第一話道化
気まぐれで書いた作品なので多分不定期更新になります。
僕は小さいころから隣に住む幼馴染の少女西園寺花蓮に恋をしていた。
でもそんな僕の感情も今日でピリオドが打たれてしまった。 何せ彼女には好きな人がいたのだから。
好きな人がいる程度なら諦めるのは、 早いという人もいるだろう。
でも僕は、 諦めてしまった。 何せ彼女の好きな相手久我隼人は、 僕の親友だからだ。
隼人の付き合いは中学の頃からだ。
隼人はいつも一人でいる僕を気にかけ声をかけてくれたのだ。 そんな隼人を善人と言わずとしてなんといえばいいのだろう。 容姿端麗、 スポーツ万能、 それでいて頭もよい。
いわゆるラノベの完璧主人公を体現したような存在が彼なのだ。
それに対して僕ときたらすべてが平凡。 これといった才能もなく、 まさに平凡オブ平凡を体現したような存在が僕事戦場怜雄だ。
この時点で僕は思い知らされてしまったのだ。 自分では彼女を幸せにできないと。
だからこそ僕は、 今まで彼女に告白してこなかった。
僕では彼女を幸せにできない。 出来るわけがない。
花蓮の前から姿を消そうと思ったことは、 何度もあった。
でもそのたびに僕は、 彼女の優しさに、 ぬくもりに縋ってしまって結局高校生になった今でも関係を続けてしまっている。 全くとんだ道化だ。 何せ彼女が僕に優しくしてくれた原因は、 僕ではなく、 そのそばに隼人がいたからに他ならないのに。
僕はピエロが嫌いだ。 でもそんな僕こそが一番の道化。 愚かな道化は、 今日も踊る。
自分が道化だとも知らずに。 けらけらと笑いながら今日も今日とて踊り続ける。
でもそんな道化の僕だって自分の好きな人には、 幸せになって欲しい。
例え自分に何もなくても自分の好きな人には幸せになって欲しい。
だからこそ僕は決めたのだ。 花蓮の恋を精一杯サポートすると。
そしてその後は……………………ふふ。 さて仕事の時間だ。 今日も道化は、 演じるだろう。全ては彼女の為に……
※
「おはよう怜雄‼ 今日もいい天気だね‼」
夜空の様に美しい髪を靡かせながら西園寺花蓮は、 僕に今日も嬉しそうに挨拶する。
彼女のその笑顔を見れただけでも僕はとても嬉しい気持ちになる。
でもそれと同時に自分の中で酷く冷めた自分がもう一人いる。
「何を嬉しそうにしている? お前は彼女の恋をサポートすると決めたのだろう? そのくせに彼女がただ笑顔を向けただけで喜ぶなんて滑稽だ」
そう言っている気がして他ならない。
僕だって自分が与えられた配役ぐらい理解している。
ああ、 そうだ。 これぐらいで一喜一憂していてはいけない。
それに僕には、 喜びという感情は不要なものだ。
そんなものは、 消してしまえ。 けれど笑顔を忘れてはいけない。
僕の内面を決して彼女に悟らせてはいけない。
彼女に悟られたらすべてが台無しだ。 だから演じろ。
いつもの馬鹿で愚かな僕を。 滑稽な笑みをいつも浮かべているピエロの僕を。
「やぁおはよう。 今日もいい天気だね。 こんな日は学校をさぼってピクニックにでも行きたいね」
「もう……冗談でも学校をさぼるなんて言っちゃだめだよ? 人間一回さぼると怠け癖がついちゃうからね‼」
「ははは。 冗談だよ。 僕がこれまで学校を一回でもさぼったことあった?」
「ないね。 でもそれは学生なら当然のことだよ。 何せ学生の本分は勉強だからね‼」
「ははは。 それはそうだ」
「二人とも相変わらず仲がいいな」
その瞬間花蓮の纏う雰囲気が変わる。
何せ彼女の思い人である久我隼人が現れたのだから。
「く、 くくく久我君お、 おおおおはよう‼」
「お、 おおう。 おはよう」
ただ挨拶されただけで花蓮は、 とても嬉しそうに口元を歪ませる。
