Episode7 地味男の勇姿を見守り隊![お誘い編]1
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定食屋の前に着くと何の躊躇もなく、田中以外の三人は中に入っていく。
だからまだ心の準備が……、と思いながらも田中も後に続いて店の暖簾をくぐった。
「いらっしゃいませー。あれ? 田中さんじゃないですか。今日は父と一緒じゃないんですね」
店に入って早々に自分に気付いてくれる彼女に田中は内心ガッツポーズをして喜びを噛み締める。
「そうそう。俺達が田中さんにどこかいい店は無いかって聞いたら、ここが美味いって教えてくれて、それで連れてきてもらったんですよー。ね、田中さん!」
武瑠は彼女とスムーズに会話が出来るようにと田中に話を振る。
「そ、そうなんです! 彼等は私の知り合いでしてっ――」
「そうなんですね。あ、いつものテーブル席空いてるのでどうぞ。直ぐにお水持っていきますね」
「あ、ありがとうございます!」
田中はこっちですと言って、いつも石川と座っているテーブル席へ武瑠達を誘導した。
「田中ちゃん、ちゃーんと話し掛けるんだよー。分かってるよねー?」
シロに言われ緊張気味にこくりと頷く田中。ガチガチに固まっている田中の肩に手を置き、武瑠は何とか緊張を解そうと、大丈夫だからと声をかけた。
程なくして、彼女が四人分の水を持ってテーブルへとやって来る。
「お待たせしました。ご注文どうしましょうか?」
にっこり笑って伝票とペンを持ち、彼女は四人それぞれへと視線を向ける。
「ぁ……、あの――」
田中が彼女に話しかけようとしたタイミングで武瑠達が普通に注文をし始めた。
「――俺、豚カツ定食と唐揚げ定食。それと、カレーライスで。あっ、あと、ごはん大盛りってできます?」
「じゃあ僕はねー、生姜焼き定食一つ。舞花は、鯖味噌定食でいいんだよね?」
(こくり)
「あっ、僕達もごはんは大盛りでお願いしまーす」
田中はそんな三人に呆気に取られて、ポカンとしてしまう。だって、さっきちゃんと自分で話し掛けろって言ってたばかりじゃないですか。それなのに何故皆さんが話し始めちゃうんですか。
「君、石川のオッサンの娘さんなんだよね?」
そんな田中を放ったらかして、武瑠達はどんどん話を進めていく。
「はい。私、石川の娘の歩莉と言います。皆さんも父とはお知り合いなんですか?」
ぺこりと頭を下げる歩莉にシロがへにゃりと笑いかけながら、石川達との出会いについて簡単に説明をする。
「お知り合いっていうかー、以前ちょっとお世話になったっていうかー。その時に田中さんとも知り合ったんだよねぇ~」
「そうだったんですね。あ、田中さんはご注文どうしましょうか? いつもの、コロッケ定食ですか?」
「へっ、あっ、はい。それでお願いします!」
突然、自分に投げられた歩莉の言葉に田中は慌てて返事をする。
「へぇ、田中さんっていつもコロッケ定食なんだー」
「は、はい。コロッケ定食のコロッケは歩莉さんが作られていて……」
「そうなんです。バイトとしてここで働かせてもらってるんですけど、作り方を教えてもらってコロッケだけは任せてもらえるようになりました!」
嬉しそうにそう話す歩莉は田中の言う通り、確かに可愛らしい女性だ。
注文を聞き終えた歩莉は、「では、お待ち下さい」といって厨房の方へ引っ込んだ。その背中を見届けてから武瑠達は田中に話しかける。
「ふーん、田中さんってぇー、彼女の作ったコロッケ定食を毎回頼むんだねー」
(アピールが地味すぎる)
「いーじゃねーの。好きな女性が作った手料理を食べたいって思うのは普通のことだろ」
「べ、別にアピールとかそういう訳ではっ」
「隠すな、隠すな」
「今更でしょー」
(素直に認めればいいのに。そういうところが女々しいのよ)
「す、すみません……」
女々しいと言われ、何も言い返せない田中は謝ることしか出来ずにしゅんとなる。
「謝らなくていいんだよー。舞花は別に怒ってる訳じゃないんだしー」
「そうそう、舞花はいつもこんな感じだから気にすんな。淡々とした喋り方だから分かり辛いかもしんねーけど、舞花も田中さんのこと応援してんだからさ」
(ごめんね。私、感情表現が下手くそなの)
舞花は怒っていないと示す為に田中に向かって頷いて見せる。
「い、いえ。あ、あの……ありがとうございます舞花さん」
お礼を言うと、舞花の周りの空気がふわりと緩んだのが田中にも伝わってきた。




