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第30深 クエスチョンの向こう側。



 マンマまんまの外でソラに声を掛けてきた女性は、ラームだった。


 …それはいいのだが、

 

「お食事…?」


 たらふく食って食堂から出てきたソラに向け、突然投げ掛けられた『お食事のお誘い感謝です』………空気の度外視ここに極まる。さすがにクエスチョンだ。


(うーむ、しょうがない…)


 ラームからそれとなく話を聞き出せば──


 いつも通り支局ロビーで解析の仕事をしているとラゴウから連絡があったのだそうだ。その内容はこう。


『ソラからの言伝てだ。奢るからお前も一緒に食事でもどうかだとよ…だっつーのにあんのバカ野郎…どこで待ち合わせるかも言わず行っちまいやがった。まあ十中八九『マンマまんま』だろうが…もし他の店だったとしてもすぐ分かるだろうぜ。俺の魔導バイクが目印になるだろうからなあんのバカ野郎め…じゃあ、俺は仕事で疲れてるからよ。行かねえ。って事で()()()()ラーム。』


『え。頼むって急に…こっちにも準備が…あれ?()()()()?…もう!切れちゃった…』


 あのラゴウがこのラームの父であったというのも衝撃の事実であるのだが…ラームとソラはラゴウの弟子であった頃からの長い付き合いで…もとい。


 どうやらこれはラゴウによる(はかりごと)


 あの時ラゴウが頼んだ相手は鬼鋼義手でも、ソラでも神でもなく、愛娘のラームであったのだ。まあ、そんな親心を知らないソラはこうなる。


(ぬぐううう!なんのつもりだ!どうしろってんだ!あんの、、、バカ親父っ!!)


「あのーー……え……っと。……何か手違いでも?…はっ!もしかしてこれって夢オチ!?あ、あー……そうですよねっ!あのケチなソラさんが食事を奢るなんて!私はきっと居眠りでもして都合の良い夢を…っ!もうっ!ドジっ!私のドジっ!」


「いや夢とか。(つか、ケチて…っ)」


 斜め上過ぎる。地味に驚き、かつ傷つくソラなのであったが、『でも日頃の感謝を伝える良い機会なのかもしれない』と考え直す。


「いやラーム夢じゃないから。いつも世話になってんだから飯ぐらい奢るさ。普段セクハラ三昧な俺が言うのもなんだけど。」


 ソラは思い切った。ここはラゴウの思惑に乗ってみるかと。そう、これは別に『ケチ』と言われて意地になった訳ではない…はずだ。


「え…本当…ですか?」

「ああ。あんたに対して嘘はない。」

「ソラさん…」

「(まあ隠し事はあるけど…それに幸なのか不幸なのか…いや、まあ、不幸なんだろうけど内蔵ダンジョンが沈黙してる今しかこんな事出来ないだろうし…)…じゃあ、行こうか飯。ラームは何が食べたい?つか、食べられないもんとかあったっけ?」


「ぁ…好き嫌いはないです。なのでソラさんの好きなお店で…マンマまんまが行きつけなんですよね?」


「…あ~…いや…、」


 内心、ギクッ。今さらどの面下げてマンマまんまに戻れと言うのか…。必死に逃げ道を探すソラなのである。


「えと、さっき様子を見てきたトコなんだが……中は組合員ばかりでな…その…あれだ。俺はあいつらに受けが悪いし…つまり、今回はちょっと具合が悪いかなー…なんて。」


「あ、あー、それは、、確かに。」


 昨日支局で起こった組合員の暴走。あの現場に居合わせたラームは察したように頷いた。それを見たソラは調子づいた。

 

「そ…そうなんだよ、うん!それにここは人気の店だから!ストの影響をモロに受けてるみたいでさ!あの女将が『食材がないとかないわぁ~っ!』って嘆いてた!だからうん!別の店が良いかもしんない!」


「…?…はぁ…そうなんですか。じゃあどこにしましょう?」


 力説…というより力技過ぎる仮説をでっち上げつつ


(『嘘はない』とか言った後に俺ってヤツは…い、いんや!これは嘘ではない事実…な、はずだっ!うん!)


