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第14深 人ってやつは。





 ソラは何とか無事にダイブから帰還を果たす。そしてゆっくりと目を開け、身体を起こし──



「──何っじゃあこりゃあっ!?」



 絶叫した。目覚めると着ていた寝着も横たわっていたベッドも血だらけだったのだ。


【あー。魂が傷つけば肉体も影響を受けるからな。当然こうなるぞ?】


 平常運転で衝撃の内容を告げてくる内蔵ダンジョン。それを苦々しく思いながら


「ぐ…そういやそれらしい事を言ってたな…」ソラは思い出す。


 ソラと内蔵ダンジョンは魂を通じて同化している。

 なので内蔵ダンジョンの中というのは『魂の世界』…つまり現実ではない虚構の世界なのではないかとソラ本人も誤解しそうになっていたが、実はそうでないらしい。


 ただダンジョンコアがソラの魂に根付き、基点となっているだけ。その基点から広がる世界は異次元にあるのか…それはまあ、理解不能な話だがともかく。


 内蔵ダンジョンは“実在”しているのだ。


 感覚的には『ダイブ(潜る)』と表現した方がしっくりくるのでそうしているが、これは『内蔵ダンジョンという“実在する世界”に魂だけの存在となったソラが訪れる』…という行為になる。


 しかしそれは、『よりむき出しに命を晒す』という行為でもある──内蔵ダンジョンからはそう言われていた。

 これはダンジョンと同化し、肉体が『器という概念』でしかなく、生命力に依存せずより根源的な…『魂の力』に依存する…そんな命を持つダンジョン人間にソラが成ったからこそ、出来る事であるらしい。


 人間が消耗した生命力や傷付いた肉体を自然に治癒するのと同じレベルで、ダンジョン人間は通常修復不可能とされる魂の損耗をすら自然に治癒する事が出来てしまう。だから魂を晒すという無茶が許されるのだ。


(でもそんな状態で戦うとさすがに …)


 まさかダンジョンを構築したら魔物がいきなり湧いて、しかもそれと戦うハメになるなどとは、ソラも内蔵ダンジョンも露ほども想像していなかった。


(それで傷つけばどうなるかって言やぁ……)


 そこまで内蔵ダンジョンに言及していなかった自分も悪いのだが…と思いながら、ソラは血だらけのベッドを改めて見やった。


(…こうなる訳ね…)


 …改めて衝撃的だがしかし、『確かに』とも思う。今更気付いても遅いのだが。 

 減った魂力は自然回復に任せるしかないが、魂だけの存在時に傷つけばその傷が肉体に反映される。そしてそれと同じく、修復の方も現実に反映される。

 実際、血だらけとなった身体のどこを探っても傷はしっかりと塞がっているようだった。しかし、     


(それでも血を流した事実がなくなる訳じゃない…)


 だからこうしてベッドを血で汚してしまう事になる。


「こいつは盲点だったな…そこで質問なんだが。もし俺がお前(内蔵ダンジョン)の中で死んだ場合…どうなるんだ?」


 その答えは分かっているが、もう聞かずにはいられないソラなのである。


【そりゃあ、どうもこうもあるかよ。魂が死ねば肉体も死ぬ…て言うかそれ以前に命が直接消えんだから即死するに決まってる。良かったな。ダンジョンスキルを持ってて。】


「うえ…」


 そう、『魂に直接傷がつく』…その響きだけでその深刻さは誰にだって理解出来るだろう。

 人間をやめてダンジョン人間に進化しておらず、【依魂】という人の規格から大きく外れたこのスキルがなければ、魂にカスリ傷が付いただけで本来なら…


「(死……良くて人格崩壊とかか?)んー…ああ、そうだな…マジで良かったな………」


 と溜め息混じりになんとか同意の言葉を吐き出しながら、ソラは血濡れたシーツを剥ぎ取った。

 それなりに稼いではいるが()()()()万年金欠のソラとしては、シーツ一枚と言えど買い換えるのは手痛い出費だ。『でもこれはさすがに捨てるしかないよな』と諦める。


 それを切っ掛けに頭の方も切り替える。


 『今はそれどころではない』と。


【オラ!もたもたすんなソラっ。特訓だ特訓!今後のダイブを考えれば俺の補助なくお前の力だけで『界命戦術(ダンジョンアーツ)』が使えるようにならなきゃ話になんねえ!そして特訓のついでに【吸収】だな!消耗した領力をチャージしねーと!】


