過ぎる展開。作者は見事に翻弄されていたのだが…ここで改めて理解した。『ブクマ』や『感想』や『評価ポイント』や『レビュー』を欲っするこの気持ち。その高鳴りに嘘はない…という事に。
ソラ「完全に開き直った……だとぅ?」