 …という苦しい言い訳で自分を誤魔化すのであった。それはともかくラゴウの策略で事実ではないとは言え、自分で誘った事になっている。こんな土壇場で相手に決めさせるなんて事は出来ない。


「…じゃあ、屋台通りにでも行ってみるか…つかラームが屋台料理が平気ならだけど。」


 使われている食材や衛生面について屋台通りについて懐疑的な人も中にはいるので一応聞いておく。それに対するラームは…


「はい!私はどこでも!あの…うれしいです!(ソラさんと一緒ならっ)」


 相変わらずだ。相も変わらずいじらしい。なのにソラときたらこう。


「え?最後の方聞き取れなか──「もう!そこはいつものスルーでいいんですっ!ささ、早くいきましょうソラさんっ。屋台通りへっ。ほらほら!」お?お、おう。」


 いいところで野暮を発揮する。それがソラ。いや、彼は別に難聴系とか鈍感系の類いという訳でもない。ただ女性をエスコートすることに馴れてないだけで実は内心一杯一杯だっただけであって…そう考えるとこれはうまくやっている方なのか…そういう事にしておこう。


  :

  :

  :


 屋台通りに差し掛かると、ここ数年見られないほどの大盛況ぶりが見られた。人、人、人でごった返している。

 しかしこれでは魔導バイクで乗り付けるどころか、手押ししながらでも入れない。ソラは入り口に駐車する事にし、ラームと並んで巡る事にした。

 

 濃いめかつ色とりどりの灯り。そうありながらも暗がりを優しく滲み照らす屋台通りは、賑わうどころか混雑の極みを見せていた。そのせいで遅々として進まない人波に揉まれ、密着とまではいかないが…かなりの接近距離で並び行く二人。それを申し訳なく思うソラだったが一方のラームは…


「良い匂い…(あとソラさんの匂い…革鎧の匂いが殆どだけど…)それにこんなにも賑やかで(こんなに近く…っ)…なんだかお祭りみたいで(デートみたいで)楽しいですねっ!!(いやこれってデートよね…違うのかな…どうなんだろう)」


 …と、言っている言葉を完全に凌駕する喜びぶり。そんなラームを少し怪訝に思いつつ、ホッと胸を撫で下ろすソラなのであった。


 因みにだが。この賑いにはちゃんと理由がある。

 この屋台通りというのはそもそも一軒の飲食店が余った屑肉や屑野菜を有効利用するため出店したのが発祥とされていて、それはやがて家庭にも飲食店にも不人気で殆ど売れず、市場で余りがちな食材を有効利用する方針へとシフトされた。商売が順調でさらに欲が出たのだろう。

 それも当たるようになると今度は真似して出店する屋台が次々と増えていき…こうして今の形になったのだという。

 数が余って安価な食材をあえて選んで、さらに腐らせないよう保存加工し、それを調理するというスタイルの店がやたらと多いのはそんな歴史が背景にあるからだ。

 だからどの店もバカみたいに安いし、今回のように流通に不具合があってもそれに負けないしぶとさがある。

 飲食店や自炊をする人々にとって馴染みの食材が新鮮かつ適正価格で手に入らず困窮した時にこそ逆に賑わう…これはきっと皮肉な話。だがソラにとっては『世界はこうしてバランスが取られている』という事が肌で感じられ、とても頼もしく思えた。


(そうだ…何にだってバランスってもんがあって……だから今の俺の不安定な状態を解消する方法だって…きっとあるはずで…)


 ソラの考えがそこまで発展した瞬間、


《個体名ソラの界位昇格…それにより解放される権能が今、決まりました。》


 ソラの頭の中に突然介入する者があった。…それはあの裏声。今の彼が一番聞きたくない声でもある。


「そういや…」


 思い出す。昇格条件である『界命戦術の習得』を達成したのだから、ソラの界位は上がっているはずで、なのに肝心の新たなダンジョン能力はいまだ解放されていない状態であった事を。


(オイ裏声。俺の相棒(内蔵ダンジョン)にあんな真似しといて随分のんびりとした対応だな…っ?)


 ふつと湧く怒り──ラームに気取られぬよう、なんとかそれを抑えながらソラはダンジョン的本能なるこの者を問い詰めようとした。だが…


《随分と嫌われたものですが。こう見えてあなた方の存続を第一に考え全てを調整しています。その過程で発生する少々の摩擦はやむを得ない事…そのように理解して下さい。》


(少々だと…っ!?テメエ……ッ!)


 このようにしてかの者の返答はソラの怒りを更にと煽ってしまう。


《今は内蔵ダンジョンが沈黙し、個体名ソラも極めて不安定な状態。対応が遅れたのはこれに対処する方策を模索していたからです。》


 いや、故意に煽っているのではない。口調はあくまで理性的だ。と言ってもそれが気に食わないソラであるのだが。

 

(だから!どれもこれもテメエのせいだって言ってんだろうがっ!)