 魂を共有しているだけあって内蔵ダンジョンも同じ気持ちであるようだったが、


「分かってるっ!ちょっと待ってろっ」


 分かっている事を先に言われてしまうと何というか腹が立つというアレ。 

 そしてソラは慣れない隻腕にも苛立っていた。そして苛立ちながらも、思っていた。


(俺…なんで眠くなってないんだ?)


 昨日は昼に現世で鬼退治、夜は内蔵ダンジョンにダイブして構築もとい攻略…という二段構えの忙しさで、全く寝れていなかったのだ。なのに今、全く眠くなっていない。


(もしかしたらダンジョン人間には睡眠なんて必要ないのか…?)


 もしそうならこれは…生物としてはかなりのアドバンテージとなる。


(…でもそれはそれで寂しいような…)


 とか思いながらまず血を洗い流すためシャワールームへと向かうソラだったが。


「つか、オイ。」

【あ?なんだ?】



 そう。まだ一つあった。

 気になる事が。



「お前って…俺がシャワー浴びてる間はどうしてるんだ?」


【ああ?何もしてねーわ。つかずっとお前の中にいるしかねーわ。】


「…じゃあ、その…見てたのか?…()()。」


【はあ?だからお前は何を言って……あー。なるほどな。…ったく人間特有の恥じらいとかいうアレか?つかお前もう人間じゃねーだろ。何を気にしてんだよ…】


「く、言うなそれをっっ!つか、気にすんだろ普通はっ」


【……あのな。ダンジョン相手に恥ずかしがってどーする?】


「やっぱ見てたのか…チっ、なんかやだな。」


【な…舌打ちぃ?アホう!見たコッチが恥ずかしくなるようなモンぶら下げといてテメーはこの野郎っ!】


「な……どういう意味だっ!」


【そういう意味だこの野郎っ!被害者ぶるならもっと立派なもんに付け替えてからにしろや!この○○○が!】


「ぐううう!やっぱ見てんじゃねーか!しかも割としっかり見てんじゃねーかっ!この■■■!」


【うるせぇこの○○○がぁっ!】


.

.

.

.

.

.

.

.


【…って、ここは何処だバカ野郎!こんなとこに寄り道してる暇があるとでも思ってんのかこの○○○っ!】


「うっせえこの、▲▲▲ダンジョン!少しは黙ってろマジでうっせぇっ!」


【■■■がっ!】


「●●●めっ!」


 ……という不毛な会話はあのシャワーの後、身支度を済ませ、厳重に戸締まりをして、外に出て、朝の通りを歩き、その途中屋台で簡単な朝食を食べ、()()()に辿り着くまでの間ずっと続いていた…誰憚る事なく…統治局本部に正体を知られてならぬとあれほど誓ったソラは何処へ行ったのか。因みにこれを見て周囲がドン引きしていた事は言うまでもない。


 …こんな風に。


「……おい。遂にイカれやがったかバカ野郎。」


「あ。オヤッサン久しぶり。」


「いやそんな久しぶりじゃねーだろバカ野郎。でも確かに随分久しぶりな感じがするな…。何でだバカ野郎?」


「いや言われても」


「あー。前会った時は両腕揃ってたからな。それでかーなるほどな……ってなるかっ!!このバカ野郎ッッ!!!」


「うわあ。」

【ぅわうっせっ。なんだこのオヤジ?】

「名前はラゴウ。大昔はかなり名の売れた探索者で今はニョルニ一番の武具職人……そして俺の、元師匠だな。」


「なんだぁ?誰に紹介してんだバカ野郎…」


【あん?お前って武具職人を目指してたのか?】

「いやそれなりに稼げるならどんな職業でも良かったんだがな。他にも色々やってたぞ?職人でも商売人でも。まあこのオヤッサンを始めどこからも追い出されたんだが……それでもこのオヤッサンには世話になったと思ってるし、今も世話になってる。」


