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後章―『Chapter6「王子の犯行(後編)」』

******************************



――Chapter6「王子の犯行(後編)」――



「では、どうぞ。こちらの客間をご使用ください。何かご用、不便ふべんがありましたら先ほど通りました使用人控室まで……」


「ふむ……ありがとうございます。ああ、そうそう。客人として不躾ぶしつけですが……無用な訪室はなるべく控えていただきたい。そうにしても、こちらが対応するまで少し時間がかかるものと思ってもらえると助かります」


「はぁ、それは結構ですが――」


「なにぶん、長旅で疲れていましてね。ゆっくりとくつろぎたいのです……配慮はいりょ願えるとありがたい、という話しです」


「承知いたしました。そのように城内へと伝えておきます」


「頼みましたよ」


 兵士の1人は丁寧ていねい敬礼けいれいをして、客間きゃくまを出ていきました。魔術師は「ふぅ」とため息をつき、入口のとびらじょうをかけます。


 アプルーザンから歩いてきた魔術師は実際、かなり疲れているのでしょう。ゆったりとしたコートでわかりませんが、その中身は華奢きゃしゃなものでとても丈夫そうではないようです。


 魔術師は客間に設けられた大きな窓に近よりました。少し高い位置にある客間、そこから見える景色には広がる青空とアスファラ山脈の稜線りょうせん、ゆらぐ小麦畑の黄金色が輝いて見えます。


 魔術師はフードを外し、「ふぅ」と再び息をつきます。そうしてしばらく景色を眺めた後、部屋にあるソファへと腰を下ろしました。


 魔術師は赤い前髪をなで、長いまつげの瞳を閉じて天井を見上げます。口元の布を取ると、潤いあるくちびるが言葉をこぼし始めました。


「フフッ……エルダランド、か。話しに聞くように美しい景色と豊かな自然……悪くないな。のどやかな国民性とやらも、あの国王と家臣団を見れば納得できる気がするよ」


 1人だけの部屋で1人で語る魔術師。チラリと窓の外に視線を向け、「ようは田舎の国よね、結局のところ……」と嘲笑ちょうしょうしました。そうして独り言であるうちは少し声色こわいろが高くなっているようです。


 それと同時でした。「ダン・ダン!」と客間の扉が強く叩かれます。


 魔術師はすっかり気を抜いていたらしく、「ひゃっ!?」と声を出して跳び起きました。そうしてしかし、すぐに「ムッ」と表情をくもらせながらフードをかぶり、口元に布を巻きます。


「――――だれですか、言ってあるはずです。無用な訪室は控えてほしいと……伝達もろくにできないのですか、この国は?」


 あきらかに不機嫌です。魔術師はそうしてイラだちながら、鍵のかかった扉をにらみます。


 すると、扉の先から声が聞こえてきました。


「いきなりごめんなさ~~い! でっもちょっといいですかぁ、お話ししたいことあるんですぅ~~☆」


 ずいぶんと軽い口調です。先ほどの兵士や王様たちとは異なり、客人に対して、それも帝国の重鎮に対するものとは思えません。


 魔術師は「なんなんだ、一体……」と不審ふしんに思いながらも扉に近づきます。そうして警戒けいかいしながら扉を開きました。


 そこには、満面の笑みで立つ屈強な男の姿があります。


「・・・・・だれですか、なにを笑っているのです?」


「僕はリィンダイト=ヴェイガード、みんなからはリッキーと呼ばれています! アプルーザンの魔術師さん、僕と少しお話ししていただけませんか!?」


 それはリッキーでした。満面の笑みで立つ人はリッキー王子で、扉を引いて空けた先にあるその姿を魔術師はやはり不審そうにしています。


 ですが、名乗られてすぐにわかりました。その名前はエルダランドにおいて、あのアイザード将軍に並んで王様よりも有名な名前だからです。


「リィンダイト……王子様ですか。なんでしょう、私と何を話すことがあるのでしょうか?」


 魔術師は不審に思いながらも相手が王子なので追い返すわけにもいかず、とりあえずは話しを聞こうとしています。ですが、部屋の中には入れようとしません。どうにも軽い口調などからまるで彼を信頼していないようです。


