第19深 アンバランス。
──暗夜。
障害物が多く、飛行系の魔物から比較的狙われにくい遺跡ビルの狭間を。
舗装が満遍なく割れ、平たく瓦礫化した道ならぬ道の上を。
地には根、空間に枝…と密雑に這い障る林道の中を。
ヒイィィィィィィィ──
魔導バイクが疾走──いや、低空を飛んでいた。
ハンドルもあるし座席もあるが駆動部にはタイヤもなく地を走らないこれは、バイクとは呼びにくい代物だ。車輪の代わりとしては風属性魔力の魔道回路が内蔵されている。それには『浮遊』や『推進』や『自動回避』や『風圧軽減』などの各種スキルが付与されいる。そのおかげで地上50cm空宙を浮いて移動する事が出来ている。
最近ではキメラホース(※仮死精霊を機関部とした魔導と機械と生体で構成されたハイブリッドボディを持つ馬型ゴーレム)が人気で主流なのだが、あれほどには馬力なく、浮遊しているとはいえそれほど悪路に強いわけでなく、魔石を燃料にしてしかも馬鹿みたいに食うので今では使う者など殆どいないこれはいわゆる、骨董品の類い。しかし駆動音が
ヒィィィィィィィィ──
と細く静かなので魔物を誘いにくいというメリットがある。それにシンプルな作りであるためほどほどの価格だし故障しても自前で修理しやすい。かつての探索者達に親しまれていただけはあった。
その『かつての探索者』にして今では『半隠居の武具職人』であるラゴウが蔵しホコリを被っていたそれを
『おう、なんだバカ野郎。注文の品ならまだ出来てねえぞ?何しに…っておい!駄目だぞそれは!何を勝手に触って──っておいいッ!待てやソラこのバカ野郎おお!?』
…という制止を振り切って半ば強引に借りて駆るこの男は…そう、ソラだ。
そのソラの額にフツと滲む汗。それがスピードに流され後方へ伝う…
彼は焦っていた。
今ソラは11区内に点在する居住区のいくつかを巡り、それぞれ避難漏れはないか支配領域を展開してみては探知する…という行為を繰り返している。
因みにこの救助活動は依頼された仕事ではない。自発的な行動。つまりはボランティア。
統治支局で聞いた複数ダンジョン連合軍による大規模侵攻…こんなものに巻き込まれたら村単位の居住区など一溜りもないだろうと心配して──…なんて言うとソラが英雄的献身からしているように見えるがそれは微妙に違う。これは彼なりに責任を感じての行為だった。
(この11区のバランスは…絶妙過ぎる。)
そう、この11区では何を切っ掛けとしてどんな災厄が起こるか分かったもんじゃない。
それはこのエリアに生きる全ての者が知るところで、今回の大侵攻を知った者なら誰もが不安に思ったはず。その微妙なるバランスが崩壊しつつあるのかもしれないと。ソラもその一人だ。そして
(俺は…それを…)
『その崩壊を、早めてしまったかもしれない』そう危惧していたのだった。
前に『豚人の巣窟』と『犬魔の草丘』と『邪鬼鉱山』はお隣同士であると述べたが、あれは『迷いの森』の周りを囲う中小ダンジョン群の一部分としてだ。
この迷いの森というダンジョンが特殊なダンジョンで、棲息する魔物はおとなしい代わりに、地形を忙しなく変化させ侵入した者を惑わし、迷わせ、結果的に殺す事があって…しかし、それさえ凌げば危険は少ない…という事も前に述べた通りだ。
そして何より、このダンジョンは衣食住に関して様々な恵みをもたらすダンジョンとしても有名であった。
しかもそれは人類だけに限った事でなく、魔物達にとってもそうだったのだ。
迷いの森をグルリと囲むようにして中小のダンジョンが乱立し、密集しているのはそのためだ。
迷いの森の恩恵によって各隣接ダンジョンの眷族(魔物)達の生態が安定しやすく…つまりは、ダンジョンにとっても立地的にそこはこの上なく便利な場所だったのだ。
しかし本来なら、こんな好物件にそんな中小ダンジョンどもがいつまでも陣取っていられるはずもない。
強ダンジョンの侵攻によって淘汰されるのが自然な流れ…であるはずなのに、今までそうならず無事でいられたのは、何故か。
それは、強ダンジョンによる侵攻でもあれば『迷いの森外周の他ダンジョンのどれかが横槍を入れ、撃退してしまう』という現象が起こるからだ。
