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Episode2 小さな悟りくん 1



「人間なんて嫌いだ」


 少年は雨の中でぽつりと呟いた。


 年の頃は十にも満たない少年だ。少年はいつもどこかしらに怪我をしていた。今日も雨に打たれ、服は濡れ泥にまみれている。その腕の中には、タオルに(くる)まれて小刻みに震える猫がいた。少年はその猫を優しく抱きかかえながら公園から自宅に向かう。傘もささずに、自分が濡れるのも気にせずに、ただただ足を動かして家を目指していた。




 大和武瑠(ヤマトタケル)はいつものように例の古びた喫茶店へと来ていた。 自分の性質(のうりょく)の正体を知ったあの日からあの姉弟(きょうだい)ともちょくちょく此処で顔を合わせている。


 武瑠は知識を得たことで、自分の周りにも案外多くの悟りや悟られがいることに気がついた。


 人間誰にでもその性質(のうりょく)のどちらかが備わっているとは言え、それが開花かするかどうかはその本人にも分からない。いつ何がきっかけでそれが開花するのかも分からない。それ故、開花した者は戸惑い、不安と闘いながらもその性質(のうりょく)を理解し、向き合っていく必要があるのだ。


 その存在すら知らずに死んでいく者もいる。その性質(のうりょく)故に傷付く者もいる。その性質(のうりょく)を上手く利用すれば人並み以上の幸せを手にすることもきっと難しくはない。


 開花していない者からすれば、羨ましい性質(のうりょく)。ある者からすれば、煩わしい性質(のうりょく)。果たしてどちらがいいのかなんて、きっとこの先その答えが出ることはないのだろう。


 武瑠はある雨の日に傘もささずに歩いていた少年を見た。見ず知らずの奴が無理に干渉することもないと思ってその時はその小さな背中を見送った。しかし、それ以来その少年のことが頭から妙に離れなくなってしまったのだ。


 舞花やシロに相談すると、そんなに気になるなら探せばいいじゃないかといとも簡単に言われる。武瑠はそれもそうかと思い、昼食を食べた後あの少年を見かけた辺りまで早速行ってみることにした。


 暇だから、僕達もついてくー! と言ってあの姉弟(きょうだい)も一緒に来る。


 少年を見かけた場所まで来てみたはいいものの、ここは特別何もないただの道だ。都合よく手掛かりなんてものは落ちてはいない。少し歩いてみようと近くをうろうろしていると“タスケテ”という小さな声が聞こえた。武瑠が後ろを振り向くとシロにも聞こえたのか、こくりと頷かれる。


 武瑠はヘッドホンを首に移動させ、その声を探した。そして、小さな公園に辿り着く。


 そこには、一人の少年を取り囲んで何かをしている少年達がいた。普通に考えれば、ただ少年達が遊んでいるだけなのだろうが、とてもそうは見えない。

 雰囲気は最悪で、取り囲まれている少年だけが泥だらけで頬に擦り傷を作っている。


 ……苛められてんのか。


 武瑠が舞花とシロに視線を向けると、二人はじっとその少年を見つめている。二人の表情からは何も読み取れなかった。いつもへにゃへにゃと笑っているシロでさえも、“無感情”――そんな表情だった。


 少年は傷つけられてもやり返さず、ただじっと自分を取り囲んでいる者達を睨み付けている。


「偽善者!」


「弱いくせにイキがってんじゃねーよ!」


「いつも動物とぶつぶつ話しやがって、気持ち悪いんだよ!」


「友達いない癖に公園来んな!」


「気味悪くて俺達が此処で遊べねーじゃねーか!」


 泥だらけの少年は、色んな言葉を浴びせられながらも何も言わず、ただじっと波が収まるのを待っているようだ。


 武瑠は周囲を見回した。あの少年達と自分達以外この公園には誰もいない。驚かす程度なら支障はないだろう。


 ちらりと隣の二人に視線を送ってから武瑠はフードを取り、少年達をじっと見つめ、言葉を送る。


 “おい、そこで何してんだ!”


 すると、泥だらけの少年以外の者達がピクリと反応し、慌てたようにキョロキョロとし始めた。


 更に武瑠がじっと見ていると、弾かれたように少年達はその場から散っていった。残ったのはあの少年だけである。


 武瑠達が近づいて行くと先程は確認できなかったが、少年が抱えていたのは怪我をしている猫だった。



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