転生先は村でした-1
目が覚めるとそこは真っ白の世界だった…ってのはどこのドラマだったっけな。
そんなことを思いながら俺はどうなっているのか考えた。
昨日は仕事が終わってすぐに帰ったはずだ。確か家に着いたのは0時を過ぎたところ。風呂に入って寝たと思ったんだけど…
(目が覚めたと思ったけどこれは夢の中か…?)
『夢の中じゃないよ』
自分しか居ないと思っていた空間に、自分以外の声が聞こえ思わず身構える。辺りを見渡すと10歳ぐらいの男の子がいた。前髪が長く目が見えないため表情がわかりにくい。
「えっと…君は…」
『こんにちは。藤田 明彦さん。僕は“神様”です』
「………は?」
相手の言葉に思わず首を傾げてしまう。目の前にいるのはどう見ても普通の男の子だ。そんな子が自分のことを神様だって?なにか遊びに付き合わされているのか?それとも俺の夢なんだろうか
『夢じゃないよ。君の思っていること分かってるでしょ?まだ他にも君のことは知っているよ。藤田明彦。30歳。小さい頃から出来の良い兄と比べられ両親は見向きもせず。会社に入っても理不尽な事ばかり言われたり、功績を横取られまともに評価もされていない。』
目の前の男の子の言葉に驚きを隠せない。男の子の言っていることは正しい。正しいと分かってはいるのだが神だと言われ「はいそうですか」と納得するのは難しい。
『まだ疑うの?ならまだ教えてあげようか?初恋の子は中学3年の時の右斜め前の席の戸田さん。黒髪の長い子だね。戸田さんは誰にでも優しいから君にも話しかけてくれて、それがきっかけで戸田さんのことが…』
「わかった!!わかった!!君の言ってること信じるから」
戸田さんのことは誰にも言っていないのに知ってるなんて…うん。この人は神様なんだ。そう思おう。
でも神様が俺に何の用だ。それにこの真っ白の部屋は…
『ここはなんだ…って問いに簡単に答えるなら“あの世”だよ』
え…?あの世?それって俺死んだってこと?俺普通に寝てただけだよな?なんでだ?
神様の言葉に疑問しか浮かばない。寝る前の自分の行動を思い出しても死ぬようなことはしていないはずだ。毎日死にたいとは思っていたけど、死ぬなんて勇気がなかったんだから
『過労だよ。過労。働きすぎだし栄養不足だし。仕事してからまともに生活出来なかったでしょ』
神様の言葉に頷く。俺がいた会社はいわゆるブラック企業だ。仕事が出来ない奴は誰よりも早く来て、誰よりも遅く帰るのが普通。始発に乗って終電で帰る。終電で帰れれば良い方だ。俺はよく会社に寝泊まりしていた。食事も食べる時間が勿体なくて携帯食で腹を満たしていた。でも死ぬまではそれが普通だと思っていた。仕事も出来ない俺は人一倍努力しなきゃダメなんだと思っていた。人一倍努力していればいつかは誰かに認めてもらえる、必要としてくれると思っていたけどその前に死んだのか…
『まったく…君はよく頑張ったよ。明彦。生きづらかっただろう。しんどかっただろう。本当によく頑張った。もう大丈夫だよ』
そう言うと神様は俺の頭を撫でた。頭上にある手は俺よりも一回りも二回りも小さいはずなのに、初めての温もりに手を払うことが出来ず涙を流してしまった。
『落ち着いたかな?』
「ずびばぜん…」
しばらく泣いた俺はどこからともなく現れたティッシュで鼻をかみながら頭を下げる。神様とはいえ見た目は10歳くらいの男の子だ。子供の前で泣いたとは恥ずかしい…
『さて、スッキリしたところで君がここにいる理由を話そうか』
そうだった。目の前にいる男の子が神様だってことはわかったが、俺がここにいる理由が分からない。あの世とは言っていたが閻魔大王様でもでてくるのか?
『彼は出てこないよ。そうだね…簡単に言うと君は間違ってこの世界に生まれてきたんだ』