Episode2 小さな悟りくん 2
少年も武瑠達に気が付いた。
(今の……、オマエがやったの?)
武瑠の中に少年の声が流れ込む。
(オマエは……、悟られ? それとも、悟り? もし悟りなんだったら、オレの声聞こえてるよね?)
少年はこちらをじっと睨み付けていた。敵なのか味方なのか判断しきれないのだろう。
武瑠は更に少年に近づいていき、舞花とシロもそれに続いた。
「そう、さっきのは俺がやった」
少年と話が出来る距離まで来てから、武瑠は先程の少年の問いに答える。
「なんで、そんな余計なことするんだよ! オマエの目的は何だ!」
先程何も言い返さなかった少年とは思えないほどに、武瑠達に警戒心剥き出しで噛み付く少年。
その体は小さく震えていた。
それに気が付いた武瑠は両手を上げて目線を合わせる為にその場に踞み込んだ。
「余計なことしたんだったら、悪かったよ。別に俺達はお前に何かしようとは思ってない」
武瑠は真っ直ぐに少年の目を見つめる。
「まぁ、俺には“助けてくれ”って心が聞こえたんだ」
「オレはそんなこと言ってない!」
「ああ、お前じゃねぇよ、ソイツだよ。お前の腕の中にいるソイツから“助けてくれ”って聞こえたんだよ。“お前を助けてくれ”ってずーっとソイツは言ってたぞ。ソイツを守るのに必死になりすぎて、お前には聞こえなかったか?」
にやりと笑う武瑠。
少年は武瑠の言葉に目を見開き、自分の腕の中を見つめた。そして、そのままそこへ座り込んだ。武瑠達が敵ではないと判断したようだ。
「信用してもらえたみたいだな」
武瑠は少年の目の前まで行き、彼の目を覗き込む。するとふいっと、目を逸らされた。
「べ、別にオレはオマエ達のこと敵じゃないって思っただけで、信用なんてしてない! ただ、コイツの心が聞こえたって言うから、悪い奴じゃ、ないんだろうなって……、そう思っただけで……」
悟りの中でも動物の心が聞こえる者は稀だった。シロも聞こえる者の一人ではあるが、それが動物達の心だと認識したのは、性質が開花して大分経ってからのことである。
しかし、武瑠は……。性質について最近認識したばかりだと言うのに、こんなにも早くその心の主に気が付いた。人間ではなく動物の心だということを何の躊躇もなく受け入れている。ただ単純なだけなのか、それか――もしかしたら他人よりも勘が鋭いのかもしれない。
まぁ、センスはあるってことかな。
シロが密かに武瑠を分析している間に、武瑠は少年を連れてどこかへ行こうとしている。
「武瑠、どこ行くの?」
「ん? マスターんとこ。何か腹減ったし、コイツの手当てもしてやらないと」
武瑠は少年の腕の中にいる猫をくいっと示して、早く行こうと言って歩き出す。
それに続こうと一歩を踏み出したシロはじっと武瑠を見つめたまま動かない姉に気が付いた。
「舞花? どしたの?」
(不思議だよね、武瑠って)
姉が何を言いたいのかその真意を図りかねていると――
(行こ。私もお腹空いた。パンケーキ食べたい……)
舞花はシロの腕に自分の腕を絡めて武瑠達の後を追うように歩き出した。