第21深 ダイブ再び。
ラゴウに魔導バイクを返す手間も惜しんで急いで帰宅したソラ達は早速、内蔵ダンジョンへとダイブした。ダイブしてみればそこは深い碧の角石を積み上げたドーム状、荘厳なる大広間…1階層だった。
思わず周囲を確かめる。シャドーゴブリンとかいやしないかと。どうやらいないようだが…
「…え、もしかしてまたこっからなのか?」
そう考えると随分と面倒な仕様なのだが。
【いや。前とは様子が違うようだぞソラ。アレを見ろ。】
「いやアレとか言われても。」
ソラにとって内蔵ダンジョンは声でしか認識出来ない存在。彼には身体がないのだから当然そうなる。いや、見えていないだけで構造体としてそれは存在するのだがそれはソラの魂の中にあり、今のソラはその中を探索中なのだからして…
(うーん。ややこしや。)
ともかく。指を差してもらえるでなく『アレ』とか言われても困るのである。だがソラは『アレ』なるものをすぐに見つけた。大広間中央に生えていたのだ。滑らかな光沢放つ四角柱が。
「前にダイブした時にはなかったよな。あんなの…」
早速近くに寄って見てみれば、その四角柱の台座は腰までの高さで上面には直径30cmほどの宝玉が埋まっていた。
(うーん。如何にも『触ってみろ』って感じだ…)
ソラは今、珍しくも躊躇するという事をしている。それはここが『相棒である内蔵ダンジョンの腹の中ではあるけども、問答無用で魔物が襲いくる敵地でもあるから』だ。どんな罠が仕掛けられてあるか分かったもんじゃない。
【多分大丈夫だ。触ってみろ。ソラ。】
だが内蔵ダンジョンからのお墨付きがあるなら話は別だ。ソラは早速触ってみた。すると──ブンッ──宝玉が放射状に波打つ光を放つ。空中に何かを投影していく。やがてハッキリと像を結んだそれには次のような文言が記されてあった。
===============================
現在の界位…1
⇒次回昇格条件…『界命戦術』の習得。
転移先
·第1の迷宮『界層試練』
⇒現在2階層まで。
===============================
「これってどうやら…今のお前の状態を表してるみたいだな内蔵ダンジョン…。まあともかく一からやり直しって事にならなそうで良かったが。」
記されているその内容によると他の階層へ転移出来るようだ。もっとも、現在転移可能な階層は『第2階層』までらしいのであまり意味はないが…
「『第1の迷宮』……?…ああそういや、裏声のヤツがなんか言ってたな…つか、『第1』って事は他にも…」
第2第3の迷宮でもあるのだろうか。
【いや、今存在してない迷宮の事を考えてもしょうがねえだろ。】
「まあ、うん、そうだな。ともかく。これを見る限りじゃ攻略した階層までなら次回から転移可能…そういう仕様みたいだな」
【いや。これは多分──
《──いいえ。攻略済みでなくとも構築した階層であるなら全て転移可能となってます。
個体名ソラ─あなたは前回2階層攻略の際、次の階層を構築せず帰還しました。だから転移限界が2階層までとなっています。
つまりは新たに階層を構築すれば即、3階層へも転移可能です──階層を構築しますか?──》
──て、事らしいぞ…チッ、相変わらずウゼえなコイツ。】
「…出た。久々の裏声コラボ。」
口調激変裏声アナウンスが内蔵ダンジョンの地声に割り込むこの感じ…内蔵ダンジョン本人もまだ慣れないようだ。それはソラも同じ。ただ…
「…なあ。」
【…なんだ?】
「一体何者なんだその…裏声の主は?お前とセットみたいだけどどうやら人格は全くの別モンみたいだし…」
前から気になっていたのだ。しかしタイミング的に聞けずじまいだったソラなのである。
《それは──
【ダンジョン的な本能…みたいなもんだ。…そう思っとけ。】
──…そうですね。それも間違いではありません。》
そんなソラの疑問に答えようとした口調激変裏声アナウンスに、今度は内蔵ダンジョンが割り込んできた。その様子から
(ん?内蔵ダンジョンのヤツ今…なんか隠そうとしたか?)一瞬そう思うソラであったが。わざとかどうか不明だが…
【そんな事よりお前気付いたか?界位昇格の条件が変わってるぞ!?】
「……ああそれな。」
結局はぐらかされてしまった…ソラ自身、何かの禁忌にでも触れてしまった気になり、追及を断念する。
「いや、ここまで出鼻くじかれるともうな。スルーしてたわ反射的に無意識に。」
【…ああ。つくづくってヤツだな。何かあるたんびにこうだ。全く思い通りになりゃしねえ。】