 ソラも懲りない。また人前で内蔵ダンジョン(頭の中)と話しこんでしまっていた。


「だからお前は誰と喋ってんだ誰とこのバカ野郎。しかもそんな恥ずかしい内容をベラベラとバカ野郎。」


 ラゴウは本気で心配そうな顔をしていたが、さすがは職人。気持ちを切り替え問い直してきた。


「で?そんななりで何しに来やがったんだ“元”不詳の弟子。思い出話でもご所望なのかこの“現”クソバカイカレ野郎は」


「いや相変わらず口悪りいなオヤッサン……まあ、見ての通り片腕になったもんだから色々とバランスが狂ってな。武器を見直そうかと思っ──」

「ああぁんっ!!?」

「ああやっぱそうなる──」

「武器だあ?テメー……そんな身体になってもまだ探索者なんて続けるつもりかっ!!このバカ野郎っ!!」


「いや、まあ、その…うん。しかも素材持ち込みなんだけど。大した稼ぎにはならないかもしんないんだけど。…頼めるかなオヤッサン?」


「バカ野郎!!!!」

「うわあ。」

「そもそもとしてスキルも持たない貧弱なお前がバカ野郎!探索者なんて務まるはずなかったんだバカ野郎!だってのに……この大バカ野郎っ!」


「いやオヤッサンがそれを言う?俺に武具職人から足を洗わせたのはあんただろうに?」


「ぐ、ぬ。バカ野郎……」


 痛い所を点かれ、ラゴウは口惜しそうに口を噤む。


「他のどの職場でも似たような感じで追い出されたしさ。無才な俺にはもう探索者の他に稼げる仕事ななんてないんだ…察してくれ。」


 こう言われてしまえばもう何も言えない。


「いや…心配してくれて嬉しいし、心苦しいけど…スマン。オヤッサン。」


「いや…………く、こうなるって分かってりゃぁ……いや……ったく…、…バカ野郎……」


 これはいつものパターンであった。


(バカ野郎…俺だってテメーを破門になんてしたくなかったさバカ野郎)なんて事を言う資格すら、自分にはない…ラゴウはそう思っている。


 このラゴウという男。元一流探索者という経歴から武具の扱いは一流。しかも作る方にも才能があり、生産系のスキルも多数持つ。そして性格も豪胆にして剛健から来る実直。融通が利かないと言う者もいるが仕事ぶりは武具職人としても一流で、職人界隈では重鎮とされ顔もきく。


 そしてソラの事を相当に見込んでいた。


 『他の弟子どもとは根性が違う』と別格の扱いをし、技術を惜しげなく叩き込んだものだったがいかんせん、ソラに武具職人としての才能というものが全くなかったようなのだ。


 確かに感じたのだ。

 ソラから光るものを。

 で、あるのに。


 少しでも武具職人としての素養があれば生えるはずのスキルがソラには生えなかった。

 これでは他の弟子達にも示しがつかず、かと言ってソラを粗末に扱う気にもなれず、心を鬼にしてそう扱ってみれば他の弟子達が調子に乗ってイビりだす始末。

 ラゴウはとうとう、ソラを破門するしかなくなった。


 その判断に踏み切った背景には、『人には向き不向きがある。自分の勝手な期待に付き合わせてソラの人生をこれ以上無駄にさせてはいけない』という親心と、『これ程の性根を持つバカ野郎なら他のどんな職場でも親方に気に入られるはずだ。ここじゃないどこかならきっと芽が出るはず…』そんな思いもあった。


 だが、それは甘かった。そもそもとしてスキルを生やす源である魔炉が、ソラにはなかったのだから。


 のちにラゴウはこの判断を下した過去の自分を心の底から恨む事になる。


 重鎮として名の知れたラゴウに特別扱いを受けながら破門にされたのだ。それをきっかけにソラの悪い評判が瞬く間に広がった。何か良からぬ素行があったに違いないと。

 どうやらそれはソラに嫉妬していた他の弟子達が流した噂が発端であるらしく、その弟子達を謹慎処分とし、その上でラゴウ自身も自らの不徳を説いてソラの悪評を払拭しにかかった。だがそれは結局意味をなさなかった。