《それは違います。今あなたが抱える不安定性は、内蔵ダンジョンのトラウマとはまた別の所にあると答えます。彼の沈黙もそれを慮っての事。》


(なんだと…?)


《内蔵ダンジョンの記憶…その一端を垣間見た事があなたの精神にいくらかの影響を与えてしまった事についてはお詫びします。》


 まさかこうも素直に謝ってくるとは予想外。だが、ソラの怒気は収まらなかった。何故なら自分への配慮のなさよりも、内蔵ダンジョンへの仕打ちに怒っていたからだ。


《しかし、人であるを捨て、ダンジョン人間として生きると決めたあなた。その一方であなたにかつての自分を無意識にも重ね、感傷というものを甦らせてしまった内蔵ダンジョン。

 あの瞬間、魂を同じくしながら2つの心は逆のベクトルに向いてしまった。あの状態を放置すれば本領なる力も発揮されず、それどころかいずれ魂の崩壊をも招いた事でしょう。そうなってからでは遅い。それを知らしめるためにあの時はああするしかなかった

 …いえ、これは言い訳でした。すみません。私も全知全能ではありません。時に間違いをおかす事もあります。》


 何やら一応の事情らしきものもあったようだが…結局、謝り直す。自らの過失を認める裏声氏。 


(なんだぁ?相変わらずよくわかんねえが…とにかく。なんで俺はこうも不安定になってんだ?)


 この時点でもう既に、ソラは毒気を抜かれ始めてていた。これもソラの個性だ。怒りを持続出来ないという癖がある。それを見計らっていたかのように。 


《それはおそらく、ダンジョン人間という新種生命体が持つ稀有な生態によるものでしょう。》


 そう、この裏声は、ソラの疑問を予め予測していたのかもしれない。それに対する解答をきちんと用意していることを伝えてきた。


(ダンジョン人間の生態…?それって──)


 ソラはここでやっと(※仕方なくだが)話を聞く姿勢になる。

『不信極まりないこのダンジョン的本能なる者の話を聞く』

 …それを選ばざるをえないほど今のソラは追い込まれていたのだ。それと…ラームという大事な存在がすぐそばにいるこの状況も彼を焦らせた一因であったかもしれない。


 ──ラームを巻き込みたくはない。それは…絶対に──


 これこそが今のソラの本心だった。


《個体名ソラ。あなたが先ほど考えていた事と同じです。この世の全てはバランスの上に成り立って在る…それはダンジョン人間たるあなたも同じ。…いえ、ダンジョンでも人間でもないあなた達は今後、このバランスというものに常に悩まされることになるしょう。》


(だから…お前の話は分かりにくいっつってんだよっ!俺にはちんぷんかんぷ──)


《ここから先は人が言う『習うより慣れろ』の領域。界位昇格したあなたに新たに授けたその力を行使すれば、きっと分かるはず──それでは──私は行きます──顕現している間は──彼も─起きるつもりは──ないようですし──まったく──嫌われた──ものです──》


 裏声がフェイドアウトすると同時。






「──もう…っ!」


 




 突然、思いのほか近くで発生したその声にはっとする。


「探しましたよソラさんっ?」


 声をかけてきたのはラームだった。


「あ…ああ、わりい。」


 心中で裏声と話し込んでいたせいでぼうとしていたソラが我にかえりラームを見れば、彼女は両手に屋台飯を抱えていた。


 …しかも大量に。


「え。なにしてんの?つか…え?なんだどうしたどうするつもりだ…そんな量。」


 と思わず遠慮なしのツッコミを入れてしまうソラなのであった。


「あ…いえ、あの…どれも美味しそうだったから…つい…」

「ついて…いや、量の事もそうなんだけど。何で自分で買ってんの。俺が奢るって言ったろ?」

「あう…だって…楽しくて…なのにいつの間にかソラさんいなくて…私ったらそれに気付かないままいないソラさんに夢中で話しかけてて……それに途中で気付いて…それがまた恥ずかしくって…」


