Episode7 地味男の勇姿を見守り隊![お誘い編]2
そうこうしている内に注文した料理が次々と運ばれてくる。そして、あっという間にテーブルの上はいっぱいになった。
最後に彼女が運んでくるコロッケ定食が見えて、舞花が田中に合図を送る。といっても、じっと見つめているだけなのだが。
しかし、田中にはそれだけで舞花が何を言いたいのか分かっていた。
話しかけろ、歩莉さんに話しかけろと言われている。でも、何を……どううすれ……。
「ご注文は以上でお揃いですか?」
コロッケ定食の乗ったお盆をテーブルに置いた後ににっこりと笑って確認を取る歩莉。
未だにどうしよう、どうしようと内心焦っている田中の中に舞花の心が突然響いた。
(行け、タナカ!)
田中さん呼びのところを敢えてタナカと呼び捨てにされたことで、反射的に田中はピシッと背筋を伸ばす。そして――、
「あっ、あのっ歩莉さん。こ、この後少しだけお時間頂けないでしょうかっ!?」
一気に言い切った田中に、突然のことで最初は目を丸くしていた歩莉だったが、数秒後には自分に向けられた言葉の内容を理解したのか「はい、大丈夫ですよ」とにっこり笑って頷いてくれた。
厨房に戻っていく歩莉の背中をぽーっと見つめながら暫く固まる田中。
「やったじゃーん、田中ちゃーん」
「先ずは第一関門クリアってところか」
(こくり)
「はっ、はい!」
そうなったら、早く食べてしまおうと武瑠達は手を合わせてそれぞれに注文した料理に手をつける。田中も緊張は解けないものの、武瑠達につられて、ゆっくりと箸を進めるのだった。
◆
食事を終えて歩莉には店の近くの脇道まで出てきてもらうことになっている。田中の緊張はピークに達していたが、“デートに誘うんだ”というフレーズだけを心の中で何度も繰り返し、自分を奮い立たせていた。
「田中さん、お待たせしました」
休憩に入った彼女が田中のところまで小走りでやって来る。
「あっ、あのすみません。急にお呼び立てしてしまって。折角の休憩時間をその……」
「いえいえ、気にしないで下さい。今からの時間帯は少し客足も落ち着く時間帯なので大丈夫ですよ」
歩莉はにこりと田中に笑いかける。
「あの、それで何か私にお話が?」
「は、はいっ、その……っ、あのっ――」
「ゆっくりでいいので落ち着いてください」
あわあわとしている田中にゆっくりでいいと優しく笑いかける歩莉。そんな歩莉に田中はすみませんと言って一度深呼吸をし、気持ちを落ち着ける。
「あの、歩莉さん! 今度、私とデートして頂けませんでしょうか!?」
緊張のあまり極端に声のボリュームが上がってしまった田中。周囲に人が居なかったことが唯一の救いだった。これでは公開プロポーズも同然といったところだ。それには気付かず田中は言い切ったと同時に片手を差し出し頭を下げ目をつぶった状態で彼女の返事を待っている。
歩莉はというと、予想もしていなかったからなのか、そんな田中の姿を驚いたように見つめている。そして突然ふふふっと笑い出した。
彼女の笑い声に反応して田中は恐る恐る顔を上げる。ちらりと歩莉を窺うと口許に手をやり笑っている彼女がいた。
「ふふふっ、すみません。田中さんがあまりにも一生懸命だからっ。こんな風にデートのお誘いを受けたのは初めてですっ。ふふっ、いいですよ。行きましょ、デート」
彼女の言葉の意味を理解できずに暫く固まっている田中。そして、漸くその意味を理解してまた大きな声でリアクションを取ってしまう。
「…………、いっ、いーんですか!?」
「はい、だから少ーしだけ声のボリューム落としましょ?」
そう言われて初めて自分の声のボリュームのおかしさに気付いた田中は、笑いながら口許に人差し指をあてている彼女に慌てて謝った。
「す、すみませんっ」
「いえいえ。デートプランは田中さんにお任せしてもいいですか?」
「は、はいっ。勿論ですっ!」
「じゃあ、連絡先交換しましょ――」
彼女の誘導により、あれよあれよと話は進んでいき――、
「――じゃあ、田中さん。またね」
「はい、また……」
気付いた時には歩莉はお店に戻っており、田中はスマホを両手で握りしめながら、誰もいない道端で突っ立っていたのだった。