 リッキーは「へへへ」と笑いながら言いました。


「あのさ……君は永遠の老婆について父さんたちから情報をもらうんだろう? それさ、俺にも教えてほしいんだけど。ねね、いいでしょう?」


「はぁぁ?? 永遠の老婆の……って。あなた様は王子なんですから、それこそとっくに知っているでしょう。だいたい、聞けばすぐに教えてくれるでしょうに……」


「いや、ダメなんだ! 俺さ、昔にほら、ちょっとやってしまって……教えてくれないんだ。父さんもほかのみんなも、まるで教えてくれない。警戒されちゃってるのよね、俺ってばさ!」


「昔に、やってしまった?? ……ああ、そうか。ベンズ=ロビンソンの件では迷惑をかけましたね。元の同僚どうりょうとして謝罪と感謝を……」


 魔術師はリッキーの左腕を見て、そこにある火傷のあとを眺めながら言います。赤トカゲはバシャワールの出身であり、つまりこの魔術師は同じ部隊所属として面識めんしきがあったのでしょう。


 リッキーは指で鼻先をこすりながら「へへへ、どってことないよぉ!」と胸を張ります。魔術師は少し複雑そうにしながら、「それはそうとしてなぜ私に?」とやはり警戒しながら答えます。


「いやぁ、お城の人たちは俺のこと警戒しちゃってダメだから。外から来た君なら教えてくれるだろ~って。ねね、いいでしょう??」


「警戒ねぇ……それを言うなら私だってあなたに気を許してはいませんよ。なにせ初対面ですし……」


「え、どうしてさ? ねぇ、頼むよぉ~! 知りたいんだよ、ねぇねぇいいだろぉう~~??」


「…………ふぅ」


 しつこく頼み込んでくる王子。アプルーザンの魔術師は一度視線をふせると、少し考えました。そして顔を上げて答えます。


「つまり、あなたは父である王様から魔女についての情報を得ることを禁じられていると、こう解釈してよろしいでしょうか?」


「うん、そうなんだ! だから困っていてさ、そこで君に――」


「王の判断であるならば、客人である私もそれに従うしかありません。ですので申し訳ないが、あなた様の希望にお応えすることは不可能。ご理解し、お引き取り願います」


「・・・・・えっ」


 魔術師はそのように言い切り、「では」とだけ残して扉を閉めました。リッキーは予想外だったのかその場で立ち尽くし、そうして「ドンドン!」と扉を叩きます。


「ねぇねぇ、教えてよぉ~~! どうしたってダメなの? 頼むよ、一生のお願い! ……あのさ、“お兄さん”聞いてる?? ちょっとちょっとぉ!!?」


 そうした言葉を聞いて、室内の魔術師は「ムッ」と表情を曇らせました。それは彼がしつこく、やかましいからでしょう。


「やめてください、王子! これ以上さわぐようなら人を呼びますよ。あなたの訴えも全て伝えて、王様に報告してもらいます! いいんですか!?」


 室内から魔術師が声を張り上げました。それを聞いたリッキーは「うっ!?」とだけ発し、扉を叩くことを止めます。


 そうしてトボトボと……しょぼくれて肩をおとしながら客間の前を去っていきました。


 気配が無くなっても油断せず、魔術師は慎重に扉に近づいて様子を探りました。どうやら確かにいなくなったようなので、「困った人だ」と不機嫌にしながらソファへと腰を下ろします。


 そうして「この国では王子にまともな教育もできないのか!」と荒々しく口元の布を取りました。



 一方、客間から追い返されたリッキー王子……。


「ちぇっ、なんだよなんだよ……いいじゃんか別に! みんなして俺のこと仲間外れにしちゃってさ……なんだかだんだんと、腹が立ってきたぞ!」


 両手をズボンの腰元に突っ込んで、くちびるを尖らせた表情。「ケッ」と舌を鳴らしてお城のろうかをふてぶてしく、大またに歩きます。


「別に俺1人で魔女をどうこうしようって……そうしたって結局は昔と同じことになるだけだもの。だから本当に、ただキャレル兄さんを見習ってだな、話しくらい知っておこうと――」


 リッキーは立ち止まりました。ちょうどお城の中庭に出でたところで、ふと自分の言葉と足を止めます。


 そうして昨晩に話した兄キャレルの「ニヤリ」とした悪そうな笑みを思い浮かべました。


『リッキー……お前、国を捨ててしまえ!』


 そう言って笑う兄の表情。



 チャンスとはなにか? 奇跡みたいな切っ掛けとはなにか?



