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第15深 はじめてのしはいりょういき。




 ラゴウの武具店『乾坤一擲(ケンコンイッテキ)』をあとにしたソラ達は、統治支局でクエストを受ける事を省き直接、狩場を目指す事にした。

 ラゴウと新武具の構想について話し合う時間が予定していた以上にかかってしまい、支局を経由する時間を惜しんだという事もあったが、昨日の様子から見て支局に寄ればまたラームと顔を合わせる事になる。そうなればまた心配させてしまうだろう。それは避けたかった。


 それに、ダンジョン人間へと生まれ変わったあの日に知ってしまった1()1()()()()()を思えば、クエストで得られる昇格ポイントなどにもはや価値などない。そう断じている。…というかソラは元々、『本国栄転』など目指していなかったのだが。


(まあ金は必要だけどな。それは素材を売るなり常設の討伐依頼で補えるし…)


 今はただ、強くなる事。

 強くなり、備える。


 という訳で。


 今日のソラの目的は彼単体で(内蔵ダンジョンのサポートなしで)界命戦術(ダンジョンアーツ)を使いこなせるようになる事だ。

 もちろんそれには倒した魔物を【吸収】して消耗した領力をチャージする事も含まれている。


 だがその両方を叶えるのに適した場所はあまりない。


 という訳で。


 ソラ達は今『鬼岩砦(オーガフォート)』へと向かっている最中だ。もう既にいくつかのダンジョンとそれらの縄張り…『支配領域』を通り過ぎている。


 鬼岩砦とは。


 難易度が高いとして有名なダンジョンの一つでそのランクは堂々の“A”。そして先日ソラと内蔵ダンジョンが共闘して鎮めたオーガの暴走…その発生源となったダンジョンでもある。

 あの騒ぎが広まってない事から察するに、おそらくはオーガの暴走は今、なりを潜めているのだろう。

 もし暴走が続いていたなら、さすがに街で噂になっているはずだ。しかしそんな噂はラゴウの店でも、その前に立ち寄った屋台でも聞く事はなかった。それに、ダンジョン内に棲息するオーガ全てがいなくなった訳ではないだろう。

 ソラ達はそのオーガ共を探し出し、倒すつもりだ。不謹慎な言い方だが、界命戦術(ダンジョンアーツ)を使えるようになるまで…その練習台とするために。

 オーガほどの強敵が相手でなければ領力を消費する界命戦術(ダンジョンアーツ)を使って倒した後、その死体を吸収しても領力の収支がプラスにならないからだ。昨日の戦闘でオーガ相手のチャージが効率が良い事は証明されている。


 …と、いくつか理由を述べてみたがとどのつまり、ソラ達はオーガ討伐に味をしめた訳だ。ある程度界命戦術に慣れ、領力が満タンになるまでチャージ出来たら自宅に帰還、そしてまた内蔵ダンジョンにダイブする………そのつもり、だったのだが。



「おいおい…どうなってんだコレ…」



 ()()()()()()()()()ので声は最小限に留めておいたが、思わずと漏らしてしまった。何故か。それはさっそく予定が狂ってしまったからだ。

 




 …今、ソラの眼下では『数十もの魔物の群れ』がこちらに向け進軍中だ。




 …ここに至った経緯を話す前にまずは説明が必要だろうから述べるとするが。


 『界命戦術(ダンジョンアーツ)』に限らず、ダンジョンの技能を使役するためには『支配領域』を展開する必要がある。言い方を変えれば、支配したその領域の中でしか、ダンジョンはダンジョン的な技能を発揮できない。

 今更になってそんな話を聞かされたソラだったのでピンと来なかったがつまりは、『界命戦術』を習得する前にはまず『支配領域』の展開に慣れる必要があるということだった。


 という訳で。ここまでの道中でソラは、内蔵ダンジョンから『展開』について手ほどきを受けていた。

 思った通りスパルタ式な教導。そのおかげもあり、ソラがなんとか支配領域の展開に成功した──その矢先の事だった。


 展開したての支配領域内に、魔物の反応があったのだ。しかもそれは群れだった。その感知に従い確認しに来てみれば──



 …まったくもってソラらしい。



 悪運憑きの本領発揮とでも言おうか。運が良いか悪いかと言えば…突然の遭遇となれば脅威となる相手をこうして余裕をもって迎え撃つ事が出来たのだから…


「(…うーん。ギリギリもギリだけど…『良い』と言ってもいいのかなー)…いや、もうそういう事にしておこうぜ俺。」


 こうしてまたも歪に発揮されるプラス思考なのである…もとい、数十もの魔物が相手だ。もちろん逃げてやり過ごすという選択肢も浮かんだが…、魔物達が向かう方向がマズかった。この先には居住区があるのだ。放置すればその居住区が蹂躪されることは必至。

