Episode1自覚 6
「武瑠の場合は、悟りの性質を抑えるためにヘッドホンが有効だったんだね。あとは、悟られの方の性質をどうにかした方がいいと思う。因みにさっきは駄々漏れだって言ったけど、悟られの性質が開花したからと言って、ずーっと駄々漏れになる訳でもないんだ。怒った時とか泣いちゃった時とか、感情が溢れ出して精神が興奮状態になった時に漏れやすくなっちゃうんだよね。武瑠はさっき、トラックから子どもを守るために動いて、しかもスレスレのギリギリで助けたでしょ? アドレナリンが出まくっちゃって興奮してたんだろうね。それで、駄々漏れになっちゃったんだと思う。今は、大分落ち着いてるみたいだけど」
「じゃあ、病院ではどうして?」
「ああ、それはただ単に不安で精神が揺れちゃってたんじゃないかな。この症状はいったい何なんだ? 自分の気のせいか、それとも何かの病気なのか? 他人に相談して分かってもらえるものなのか、――ってね。心が乱れると心が漏れやすくなっちゃうからねー」
だいじょうぶ、だいじょうぶーとシロは言っているが、何が大丈夫なんだよ、と武瑠は思わずにはいられない。
「ねぇ、武瑠の中で心は何処から漏れちゃうと思う? イメージでいいから答えてみてよ」
シロに言われて考える。
「俺は…………、あたま、かな?」
なんか、この辺からスゥーっと抜けていく気がすると言って頭に手をやるとシロはうんうん、と言ってへにゃりと笑った。
「それじゃ、帽子とかフードとか被ればいいんじゃないかな? 不安ならどっちもっていうのもアリだと思うよー」
ほら、ちょうど今パーカー着てるしと指をさすシロ。
確かに、いつもパーカーを着ているから丁度いいかもしれない。帽子も……この間買ったキャップが家にあるし。いや、待てよ。そうするとファッション的には可笑しな事になるのか……。俺のヘッドホンはオーバーヘッドタイプだから、ヘッドホンしてたらキャップ……被れないじゃん。
自分の知らない内に駄々漏れになっているのは困るので武瑠はシロの言う通りこれからはフードを被ることにした。
「お話、一段落ついたようですね。それでは、そろそろこちらをどうぞ。お待たせしました」
そう言ってマスターはカウンターにいる武瑠とテーブルにいるシロの前にオムライスを置いた。
「うわぁ、美味しそー!」
シロはキラキラした目でオムライスを見つめて、いただきまーすと手を合わせ直ぐに食べ始める。
武瑠はというと、注文したことも忘れていた。マスターはいい頃合いを見計らって、出すのを待っていたのだろう。
流石は、マスター。
そんな武瑠の心もお見通しと言うように――、
「一番美味しい状態の時に食べていただきたいですからね」
と言って、マスターはにっこりと笑った。
そーいえば、この人は“悟り”だったか。と武瑠はシロの言葉を思い出す。今まで妙に何でもマスターには見透かされているような気がしていた。
だけどそれも案外気のせいじゃなかったんだと納得しながら、武瑠は大口を開けてオムライスの乗ったスプーンにかぶりつくのだった。
【Episode1 自覚・・・おわり】
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