 訪れたアプルーザンからの客人。帝国の誇りを象徴する客人。



 永遠の老婆への情報。その居場所を手にし、その上“理由”となり得る所業しょぎょう――。



 リッキー=ヴェイガードが立つお城の中庭。そこに、高々と輝く太陽から陽射しが射し込みます。


 その時。日差しを背に立つ王子の表情に、「ニヤリ」とした悪そうな笑みが浮かびました――。





 ――結局、半日経ってもダメだったようです。王国の家臣と書記官は「もう少し、あと半日!」と、魔術師のいる客間を訪れて謝罪します。


 魔術師は不服としながらも「わかりました、頼みますよ」としぶしぶにその日をお城で過ごすことを承諾しょうだくしました。


 そして翌日――朝食を終えた魔術師のもとにようやくと資料が届けられました。「1日はかかりませんでしたね」と言われながらも、書記官は安堵した表情で魔術師の部屋を出ました。


 1人、部屋に残った魔術師は渡された紙の束を眺めています。そして「やっぱりなにも決まっていないじゃないの」と呆れたようにしています。


 そうして魔女の情報を知り、その戦力などを考えて「これなら皇子の手をわずらわせずとも我らでなんとかなるな。しかし問題は入山までの進行ルートだが……」などとぶつぶつ独り言を呟きながら考え込んでいました。


 その時です。「ドンドン!」と、扉が強く叩かれました。


「なんだ、またか? ふぅ、本当に困った人だ……」


 魔術師は扉の先にいるであろう人を思い浮かべて面倒くさそうにします。そうしてフードをかぶり、口元にマスクを巻いてソファから立ち上がりました。


 無視したいのですが一応王子なので……一言二言は交わさないとマズいだろうとしぶしぶに錠を外します。


 魔術師はさっさと会話を終わらせるつもりで扉を少しだけ開きました。


 魔術師にとって誤算だったのは、そこに会話などなかったことです。そもそも扉の先にある人は始めっから“話すつもりなどなかった”のです。


「リィンダイト王子、昨日申し上げましたように情報は――――えっ!?」


 扉を引いて開くと、そこにはだれも居ませんでした……居ないように錯覚さっかくしました。


「へっへへ、悪ぃな! すまんがちょっとだけ静かにしててもらうぜぇ!!」


 リッキー王子です。彼は幼い頃からつちかった“かくれんぼ”の技術を用いて扉の影に隠れ、そして戸惑っている魔術師に迷いなくおそい掛かりました。


 襲うと言っても殴りかかったわけではありません。まずはすでに布で覆われている魔術師の口元に、重ねる様に強く、細くした布をかけます。


 そうして発語を封じた後、即座に目元も同じく布で覆いました。とっさのことですが、抵抗しようとした魔術師の腕は王子の圧倒的な腕力で封じられています。


 そうして今度は順に両腕と両足を縄でしばりあげました。電光でんこう石火せっか早業はやわざによってまったく身動き取れず、なにも見えず、なにも話せなくなった魔術師はそのまま王子に支えられながらパタリと床に倒れました。


 王子は幼いころから執事のパンジャルに彼の趣味である手品を習っていました。その技術がここで存分に発揮されているのです。


「ムガ、ムガガ!? ムゴゴゴゴ……!!」


「ええいっ、大人しくしろい!! こうなったら……んっ??」


 ねんのために胴体からも縄を回して結んでいた時、リッキーはなにか魔術師の身体に違和感を覚えました。ですが、今さら止まれないのでそのまま犯行を続行します。


 そうしてまったく動けなくなった魔術師を大きな布袋に包み、片手で軽々と抱え上げて肩にかつぎます。そしてテーブルの上に広げられた資料をまとめ、ちょっと迷った後にとりあえずズボンに突っ込み、上衣をかぶせて隠しました。


