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第3深 食い尽くされた世界。




 構造体が寄り集まり無理矢理と合体、融合したかのような外観。



 近代的な建造物にも見える。しかしソレは側面が出っ張ったり引っ込んだり…色々と常識を無視していて、更には蔦が絡まって無意味な野趣まで醸している。 



 つまりは凸凹(デコボコ)として(いびつ)に、


 そして遠くから視ても頂上を霞ませる勢いで(そび)え立つこれは、


 巨大過ぎて視界に収まらないので時々忘れそうになるが…


 やはりのビル。

 超巨大な高層ビル。

 …にしてこの巨大さだ。


 『堂々』などという言葉で収まるものではない。さすがはダンジョン──と、言ったところだろうか。



 そう、この建造物は『国家』が従えるダンジョンの一つなのだ。


 ニョルニというこの街は、このダンジョンが『支配領域』とする旧世界の町並みを、そっくりそのまま利用する形で存在している。ここニョルニがダンジョン都市と呼ばれる所以だ。

 

 そしてこのビル…もといダンジョンの玄関はやはり、十分過ぎて立派な構えとなっている。それでも全体のサイズに比してしまえばちんまりとして見えてしまうのだが。


 それをくぐれば書類とインク、料理に酒、汗に煙草に…そして血の匂い──



 他所(よそ)にはない独特の人いきれ。



 ここは、『統治支局』。



 支局には『探索者』達がどの時間帯でも一定人数詰めている。しかしこれは、彼らに常駐の義務がある訳ではない。


 彼ら探索者達が自らの力量とその特性にとり、相性の良い『クエスト』を獲得しようと掲示板に殺到した結果、自然と住み分けのようなものが発生し、それが時間帯に反映された。


 もしくは、このエリアを抜け出し『本国への(さかえ)ある転移』を可能とする唯一の拠点として。


 とにかくここ、統治支局内はどの時間帯でも賑わっている。


 掲示板を前に命を賭けるに妥当なクエストをウンウン唸りながら吟味する探索者達。


 それでも満足のいくクエストが見つからずカウンターにもたれかかって統治支局員との交渉をしぶとく試みる探索者達。


 そのカウンターの別窓口にはクエストから持ち帰って来た素材や情報の換金をしながら、この後街の何処に繰り出すかに余念がない探索者達がいる。


 街に繰り出す元気はないが、クエストで溜めた疲労をはやく酒で忘れたいとロビー備え付けのテーブルに座り、持ち寄った保存食をあてに酒盛りを始める探索者達も。


 別のテーブルでは本国栄転を目指す真面目なパーティが探索者として築いてきたランクとポイントを基準に、今後どう活動するか計画を立てている。


 掲示板にもカウンターにもテーブルにも着かないあぶれ者達はきっと、適当なクエストに恵まれない…もしくはクエストに失敗して肩を落とす探索者達だろう。


 そしてそれを目ざとく見つけては、どうにか格安で依頼をねじ込もうと個人交渉を試みるモグリの依頼人達もいる。


 それらモグリからすら見向きもされない…そんな探索者達も当然いる。


 そんな有象無象の探索者には目もくれず、堂々たる成果を上げた将来有望な探索者を発掘し、個人的な縁を結ぼうとする商人や技術者達もいる。駆け出しから有力者まで層厚く。


 他にも格安の料理や酒や…煙草などの嗜好品など、依頼によっては急遽必要となる携帯食料や薬品、使い捨ての道具類…などなど…本来ならとてもフォローし切れないはずの探索者達の細かいニーズ、そのどれかに対応する事を副業とする者達も大勢出入りしていて──


