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Episode9 サボテンの花が咲く頃に 1

 



 サボテンの花が咲く頃にここでもう一度会いましょう。


 1年に一度きりの約束。


 ふたりはその約束を胸にお互いを思い続けた。


 サボテンの花が咲くのは春先から夏にかけて。このサボテンの花が咲く頃に逢瀬の約束をしている男女がいた。7月7日、世間では七夕と呼ばれる日に二人は毎年逢瀬を重ねていた。




「今年も咲きましたよ、早く会いに来てくださいな」


 一人の女性が空を見上げながら呟いた。


 空にはたくさんの星たちがこぼれ落ちそうなほど輝いている。女性の傍らには小さな花を付けたサボテンがひっそりと佇んでいた。


 女性の家は裕福だった。しかし、親は厳しく、所謂箱入り娘として彼女は育てられた。一人で外出などもっての他。中々外へ出ることもなく二十歳を迎えたのだった。


 そんなある日のこと。一人の青年と出会うことになる。青年は年に一度七夕の笹を届けに来る業者の息子だった。彼女は織姫のごとく年に一度、七夕の日にだけ外に出ることを許されていた。とはいえ、どこに行っていいのか分からない彼女が出るのは家の庭先だけ。毎年、立派に風に揺られている笹の葉を見ることが彼女の楽しみとなっていた。


 二十歳の七夕を迎えた日。彼女は見覚えのない青年を見つける。


「どちら様ですか?」


 あまり家族以外の人間と話し慣れていない彼女は緊張しながらも青年に声をかけた。


「ああ、あなた様はこちらのお嬢様ですね。私は毎年この笹の葉を届けに来ている者です」


「まぁ、この笹の葉。あなた様が届けてくださっていたんですね。毎年、この笹の葉の揺れるのを見るのが唯一の楽しみで」


「それはそれは」


「あの……、お名前を聞いても? 私は美緒と申します」


「美緒様……ですか。私は……、名乗る程の者ではありませんので」


「教えては、いただけないと?」


「申し訳ありません、お嬢様……」


 青年は言い付けられていた。この家で誰かと会ったとしても、決して話をしてはいけないと。自分が何者であるかも名乗ってはいけないと。もしそれを守れなければ、取引を打ち切るとこの家の大旦那から言われていたのだ。


 お嬢様に話し掛けられて、思わず応対してしまったがその言い付けを思い出した青年は名前を名乗りそうになって思い留まったのである。


「私はそろそろ行かなくてはなりませんので。それでは失礼いたします」


 青年はそう言って去っていった。


 これがこの家のお嬢様、美緒と青年の出会いである。


 青年は次の年に笹と一緒にもう一つあるものを持ってきた。それはサボテンである。


「これは何という植物ですか?」


 世間知らずの美緒はサボテンを知らない。


「これはサボテンという植物です。一年に一度、今の頃合いに可愛らしい小さな花をつけます」


「サボテンですか。こんなにとげとげしているのに、可愛らしい花を付けるのですか?」


「ええ、とても可愛らしい花をつけますよ。今年はもう咲き終わってしまいましたが、また来年を楽しみにしていてください」


「分かりましたわ。では、このサボテンの花が咲く頃にまたお会いしましょう。そしてまた、少しだけこうして私とお話ししてくださいな」


 本当は話すことさえ許されない。しかし、青年は頷いていた。


「ええ、私で良ければ」


 こうして、お嬢様と青年の一年に一度の逢瀬が始まったのである。



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