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第4深 スキルとクラスとソラの日常。





「──という訳で俺……最近ずっと伸び悩んでんスよ。……まあ、【剣術】スキルが生えてたんで、ずっと育ててきたんスけどね…なのに『クラス』につけない。なもんだからパーティメンバーから外される。

 …で、あぶれて仕方なく(すが)った先輩方は頼りになんないみたいだし。そのくせ偉っそうにこき使ってきやがるし。今日なんてオーガの群れに襲われてバスが棺桶になっちまいそうになるわでマジ勘べ… …

 ……あれ?


  …っいやこれは…


   …あ〜…?


 …()()()()()()()()()()()()()()()


   …えと…ああもう、スマセン。


 忘れてください…ともかく。ここ最近の俺ぁ、踏んだり蹴ったりってやつでして…」


 統治支局内の一角にコーナーを常設する事を許可されたその女性は、戦士風の若い探索者から長々と相談を受けていた。


「あー…。あなたの『魔炉』に別スキルの顕在化が見られます。クラスにつけないのは多分そのせいでしょう。えっと…他の事にはどうにも答えかねますが。」


「別の……顕ざ…?それってどういう…」


 『スキル』と『クラス』。


 これは当人にしてみれば一生を左右する一大事だ。なので相談を受けた側は慎重に言葉を選ばないといけない。

 だがそれをアドバイスするのは、【剣術】になど全く縁がなさそうに見える可憐なる美女。荒事と無縁であるのはその装いを見れば分かる。武装の類いなど一切身に付けていないしそれに…剣を振るには彼女のバストは大き過ぎた。

 魅惑なるそれに釘付けとなる若者の視線を『いつもの事』と諦めつつ、ならせめてとゆるくウェーブがかった…それでいて明るい艶のある栗色の髪を垂らして胸元を隠してみるがしかし、逆にそれが盛り上がり具合を強調する効果となっている事には気付けない。

 『そんな少し抜けてる感がまたたまんないなー』とか思っている不埒なリビドーを全開にする若僧探索者の心までは知るべくもなく、その美女は話を続けた。


「元々あった属性の偏りが後になって顕在化する事はよくある事なんです。多才なあなたには【剣術】スキルの才もあったようですが、それ以上に【戦棍術】スキルの才が強かったようですね。なので今後はメイスやハンマーなどの腕を磨いてみて下さい。そうすれば基本クラスに…運が良ければレアクラスにつく事も夢ではない…()()()()()()()。」


「打撃系は使った事ねぇんだけど…なるほど…そうだったんスかぁ……いやぁ、ありがとうございます!」


 望外の診断結果を得られ、ついでに美女が放つ柔い香りに包まれ、その若い探索者は大層満足したようだったが、何を察知したのか、


「──あ……ヤベ…っ!なんかわかんないけどヤベ……て…あ、あのっ、ここ、これはほんの気持ちってやつでっ!それじゃっ!」


 大層慌てて、提示した料金に色を付けそれを遠慮する隙も与えず行ってしまった。

 仕方なくその金額を受けた当の彼女は若者の慌てぶりを怪しむよりも、大きな胸に痛みを感じていた。


 この美女の名は、『ラーム』という。


 彼女は【鑑定】の上位スキルである【解析】スキルを持つ。そしてついたクラスも『解析士』。このように料金さえ支払えば診断してくれる彼女の元には、素材や魔道具やステータスなどについてその詳細をつかみたい…もしくは彼女から無自覚に溢れ出る魅力に惹かれた者達が数多く訪れる。


(※ちなみにそのたわわをつかめた者は未だにいない。)


 統治支局員の中にも【鑑定】持ちはいる。しかもその診断は無料で受けられる。しかしそれには彼女程の精度はない。だからこうして彼女の商売は成り立っている。

 統治支局側としても、彼女の商売が繁盛すればするほど負担が減るのでむしろ大歓迎。自分達では診断するに難しいとした客を斡旋するほどには信頼もしていた。


 つまり彼女の商売はそれなりに順調なのだ…が、しかし。このようにして彼女の気分は優れない。何故ならこの仕事をするには多少の嘘も必要とされるからだ。さっきも若者の前途を想うあまり、診断に少しばかりの嘘を混ぜてしまった。



 前述した通り、スキルの発現には魔力の質と量が深く関係している。

 その質と量は魔素を魔力に変換する器官、『魔炉』の性能により決まる。

 この『魔炉』という器官は人が生まれた時には既に魂の一部として備わっている。

 …そしてその成長限界も生まれた時に決まってしまう。



 つまり本命であるはずの【戦棍術】より先に【剣術】スキルを磨いてしまった先程の若い探索者などは…『遠回りをした挙げ句、限りある才能を無駄に使ってしまっていた』…という事になり…つまりのつまり、彼は選択を誤ったのだ。

 勿論レアクラスになど奇跡でも起きない限りはつけないだろうし、基本クラスにはつけるだろうが、それが上位クラスに進化する事は…おそらくない。生まれ持った才能こそが至上とされるこの世界を生き抜くにあたり、この選択ミスは彼の人生に少なからず影を落とす。…だからと言って真実を全て明かして何になる?



『あなたの努力は全て無駄でした』



 そんな事は言えるはずもないし、言っても誰も得しない。


(だから嫌。人を【解析】するのは…、でも私の『才能』で出来る仕事なんてこれくらいしかないし…)


 人が羨む才。それを授かっても。

 その才を(たが)えず伸ばしても。

 結局人は『悩み』を見つける。

 これはその良い例だろう。


 ラー厶も分かってはいる。こんな悩みはただの贅沢だと。

 先程の若者が立ち去った方向、その反対側。彼が慌てていた理由は何なのかとそちらを見たら…視界に入ったのだ。大きな荷物を背負ってこちらに向かって来る顔見知りが。


(はぁ……あの人ったらまたクエストを受けたのね…片腕を失った昨日の今日だっていうのに…もう!……でも…あんな壮絶を見れば私の悩みなんて…)


 ラームはその人物を見つめ、そしてまた、想い直すのだった。


(もう!もう!またあんなに血だらけに……きっとまた、無茶をしたのねソラさんたらっ!もう!)