 それで戦闘もやむなしとして今、ソラは大樹の上から迎撃…いや、急襲のタイミングを計っている次第。



「ったく、我ながら…なんでこうも厄介事に鉢合わせるんだろうな俺は…」



 こればかりはボヤかずにいられないソラなのである。しかもその魔物の群れを構成しているのが…


【オーク種にコボルト種、それとゴブリン種の混成軍か…この構成は…確かにこのエリアじゃ妙な取り合わせだな。連携してる以上、暴走してる訳じゃなさそうだが…】


 そう、内蔵ダンジョンが言った通りだ。この取り合わせは11区ではかなり珍しいとされている。


 オーク種は豚や猪の頭部を持つ体高2mの巨漢といった外見の魔物である。相当な悪食で、毒でも何でも平気で食らう。そのため各種耐性が鍛えられており、その頑丈な巨体に見合った膂力も併せ持っている。

 しかし巨体なりの爆発力はあっても──鈍重ではないが──その動きは大雑把で小回りが効かない。なので敏捷性に特化し、時には両腕(前脚?)を駆使した四足歩行で変則的な動きをし、群狼を連想させる連携力まで備えたコボルト種の群れを相手にすれば、簡単に翻弄されてしまう脆さもあった。


 コボルト種は猛犬や餓狼の頭部と頑丈な獣皮が特徴の魔物だ。獣に見た目が近いせいか五感に優れ、前述した通り俊敏で、本能的にコミュニティを大事にする習性から天然の連携力を備えている。

 しかしその獣らしさがアダとなり創造性に乏しく、文明らしい文明を築けない。だから様々な武器や毒や罠や魔術を扱い、ずる賢く泥臭い戦術を得意とするゴブリン種に纏めて足元を掬われる…なんて事もしばしばだ。


 ゴブリン種は醜く、弱い子鬼そのままの外見を基本形態とする魔物だが、繁殖力が高いとされる上記2種族のさらに──少なくとも倍以上にもなる──強力極まりない繁殖力を持ち、それを背景とした数の暴力に加え、先程述べた戦術まで活かしてくる。しかもそうして個々が様々な役割を担っていく中で多様な進化を遂げていく。

 しかしそれには限界があった。所詮は魔物なので人類のような無限とも思える多様性までは持てないのだ。相当に長く生き、相当な修羅場を踏んで奇跡的に生き延びた稀少進化体でなくては、その特性は小細工に留まる。それでは毒や武器の通りが悪く、圧倒的地力差でゴリ押しをしてくるオーク種には中々通用しないようだ。


 このようにして。


 オークはコボルトを苦手とし、

 コボルトはゴブリンを苦手とし、

 ゴブリンはオークを苦手としている。


 おまけにそれぞれの魔物を専門に眷属とし、支配下に置いている『豚人の巣窟(オークネスト)』、『犬魔の草丘(コボルトヒル)』、『邪鬼鉱山(ゴブリンマイン)』の各ダンジョンは隣接し合っていた。…そうなると当然、互いが邪魔者となる。これら3ダンジョンには侵略し合うを繰り返し膠着してきた歴史があるのだ。


 つまり、この11区の探索者界隈から『三竦み』と総称される彼ら3種族は、とても仲が悪い。


「…………なのになんで連携してんだよ…」


【さあな。なんにせよ俺らには関係ねえ。ほら、行くぞ?ソラ。】


 斥候役らしいコボルトを放ってしっかりと警戒しつつ、オークが前衛、コボルトが中衛、ゴブリンが中衛兼後衛…と役割を分担し、大雑把だが一応の隊列まで組んでこうも組織的に…まさに『進軍』といった感じだ。


 まあ、その斥候コボルトならば、ソラが既に楽々と全滅させている。返り血すら浴びていない。それは血の臭いで勘づかれないようにするための配慮だったがともかく、結果は良好。今のところ魔物達に気取られた様子はない。常にない連携をとっているとはいえ、所詮は魔物…という事なのだろう。斥候が帰って来ない事を異常事態として聡く対処するほどにはまだ、統制されていないようだ。


 つまり…()()ならば斥候全滅に気付く前。…そう、今しかない。


「よし。まずは遠距離攻撃を潰しておくか…」


【…おう、行くぞ…って、はあ?今なんつったお前──】


 ソラは自らの身体を樹に括ったロープに繋ぎ留め、両足を含めた3点固定で仮初めの踏ん張りが効くようにした。


 そして『支配領域』内を探る。


 ゴブリンアーチャーやゴブリンソーサラーなどの遠距離攻撃を担う魔物達の、正確な座標を把握するために。


(こんなの…人間の時は感じなかった…いや、感じられるはずもない。これは…ダンジョン独特の感覚…ってやつなんだろうな)