…しかしこれは、同じ中小ダンジョン同士、仲間意識が芽生えて連携した訳ではなかった。
そのまま強ダンジョンの侵攻を許し新たなライバルが生まれてしまう方が何倍も厄介であるに決まっているし、乱入に成功した強ダンジョンは中小ダンジョン達にとって共通財産とも言える迷いの森を荒らし回るに決まっている。
そんな未来を阻止したいがために行われてきたこれらの連携は、結果論的なもの。
いや、もしかしたらこのような絶妙なるバランスの構築こそ、迷いの森という特殊なダンジョンの迂遠な生存戦略であったのかもしれない。
実際、人類側も強ダンジョンにより迷いの森が荒らされる事態をまずいとしている。
統治支局が隣接する中小ダンジョンを討伐せず適正な間引きで済ますよう探索者達に働きかけ、魔物の生態系をコントロールしてきたのは、強ダンジョンに対する防波堤代わりとするためだ。
ダンジョン側と人類側に、こうも忖度させる…。
もしここまでの事を見越していたとするなら迷いの森は、相当にしたたかなダンジョンであると評価せざるを得ない。
ともかく。こうして迷いの森を中心として絶妙な均衡を保ってきた11区内のパワーバランスをひっくり返しかねない今回の件は、あまりに異例。
ライバル関係にあるはずのダンジョン同士が積極的に連携し、しかも防衛ではなく自身の支配領域から侵出するなど、前代未聞の事なのだ。
しかもその軍勢を構成しているのがオーク種とコボルト種とゴブリン種の『三竦み』だと言うのだからこれは、異例に異例が被さる超異例。
そしてここからが本題となるのだが…。
何が発端でこんな異常事態になっているかと言えばそれは…『自分が狂戦士化したオーガ達を大量殲滅したあの事件が端を発しているのではないか』とソラは考えている。
『鬼岩砦』と言えば『豚人の巣窟』と『犬魔の草丘』、そして『邪鬼鉱山』にとっては何度となく自分達の支配領域に攻め込んできた『共通の宿敵』、そして遥か格上。
何とか防衛してきたものの、その度に煮え湯を飲まされてきた相手なのだ。中小も中小たるあのダンジョン達が、そんな格上相手にこうも大胆な作戦を決行するなど、常ならばありえない事。しかし…
(…もしかしたら…)
かの三ダンジョンは鬼岩砦が大量に戦力を消耗した事実を、どうやってか知ったのかもしれない。
…そして、そんなあり得ない積極的連携に着手してまでこの大規模侵攻に踏み切ったのは、この好機に鬼岩砦の息の根を完全に止めるためではないか?
あの時は狂戦士化したオーガどもを殲滅する以外、被害を抑える術など思い付くはずもなく…だから考えても仕方がない事ではある。しかしそれでも。ソラは考えずにいられなかった。
自分は…手にしたこの、『ダンジョンの力』に溺れて、選択を誤ってしまったのではないか────と思い耽っていた途中で。
「これは…つか、こんな…マジか」
ソラはついに、大量の足跡を発見した。
慌て魔導バイクを止める。
そして急いで支配領域を展開──
…してみれば。
《クレクレ劇場。》
作者「もしかしてこのコーナーに出てくれるのか姉──」
ヒミ「いいえ──出たくなどない。あいにく。全く。ただ恥ずいから勘弁。そう言っている。それから読者の方々に申し訳ないと何時も思っている。どんどんと好感度が下がっている事実をいまだ正当に理解出来ない愚か者は死ねと言っている。」
作者「死ねとかっ!?」
ヒミ「おこがましくも『ブクマ』や『評価★』を欲する下郎、お前はともかく目障りだ。『感想』?ましてや『レビュー』なんてもらえるわけもない。だから素直に我が視界から消え失せろ今すぐ。』…そう言いたいのをとても我慢している。」
作者「いや全然我慢出来てないよ?」
ラーム「えっと…ヒミさん!もっと言っていいですっ!」
口は悪いがこの姉御。なんだかんだと言ってほしいワードを織り混ぜてくる。こんなツンデレを見せるとはあまり考えてなかった。
作者(…という事はもしかしたらこのキャラにとって俺は好ましい創造主たりえている…のだろうか)
ヒミ「ああ?勘違いするなよつかツンデレとかキモい。潰れて死ねこの、、ブスっ!」
作者「潰…っ、つか、ブスっ!?ひでえ…」
ツンしかなかった。