 ・


 ・


 ・


『おいおい何だありゃ血みどろじゃねえか』


『あん?知らねえのか?さてはモグリだなおめえ』


『あれが天下御免の無能者…いやこの場合“罷免”かw』

『なるほど…根の深そうな間抜けヅラだぜ…』

『汚らしいわね…』

『…ったく、一張羅に血が付いたらどうしてくれんだ』

『気味が悪いったらないわよ…』

『こんな俺だがアイツよりは…うん、マシだな』

『狂人め…』

『目障りな…』

『なんであんなヤツが生きてんだろね?』

『つかあの荷物全部が戦利品か?』

『ちっ…やんなっちまうな…ったく』

『そうだよアタイの仲間があんな呆気なく逝っちまったのに…』

『なんであんなヤロウがあんなに…』

『それこそ理不尽というやつじゃな。』

『どんなカラクリがあんのか知んねえが…早くおっ()ねばいい。あんなヤツ』

『おいおいそいつあいくらなんでも…いや、いいか。別に。』

『フン。わきまえぬ者には相応の結末だろう。どこも受け入れてくれないからと、よりにもよって探索者になったアレが悪い。』

『スキルもねえくせに…ったく、生きてて恥ずかしくないのかね』

『恥を知るほど賢くないのよきっと。』

『でも生きてて辛くないはず…はないよな。』

『ヒャハ!俺なら自殺モンだぜぇ』

『じゃあ今度ダンジョンで見かけたら楽にしてやるか…?くくっ』

『アホか。あんなカス相手に危ない橋渡る価値あっかよ。』



『『何にせよ忌々しいったらないぜ…』』



 ・


 ・


 ・



 ほんの十数メートル。

 ほんの数十秒。


 彼が人混みの中を縫って眼前に辿り着くまでに必要だった距離と時間。そんな少しの間であれほど大量に心無い陰口を聞こえよがしに。


 それは彼が何の才能も持たないからだ。


 25歳という全盛を誇るべきその年齢にして、問答無用で最底辺の探索者と認識されてしまっているのも……そう、才能が無いためだ。

 いつまで経っても魔力が発現せず、スキルも生えない。だからクラスなど望むべくもないし、『レベル』だって中々上昇しない。上昇した所でそのステータスの成長率は一般の半分にも満たない。

 それなりの結果を示してもただ邪推を誘うだけ。このように誰も認めるという事をしない。



 それが底辺探索者として生きるソラの日常。



 そんな彼だが、別に怠けてきた訳ではない。今までに()いたどの職場でも努力してきた。それも、『狂人か』と畏れられる程にだ。しかしその努力はどの分野でも実らず、スキルに目覚める事も遂になかった。

 かくして就いた職業の尽くから追い出され最後に辿り着いたのがこの、危険極まりない探索者という仕事。


 そう、探索者とは命が懸かった仕事だ。だから頼りに出来ぬ者とパーティを組みたがる者などいるはずもなく。

 だからいつも、どんな危険なクエストであっても彼は、ソロで挑むしかない。だからいつも血だらけだ。傷が絶えない…というか結構頻繁に死にかける。死にかけては奇跡的に生きて帰る。昨日などは遂に、片腕を欠損してしまった。それでもこうして次の日にはクエストに向かう。そしてまた生きて帰る。


 人の目にそれは狂気と映る。


 そんな彼が悪目立ちしない訳がなかった。最初はただ馬鹿にするだけだった周囲の中にはいまや、物騒な事を平然と口にする者が混ざり始めている。その悪意もだんだん具体的になってきていて、何らかの不正があるのではと不審に思う者もいれば、何らかの…『金の成る秘密』を隠し持っているのではとつけ狙う輩もいるようだ。ちらほらと聞こえてくる『()る』や『(さら)う』という言葉に背筋を寒くした事は一度や二度ではない。そしてそういった連中ほど、ありもしない事実をでっち上げ、まことしやかに噂する。


 ソラの立場がこの街の最底辺に固定されていったのはそんな悪循環を経ての事。

 これでは本来仲間であるはずの同業者達まで警戒の対象としなければならない。命懸けどころか、命がいくつあっても足らない…もはやそんな状況。


 ラームはそれをずっと見てきたのだ。


 …この世の中、

 才無き者はかくも過酷を強いられる。


 しかも()()()()()()彼は、遂に奇跡を起こしてしまった。

 無駄と断ぜられても諦めず、無謀でしかないと知りつつ、無理に挑んでは無茶をやらかし、苦茶を乗り越え、しかもそれを無数に繰り返してきた彼は遂に、その努力を実らせてしまったのだ。



 そう、スキルに目覚めてしまったのだ。



 それは、【空白】というスキルだった。


 



《クレクレ劇場。》


 ──ヤマタカコク。

 彼は、遂にやらかしてしまった。


 無駄と断ぜられても諦めず、無謀でしかないと知りつつ、無理に挑んでは無茶をやらかし、苦茶を乗り越え、しかもそれを無数に繰り返してきた彼は遂に、その『身の程知らず』を決行してしまったのだ。


 そう、なろうに投稿してしまった。



 それは、『ブクマ』『感想』『評価ポイント』『レビュー』の飽くなき獲得を宿命付けられた、仁義なき読者争奪泥沼戦への参戦を意味していた。


ソラ「なんか──」


 ──うん。だから大変なんだってば。




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