【おいおいソラまさかお前──】


 あいにく、内蔵ダンジョンの声はソラに届かなかった。…無理もない。ソラが感知したそれは、人としてはあり得ない情報量だったのだ。近距離で五感をフル稼働させて知ろうとしたとして…これ程詳細で、明確には認識出来るはずもない…そんな感覚。つまりは異常過ぎて異常なものだった。


(一体、何を感知してこうも詳細に…)


 生命を感知しているのか。魔力を感知しているのか。空気…もしくは魔素の揺らぎでも感知しているのか。


(いや、きっとそのどれでもない…という事しか分からないけど…とにかく。)


 まるで、全てを手中で直に確かめているかのように()()()()()()()()()


 だがおかしい。よく考えてみれば、全体像なんて見えるはずもない。


 目に見える正面の側があれば、その反対側は必ず死角となるはずだ。それが人間の感覚…であるのに。


 正面とその反対側それを同時に認識している…いや、それだけではない。真上からも、真下からもだ。これもまた同時に…こんな感知機能…人間に備わるはずもない。


 …いや、ソラはもう人間ではないのだが。


(他にも、敵迄の距離やら角度やら…何なら息遣いやら感触やら…臭いやら温度やら…風の流れやら…聞こえてもないし嗅いでもないし触れてもいない…なのに、何なんだ…コレ。)


 有形無形に関わらず、この距離を考えれば知覚出来ないはずのものまで。五感が鋭くなったのとはまた違う。それどころか、人間的な五感を、使()()()()()()()()()()ようだった。



『支配領域とする空間に在る全てを対象とした、ともかく異常過ぎる把握能力』



(これぼどの(わざ)を俺は…どうやって…)


 内蔵ダンジョンの教え方が良かったのかと聞かれたら、そうではないと答える。何せあの性格だ。大雑把な説明とただただ口悪く罵るだけだった。…なのに出来てしまっている。

 存在を捉えるにあたりこれほどに明確過ぎる情報を一度に詰め込まれては、かえって混乱してしまうはず。だがそうもならなかった。

 こんな馬鹿げた能力を割りと自然に受け入れてしまった自分が不気味でしょうがない。だが、ダンジョン人間だからこそ体得出来た『絶対の感覚(センス)』というやつなのだろうか……なんて、何故か納得してしまっている。

 

「もうこうなると訳わかんねーな。でも分かってしまってるんだからきっと…分かってんだろうな…俺は」


【いやだからお前はさっきから何言ってん──つか!説明しろこら!って無視かこの…ソラー?おい!聞こえますかソラくーん?オーイ!!もしもーっし!!?………駄目だこりゃ…】


 人間だった頃は『探知系』どころか、スキルすら生えた事がなかったソラなので、正確には比べようなんてないし、支配領域の展開はまだ未熟なのか範囲はまだ狭い。だがそれを差し引いても、これはおそらく高位の探知系スキルより精度も使い勝手も数段…いや比べようもなく、上。


(それだけは間違いない。)


 支配領域…なるほど。『支配』と冠するだけはある。ソラは新しく得たダンジョンセンスに戸惑いを感じながら、それ以上に自信を深めながら、内蔵ダンジョンによる諸々のツッコミをガン無視しながら、道具袋の中にあらかじめ詰めていた大量の拳大の石…その一つをおもむろに取り出した。


 それをじっと見る。そして、


「…外れる気、全くしないな…」


 と確信を深めつつ。


【いや何が?つかお前!なんで拾ってんだろと思ったが!投げるつもりかそれを?おい!戦うつもりなのか?石で!?いやいやいや──】


 と五月蝿いダンジョンをスルーしつつ。大樹の枝を足場とし、幹に括り付けた命綱を頼りとした不安定な状態で、それでも大胆なフォームをあえてと選んで。


 ソラは、振りかぶった。

 その動きに躊躇いはない。


【だから!待てってばオイ!ソラっ!待っ──まさか殺り合うつもりなのか?下位の魔物とはいえ数十もの群れを…単独で?おいソラ!聞いてんのか!?】



 こうして始まるのであった。



【──くそっ!マジかよ…っ!】



 とある底辺探索者による、単独の死闘──いや、一方的な殺戮が。




《クレクレ劇場。》


 このようにして。


 作者はこの物語を愛し、

 でも登場人物達は作者を苦手とし、

 読者様方はそれでも読んでくれている。


 そうなると当然、『感謝』となる。これら3者には物語を通して『繋がる』を繰り返し『ともに成長してきた』歴史があるのだ。


 つまり、このなろう世界で『四種の神器』と総称される『感想』『ブクマ』『評価ポイント』『レビュー』をクレクレするという行為は、とても行儀が悪い。



ソラ「…………なのに、なんでクレクレしてんだよ…」

内蔵【さあな。なんにせよいつもの事だ関係ねえ。ほら、行くぞ?ソラ。】

ソラ「そうだな。」


作者「…え。もっと絡もうよ」

 

 人望、無かった。


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