それにしても恋する乙女とは、 凄い物である。
思い人が現れるだけでこうも変われてしまうのだから。
でもその反応のおかげで僕は、 花蓮が隼人に恋をしていると見破ることができたので、 ある意味感謝をしている。 ああ、 とてもとても。
「な、 なぁ怜雄俺ってやっぱり西園寺さんに嫌われているのかな?」
「はぁ?」
「ちょ……そんな低い声出してどうしたんだよ。 俺何かしたか?」
おっといけない。 道化が主人公に楯突くなんて物語の構成上あってはならない事なのに。
全く僕というやつは何処まで愚かなんだ。
「ゴメンゴメン。 喉の調子が悪くてさ。 つい低い声が出ちゃったんだよ」
「な、 何だよ驚かせやがって」
「ははは。 本当にごめんね。 それと花蓮は別に隼人の事嫌ってないよ。 むしろその逆の感情を……」
「ちょ!? 怜雄‼ いきなり何言っているの‼」
「おっと。 これ以上は僕の口からは何とも」
隼人は僕の答えが納得いかないのか頭を悩ませている。 こういうところまでラノベ主人公なのは、 僕としてはとても腹立たしいのだけれどその様な事口にできるわけもない。
そもそもの問題隼人は、 色々鈍いのだ。 何故ここまで露骨な反応を示されておいて気づかないのかまるで分らない。 少なくとも普通の人間なら気づくし、 学校でも噂になっている。
何せ二人とも美男美女だ。 その二人のカップルは見ていてとても花があるし、 花蓮程美しい女性も隼人程イケメンな男子は、 僕の学校にはそうはいない。
だから学校の中でこの二人は公認のカップルの様な扱いを受けている。
ただそこに異を唱えるとすれば僕の様な害虫が二人の周りをうろついていることだろう。
さてそんな害虫からのささやかなプレゼントをこのお二人に送るとしようか。
「あ‼ ごめん。 今日僕日直だったんだ‼ だから先に行くよ‼」
「え!? れ、 怜雄!?」
「じゃあお二人さんごゆっくり~」
僕のその変わり身の早さに二人は目を丸くしていたがそんなことはどうでもよい。
何せこれで二人は完全に二人っきりで登校できる。 花蓮からすれば願ってもない状況だろう。
それにそもそも彼女が僕と毎朝一緒に登校してくれるのだってきっと隼人と一緒に登校したいからに決まっているしね。
そうでもなければ彼女が僕なんかと一緒に登校してくれるわけがない。
「さてこれで少しは進展してくれればいいけど……」
それにしても胸が痛いなぁ……なんでこんなに痛いのだろう。
ああ、 そうだ。 こんな時は笑えばいいんだ。
「ふふふ……ははははははははは‼」
ああ、 痛い。 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。 大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫。
「ふふふ……大丈夫。 僕はまだ大丈夫。 僕は正常。 僕は普通」
きっと皆僕の事をおかしな奴で不気味な奴だと思っているのだろう。
でも僕はそれでもかまわない。
何せ僕は道化なのだから。 道化は笑われるのが仕事。 その為に存在しているのが僕だ。
そう僕は笑われるために存在している。 何もおかしくない。
だから……
「もっと笑えばいいさ‼ 滑稽な僕を見て好きなだけ笑うがいいさ‼ はははははは‼」
「ごめんなさい」
「え……」
ああ、 ヤバい。 意識が……
あはは……どうやら僕は、 何者かに襲われたらしい。こんな僕を襲って何が楽しいんだか。
きっととんだもの好きか僕をサンドバックにしたいのかのどちらかだろう。
でも不思議だ。 意識が真っ黒に染まっていくのにそこには安らぎしかない。
それにこの香りどこかで……ああ、 ダメだ……意識が……