「あ…いや…それは…悪かった(いやラーム天然過ぎるだろ…じゃなくて!くそ!裏声のやつのせい…いや、俺のせいだな…ボーっとしてる間に随分な恥をかかせちまった…)」


「…!…もう!そうです!デート中にほったらかしにするソラさんのがずっと悪いです!もう!」


「ああホントすま……ん…え?(デートだったのかこれ…)」


「いや、あう、ええ?ぁー…えっと…」


「ぁー……んー…──」


 見ての通りだ。

 クッソうぶい二人なのである。


 余談過ぎるがこの瞬間、この二人を中心とした半径5mにいた男共は奇跡的にその意思を統一したという。それは主にソラに対して。『死ね』と。まあ『死ね』と。


「……ん、ぁー…もう分かったから。やめような?このしどろもどろ。(やたら愛くるしくて困るし)うつるから。で?いくらだった?」


 いつにない甘い雰囲気と周囲の殺気。それらを一旦脇に置いて何とか自分を取り戻したソラが聞き出したそれは、思いの外の金額だったが、ラーム相手なら惜しくはない。


「…にしても、こんだけの量をどこで広げて食うかな…」


 と言うのは建前だ。『こんな大量に食えないよ』が本心だ。もうマンマまんまでたらふく食べた後なのだからそれは当然なのだが…それについては口が裂けても言えないソラなのだ。


「あ…重ね重ねすみません…」


 そんな心中を知るべくもないラームは素直に謝ってくれる。よってよけいにばつの悪さを感じるソラなのである。


「ああ…いや、いいんだけど──あ。うん、よし。………じゃあ、もっと買うか。」


「…へ??もっと…?ですか?」


 苦し紛れか何やら名案が浮かんだ様子のソラだったが、量の多さに頭を悩ませていたというのに何故、さらに追加で買い込もうと言うのか?今度はラームの方がクエスチョンだ。


「いいからいいから。(これは逆に都合がいい)」


 たくさんの屋台飯が詰め込まれ、内側からの圧迫でパンパンになった二つの大きな紙袋。ソラはその片方を引き受けた。




 そして




 …空いた側のラームの手を握る。




 古い付き合いだ。よってソラのその動きに遠慮はなく、不自然さもなかった。

 またはぐれてしまわないようにという、彼なりの気配りであったかもしれない。

 ともかくこうして二人はまた屋台通りを歩きだし…という風にはいかないのはラームの方で。



 ──ああもう…こうされてはもう──



 大量に買い込んだ元凶である自分の事を棚に上げ、ソラの追加発注案にツッコみたかったラームだったが。



(────ソラさんの──手───………………はあ?あわをををを──てて!ててててててててて──手をっ!手を手をはをあを手───熱い…)

 


 このようにツッコむことなどすっかりと忘れてしまうのであった。


 …ただ、トテトテと。


 ソラが歩む方へ。


 …ただ、手を引かれるまま。


 止めどなく掌に滲む汗に焦りながら。


 どれほどの力加減で握り返せばいいのか迷いながら。


 不自然にならぬよう何とかかんとか言葉をひねり出しながら。


 そんな焦りや迷いを悟られぬよう素直な足取りを心がけながら。


 ちょこんと。そっと。

 並んで、歩いて、ついていく。

 この時間が壊れないようにと。




 ソラも遅れて気付いた。この、心の中に突如発生した照れ臭さと、何ともむず痒い嬉しさに。


 チラとラームを見れば、その可愛らしい歩みのリズムに合わせて胸の揺れも控えめかつ、小刻みだ。

 ソラから見えるのはそれぐらい。この時、耳の先まで真っ赤にしながらうつむいたラームの顔…その口元がニマと…それでいて心底から困ったように…でも結局は、緩みまくっていた事には気付けない。


 そんな…近くも交わらない二人が描く平行線が、滲む光に彩られた屋台通りを縫っていく。



 そのままの距離を、最後まで、大切に保ったまま。




《クレクレ劇場。》


若造「あー…もぅっ、なんか…もうっ」

作者「…うん。」

若造「…食いてっ!塩っ辛いもんっ!」

作者「…飲みいく?」

若造「いや。ここは盛大に邪魔してやるっつーのも──」


 ドドドドドドドドドドド──(誰がが怒涛の勢いで走りよって来る音。)


作者「─ん?あれはラゴ──」


 ドガドガドガドガドガドガドガ(肘鉄連打の音)


作者「はがあがなんやめいやまじでごめつかなんでオレぐは『感想』えげ『ブクマ』あが『評価★』おぐ『レビュー』へげお願ぐわあああ!」


ラゴウ「…ったく、余計なことすんじゃねえ。バカ野郎が。」


若造「……………ホントっすょね…」


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