 ここまでわずか30秒ほどのことです。見事な手際にはもっとも器用だったとされる伝説の竜、タンベラの片鱗へんりんがのぞき見えるかのようでした。


 そして、王子は魔術師をかついで客間を出ました。もぞもぞとする布袋を肩にのせ、なるべく自然な様子でお城のろうかを歩きます。


 だれにも見つからなければと思いましたが……さすがに無理でした。兵士の1人が王子に気がつき、「どうしましたか?」と聞いてきます。もぞもぞと動いている布袋をかついでいるので当たり前に不思議だと思ったのです。


 王子はしかし、そうした場合にも備えがありました。つまりは“言い訳”です。


「これはね……あのさ、絶対、内緒にしていてくれよ?」


「はい?? それは内容しだいですが、一体中身は何が……」


 王子はコソコソとしながら兵士に「近くへ」と合図しました。兵士は「なんです?」と言われた通りに耳を近づけます。


「実はね……この中には“街の娘さん”が入っているんだ」


「はぁ――――え。えぇッ!?!?」


「シィッ、静かに! ……この娘さんとは街で遊んでいる内に知り合ったんだけど、そうする内に“ねぇねぇ、お城に連れてってよぉ~~♪”なんて言われちゃってさぁ」


「はぁ……はぁ! それはなんと、王子もいつの間に……」


「いや、断ったんだけどね。なにせ父さんや母さんに見つかったらマズイだろう? でも、あんまりにねだられてさ……じゃぁこっそりと、なんてね☆ だからこうしているのだよ」


「あらぁ~~……なんということでしょう。リッキー様はいつの間にか、すっかり大人になっておられましたか。しかしまさかそこまでとは、これは驚いた……」


「へへへ、だから頼むよ。こんなことバレたらこの娘さんだって母さんに何言われるか……」


「確かに……あの真面目な王妃様はきっと怒るでしょうし、なによりお身体に支障ししょうをきたしかねない衝撃をお受けになることでしょうね! なるほど……そうした事情でしたか」


「くれぐれも頼むよ、この国のためにも……僕らだけの秘密だからね! じゃ、そういうことで……」


 そう言うとリッキーはコソコソとその場を離れました。もぞもぞとする布袋から「ムガガ、ムガ!」などとうめきが聞こえてきますが……兵士はすっかり王子の話しを信じたようです。


 遊び人として好き勝手していたリッキー王子ですが、まさかそういったことにまでは……夜間のピュアホールにあるようなことがらに関心があるとは思っていませんでした。それが違ったのかと、その衝撃に圧倒されて兵士はそのことがむしろ気になったのでしょう。


 あの幼く無邪気だった少年が……なんとも大人になったものだと。幼い頃からのリッキーを知る兵士は遠い目をしながら、去っていく成長した王子の背中を眺めました……。


「・・・・・こ、こんな感じでよかったかな? それっぽかったかな?」


 一方のリッキーは不安でした。ドキドキと自分の作り話しがバレていないか心配になりながらも、成功していると思うしかありません。まぁ、たとえバレたとしてもこうなったら強行突破するまでです。


 どうやらお城は静かなままなので大丈夫そうです。しかし、いずれは空っぽの客間にだれかが気がつくことでしょう。


 そうだとしても、お城を出てしまえば関係ありません。リッキーは厩舎きゅうしゃの陰に入って資料を眺めました。そうして情報はほどほどに、永遠の老婆がひそんでいるとされる場所に印が付けられた地図を発見しました。


 場所を把握したリッキーは「よぉし!」と意気込んで立ち上がります。そしてもぞもぞとする布袋を再びかつぎ、ひまそうにしている白馬に声をかけます。


「リィンゼン、久しぶりに危ないことをするぜ――さぁ、行こう!!」


 声をかけられた白馬は立ち上がり、「フゥゥゥ」と息をはき出しました。「仕方ないな」とそういった様子がうかがえます。


 リッキーは白馬に飛び乗りました。大きな布袋は肩にかつぐのではなく、ヒザにのせて抱える状態で運びます。中身の人が王子よりもいくらか小柄であり、王子自身の怪力もあってそれは容易いものでした。


 合図を受けて白馬は走り始めます。草原を駆け、黄金色の畑を抜け……。



 目指すは雄大なる山脈、そこにひそむ魔女のもとへと――――。




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