 何故か。それは他の職場でも、ソラにスキルが生える兆しが一向になかったからだ。



 この世界ではスキルのある無しで評価の大部分が決定される。



 ラゴウ自身もその風潮に文句を言える立場になかった。実際、本心がどうであれ、スキルが生えない事を理由にソラを破門にしてしまったのは…自分も同じだったからだ。

 そして案の定ソラは他のどの職場の親方にも認められ、期待をもって鍛えられはしたが結局、スキルは一つとして生えず、実績を積む事なくどの職場からも追い出された。しかもそれは繰り返された。

 こうしてラゴウの擁護が追いつく事なく、ソラはどんどんと評価を下げていき、遂には行き場を失った。

 これに責任を感じ、自分の師としての力不足に嫌気がさしたラゴウは弟子達のことごとくを独り立ちさせる…もしくは別の親方に預け…そして今は独り。町の端っこでほそぼそと武具職人を続けている。


 そんな経緯など知らなくとも内蔵ダンジョンなりに、何か感じるものがあったのか。彼は思っていた。


【(あのラームとかいう女と同類か…)】


 この男もそうなのだろう。スキルに愛されながらスキルによって人生を狂わされ、ソラに何らかのシンパシーを感じるに至った人間。

 彼らに共通する一番の皮肉は、ソラの理解者となって心配するあまり、探索者を辞めさせようとしながら結局は、協力せざるを得ない。そんなジレンマを抱えてしまうことだろう。


【(人間……てのも……難儀な生き物だな)】


「……たくバカ野郎が…、なんか構想でもあんのかバカ野郎」


「お。さすがオヤッサンっ、じゃあ早速…」


 ラゴウは屈託のない顔と声で武具の構想を語るソラを眩しそうに、しかし困ったように、ともすれば少し哀しそうに目を細め…見守っている。


 ソラはその目に気付いていたが気付かない振りをする。


 内蔵ダンジョンはその様子に何かを感じながらも感じたのが何であるのか分からないまま…深く考えないようにした。


 居心地がいいのか悪いのか分からないこの時間を、三者三様にただ味わう事でやり過ごしている…内蔵ダンジョンにしてみればそれは、とても不思議な時間であり、空間であった。



 そしてダンジョンとして生まれ持った殺伐…非情…傲慢……それらがほんの…ほんの少しずつだったが溶かされ始めている事に……彼自身、気付いてはいなかった。




《クレクレ劇場。》



ラゴウ「なんだぁ?急に何が始まったんだバカ野郎…」


内蔵【あん?作者の肩書きってなろう作家だけじゃねえのか?】


ソラ「いやそれなりに稼げるならどんな職業でも良かったらしいんだがな。他にも色々やってたみたいたぞ?職人でも商売人でも。まあこのなろうを始めどこでも粗相しまくってんだが……それでもここの読者様方には世話になったと思ってるし、今も世話になってる。」


 ソラも懲りない。また後書きで作者への悪口を話しこんでしまっていた。


ラゴウ「だからお前は誰のことを喋ってんだ誰のこのバカ野郎。しかもそんな恥ずかしい内容をベラベラとバカ野郎。」


 ラゴウは本気で心配そうな顔をしていたが、さすがは職人。話題を切り替え本題に戻してきた。


ラゴウ「で?そんなフリで何を欲しがってんだ。『感想』か『ブクマ』か『評価ポイント』か。まさか『レビュー』でもご所望なのかそのクソバカイカレ作者は」


ソラ「いやオヤッサンがそれをやる?出番欲しいの?だからってあんな作者に媚び売らなくてもいいだろうに?」


ラゴウ「いや…………く、こうなるって分かってりゃぁ……いや……ったく…、…バカ野郎……」


ソラ(堕ちたかオヤッサン…)


内蔵【(…哀れラゴウ。)】



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