ソラと内蔵ダンジョンに封印されているはずのダンジョンの権能。それを新たに解放し、少しでも強化に繋げたかった。だからまずは『界位』を上げようと思っていたのだが…。
前回は領力の注入だけだったはずの昇格条件が『界命戦術の習得』に変わっている。これでは何のために頑張って領力をチャージしたのか分からないし、ソラはまだ界命戦術を習得出来ていない。
つまりは界位の昇格は、現段階では不可能…という事になる。
内蔵ダンジョンの言う通りだ。ダンジョン人間…思い通りにならなさ過ぎる。そして思い通りにならないのは他でもそうだった。
──成り行きとして暴走オーガを殲滅してみればダンジョンウォーズが勃発。その影響で色々と動かねばならなくなり時間をロス。そのせいで界命戦術の特訓が出来なかった。さらにはこの事態を収拾するには、ダンジョンウォーズに介入出来るほどの強さが必要となる。そのための強化には界位昇格もそうだが内蔵ダンジョンの階層を構築し、それを攻略する必要もあった。
そのためにはダイブ中、内臓ダンジョンのサポートなしにソラ自身が界命戦術を使えるようにならなければならなかった。だから今日は界命戦術の特訓をしようとしていたのだが以下略──つまりはあれだ。堂々めぐり。『うまくいかない』の典型だ。
「流石に思うぞ。俺って呪われてんのか?………………はぁ、でもしょうがない。今日のダイブは引き上げて界命戦術の特訓は後日改めて──」
と仕方なくあきらめそうになっていたソラだったが。
【チ…ッ、しょうがねえな。勝算不明の無理なんてさせたくなかったが…】
どうやら内臓ダンジョンには別の案がありそうだ。
【…どのみちダンジョンの強化には階層の構築と『拡張』は欠かせねえ事だった訳だし…ここは──】
「おい内蔵ダンジョン、何かあるのか?つか…『拡張』って何だ。」
『拡張』という権能に該当するダンジョンスキルは今のところ持っていない。
【ん?…ああ。次の界位昇格で【拡張】ってダンジョンスキルでも解放されねえかなってな…俺はそう睨んでた。まあその当てはこうして外れちまった訳だが…】
「なあ。その拡張ってやつをするとどう変わるんだ?」
【本来ダンジョンってもんは階層を構築して領力の最大値を増やしてく。界位を上げる度にダンジョンの権能が増えてくのはいいが、その分消費される領力も増えてくからな。なら領力の最大値を上げとかなきゃ話になんねえ…て訳だ。】
「フムフム。」
【だが階層を増やすにも限界がある。実際にそれだけで賄おうとすれば何百階層も構築しなきゃなんねえ。そんなの、現実的じゃねえだろ?】
「ああ確かに。」
【そのためにあるのが『拡張』だ。階層の一つ一つを拡張する事でも領力の最大値は増えていくからな。そうやって領力不足でやれません…って事を少しずつなくしてくんだよ。何をするにも領力が必要なダンジョンの権能は、強力になればなるほど領力の消耗が激しくなる仕様だし。】
「…なるほどな。で?」
【だから。今の俺達は界位昇格が無理で、そのせいで『拡張』を取得する目も閉ざされてる状態だ。】
「ええ?それだけ?」
せっかくの説明だったが聞いても虚しいまま終わった。(自分で質問しといてなんだが。聞いて損したぞ…)
【…じゃあ、せめて階層を出来るだけ構築して、それを攻略ついでに界命戦術の特訓をする。時間を惜しむならもう…これしかやれる事はねえ…まったく気は進まねえがな。】
ソラの無茶を助長するような気がしたが、内臓ダンジョンも事態の深刻さは理解している。不承不承だがその無謀な代案をソラに伝える事にしたようだ。
「うーん。確かに気が進まないけど…そうなるよな…」
意外なことにソラの方も躊躇している。だがこれには理由がある。
前回のダイブ時。
1階層の敵はシャドーゴブリン。
そこは楽勝だった。
2階層の敵はその群れが襲ってきた。
そこでは、もし人間のままだったなら致命。そんな深傷を負った。
たったひとつ階層を上げただけでこうも難易度が変わるのだ。普通のダンジョンではあり得ないほどの変わり様…この内臓ダンジョンでは軽々しく次の階層に挑戦する事はとても危険な行為なのだとソラ自身、よく理解していた。
しかし時間が惜しいのも事実だ。11区に迫る滅びを思えば、躊躇っている場合ではない。だから…ソラはまた決断する。
「よし…やるか。…と言うわけで【階層構築】だ。」
こうしてソラ達は未知なるステージ、内蔵ダンジョン第一の迷宮、その3階層に転移するのであった。




