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Episode8 哀しい身代り2



「で? 一週間前に何かあったのか?」


 袖から出ているシロの手を掴んで、自分の手の平と合わせながら話の先を促す。シロは合わさった手の平を見つめながら、しかしそれには何も言わずに、問い掛けられた質問に対して答える。


「何かって言われてもなぁー? んんー、普通だったよ。フツーにね、いつも通り“おやすみ”って言って寝て、そしたら舞花起きなくなっちゃったんだよねぇー。最初はね、疲れていつもより長く寝てるだけだと思ってたんだ。けど、次の日になっても、その次の日になっても起きなくて。揺すっても声かけても眠ったまんまで反応ないし、僕どうしたらいいのか分かんなくて。一週間も眠ったままなんて、どう考えてもおかしいでしょー?」


 武瑠には、ふにゃりと再び笑ったシロの顔が泣き顔に見えた。テンションはいつも通りのつもりなんだろうけど……。いつもより何ていうか、変にテンションが高いからそれが逆に違和感なんだと武瑠の中で妙に府に落ちた。


「シロ、お前さ――」


 武瑠がシロに声をかけようと口を開くと、それとほぼ同時にシロが一人言のように話し始めた。


「あーあ、今まで舞花には僕がいないとってそう思ってやってきたんだけどなぁ。なーんでこんな時に気付いちゃうかなぁ。コレじゃあ、逆じゃん。僕が、舞花がいなきゃダメなんじゃんか……。んんー、あれぇ……? 僕ってこんなに弱かったっけなぁ」


 武瑠はそのまま溢れ落ちる言葉をただただ聞いていた。


 弱音を口にするシロは珍しい。だから、シロがそうなった時は黙って聞いてあげてね。そういえば、以前に舞花からそんな事を言われた気がする。


 何となく重くなった空気にどうしようかと武瑠が考えていると突如、重ねていた手に指が絡められた。


「いっ!? 痛い痛い痛い痛い! 何だよ、お前いきなりっ!」


「だぁって、武瑠がしんみりなんてするから。僕ねぇ、結構握力強いんだよ」


「結構どころか、バカが付くほど強すぎるわ!」


「いつもは手、隠してるからねー。意外だったでしょー?」


「いや、手隠してんのと握力強ぇのは関係ねぇだろ」


 得意気にツンと顎を上げるシロにこんなところで意外性発揮してんじゃねぇよと思いながらもいつも通りの空気に戻ったことに、武瑠は内心でホッと息を吐く。


「武瑠ぅー、どうすれば舞花目を覚ますかなぁ」


 シロはパッと手を離して武瑠を見つめる。


「そうだな。まずは舞花のところに連れていってくれないか? シロの話だけじゃあ、やっぱりよく分かんねぇし」


「じゃあ、善は急げだね!」と言ってシロはぴょこんと立ち上がり、「ほら早くいくよー」とバカが付くほどの力で武瑠の腕をぐいぐいと引っ張る。


「分かった! 分かったからその馬鹿力を何とかしろ。何で、手ぇ隠しててもそんなに力強ぇんだよ!? おい、シロ聞いてんのか? ちょっ……、おいっ」


 武瑠の抗議はシロに届いているのかいないのか。痛い痛いと喚く武瑠とそれを華麗にスルーするシロはそのまま古びたドアの向こう側へと消えていった。


「お二人ともお気をつけて」


 店主は二人の姿を静かに見送る。しかし、その他にも何か別のものが見えているのか、閉まるドアの向こう側を見るようにスッと目を細めたのだった。




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