 人、物、金、音、匂い、そして熱。それら諸々が織り成すこの空気──いや混沌。


 目に余る程でない限り、統治支局側は黙認している状態だ。


『甘い汁の匂いが一等漂うはこの場所』


 統治支局と名を立派に構えてはいるが、住人達の認識はそういうものだったし、それは支局側も望む所であった。勿論、誰しもがその恩恵にあやかれる訳ではない。



 …いや何が言いたいかと言うと。ここに在るものを観ていれば大体解る…という事だ。



 ──この残酷な世界について。



 この活気を前にして何の残酷を連想するというのか。それを知る前にはまず認識しなければならない。この世界が『食い尽くされてしまった』という事実を。



 ──空間に寄生し、根付き、



 素材と認めたあらゆるものを吸収し、

 それらを養分として階層を構築し、

 さらに拡張を繰り返し、

 その過程では同族までも侵略対象とし、

 あらゆる方位へ侵食し、

 統合し、

 果ては増殖までしてしまう──


 ──究極の構造体にして生命体…いや、


 今もって多くを謎とされる『界命体』。


 『ダンジョン』によって。


 しかも、無数の。


 確かに、敵性であるか親性であるかの別はある。


 だが結局のところ、この世界がダンジョンによって食い尽くされてしまった事実に変わりはない。


 それらダンジョン共は食い尽くすに飽き足らず、『魔素』なるものまで吐き出し全世界へ振りまいた。


 その影響で世界の形はさらに変わる事となった。地形だけの話ではおさまらず、命の形までが変わってしまったのだ。


 ただでさえダンジョン発生に巻き込まれ人口が激減していたというのに、魔素なるものの影響で『魔力』宿す『魔物』と呼ばれる異形種が蔓延るようになった。


 その被害により人口はさらに激減。それに伴い人類が生存可能な安全地帯も激減。人類絶滅へのスパイラルはこの時完成したかに見えた。


 だが見ての通りだ。


 人類は今も逞しく生きている。


 全ての生命が魔素の影響を受けたのだ。それは人類も例外ではなかった。人類は魔力を知り、『スキル』やそれを強化する『クラス』などの超越の力を得た。つまり自衛の手段は残されていたのだ。だから今も生き延びている。


 このように完全にダンジョン化したこの世界において、ダンジョンというものは紛れもない災厄でありながら、日常に深く根差したものとなっている。


 ()けようにも避けられない。そん環境であるなら、ただ指をくわえて過酷に甘んじるよりいっそのこと、利用した方が得であろう。


 そう思った方が希望が残る。

 そう思った方が足並みも揃う。

 そうなれば統治局側の苦労も減る。


 そんな環境である以上、ダンジョンを探索し、何らかの成果を持ち帰る『探索者』達が良しにつけ悪しきにつけトレンドの最先端を行くは自然な流れだった。


 しかしそんな『力の論理』はこの世界の『残酷』をさらにと深めてしまった。


 ダンジョン発生から数百年──ダンジョンの脅威とその恩恵である魔力が取り巻くこの環境は、人類社会に多くの不幸をもたらした。



 その最たるものとして挙げられるのが、『才能の格差』だろう。



 今や個人の能力の全ては『生まれ持った才能』で決まってしまう。



 簡単な話だ。スキルやらクラスやら、そんな便利かつ強力な力があるのなら?


 その有無や優劣によって人としての価値が判別されるのは、当然のこと。


 そしてそのスキルやクラスの発現と成長の度合いは、保有する『魔力』の質と量で決まり、その成長限界は生まれた時にはもう既に決まっているのだ。



 そう、これこそが残酷。



 なんせ生まれた瞬間、抗いようもなく決められてしまうのだから。



 ……命の価値を。



 こうして『才能の格差=能力の格差』という図式は確たるものとして根付いてしまった。



 『才無き者に用はない』…そんな非情も。



 勿論、才ある者でも各人の努力は必要なこととされている。各々が才を持ち寄り他者の才にあやからんと群れなすこの風景も、その努力の一環であるのだろう。



 ただ…『努力をするにも資格が要る』



 そんな世界になってしまった。

 ただそれだけの事だ。

 いや、それまでの事か。


 そんな世界でさらなる過酷を背負わされた男が一人。


 何の才も得られず生まれ、就いたあらゆる職場から追放され続けた男…。


 そんな事情から探索者にならざるをえなかったこの男は、同業者達からはこう呼ばれている。



 『最底辺の探索者』。




 彼こそが、ソラ。




 …いずれ全てを食らう者。





《クレクレ劇場。》


 ランキングを前に己が読書欲を賭けるに妥当なタイトルをウンウンと唸りながら吟味する読者達。


 それでも満足のいくタイトルが見つからず机にもたれかかって同級生からの情報を得んとしぶとく試みる読者達。


 そのとなりではランキング外から拾った掘り出し作品の情報を秘匿しつつ、この後誰にその『埋もれつつある名作』を教えるかに余念がない読者達。


 街に繰り出す元気はないが、仕事で溜めた疲労をはやくラノベで忘れたいと自宅備え付けのベッドに寝転がり、コンビニで買った乾きものをあてに『なろう』を開く読者達。


 他の家ではランキング入りを目指す無謀な作者がなろう作家として得るべき『ブクマ』と『評価ポイント』や『感想』や『レビュー』を今後、どうクレクレするか頭をひねっている。


 ランキングにも乗らず読んでももらえないあぶれ者達はきっと、ただチャンスに恵まれないだけで才能溢れる…もしくはとても面白い物語を書いたのにプロット段階の破綻に今更気付いて嘆く仲間達だ。


 …いや何が言いたいかと言うと、ここに在るものを観ていれば、大体解る。という事だ。


 ──この残酷な『なろう』世界について。





ソラ「いや、なんか……」


 ──え。なに?


ソラ「大変なんだな…。」


 ──うん。大変なのだ。




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