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Episode7 地味男の勇姿を見守り隊![社会見学編]1

 



 田中一郎(タナカイチロウ)、只今絶賛転がり落ちております。


 とは言っても、本当に転がり落ちている訳ではなくてですね。恋という名の穴におむすびころりん的な感じでコロン――とね、コロンと行ってしまいました。いやはや、これはもう転がるとかいう過程をすっ飛ばして、奥の奥の奥の方にまで落ちてしまっているのか。私は落ちてしまっているのか……、恋に。


 誰かに聞かれたら、なんてことはこの男の頭にはない。聞かれたら確実に可笑しな奴、確定だ。


 古びた喫茶店の扉を前にして、約十五分……といったところか。


田中一郎(タナカイチロウ)は中に入ることもせずにそんな恥ずかしい一人芝居を心の中で、繰り広げていたのだった。




 カランカラン――。


 来客を知らせるベルの音に中にいた全員がやっと入って来たか――、という面持ちでそちらに目を向ける。


「いらっしゃいませ」とマスターがにこやかに声をかけると、田中はマスターにペコリと頭を下げ、


「あっ、あの……っ、その、先日はどうも」


 と言って、しどろもどろになりながら、またここの常連客達にペコリと頭を下げた。


「いやいや、それはこっちの台詞だからさ」


 ペコリペコリと頭を下げる田中の姿を見て、世話になったのはこちらの方だからと武瑠は言った。


「そーだよ、刑事さん。んー、あれ、えーっと、……名前何だったっけな?」


 シロは態とらしく首を傾げながら、へにゃりと笑う。


「あ、はい……田中です」


「そーそー、田中さん! シンプル過ぎて印象に残らないんだよねぇ。僕、すぐ忘れちゃうみたいで。ごめんねー」


 嘘つけ! と武瑠は心の中で盛大にツッコんだが、敢えてここは何も言わずに、反応すらしないでおく。


 要はただただ面倒くさいだけなのだが。


「で、田中さん。今日はどうしたの?」


 武瑠は田中に話を振る。


「あのー、実はですね。皆さんにご相談がありまして……」


 田中は緊張気味に言葉を発し、ちらちらと武瑠達に視線を向ける。


「相談ってなーにー?」


 シロは面白そうなことが始まりそうだと目をキラキラさせながら袖をぱたぱたと振って内容を早く聞かせろとせがむ。


 舞花も一応は聞いてくれようとしているのか、目の前にあるスイーツに伸ばしていた手を一旦止めて、田中に顔を向けた。


「その……、あのー、えっと……」


 何から話していいのか分からない田中は、うーん、と唸りながら言葉を探す。暫くそんなことを続けている田中に待てなくなったシロが田中よりも先に言葉を発した。


「好きな人でも出来たのー?」


「あ、はいそーなんです。――――って、どうしてそれをッ!?」


 シロは予想通りの反応を示す田中に腹を抱えて笑う。


「ふふ、あははっ。やっぱり面白い人だねー、田中さんってー」


「悪いな……。あんたが十分以上も店の前であーだこーだ考えていた(コト)が俺達には筒抜け状態だったんだよ」


 武瑠は何故相談内容が分かったのかと首を傾げている田中に説明する。まさか、と目を見開く田中にシロはクスクスと笑いを堪えきれないまま、武瑠に続いて説明をする。


「だってさぁ、誰か来たなー、と思ってたらなかなか入ってこないんだもん。思わず、悟りの性質(のうりょく)使って探っちゃうよね。そしたら前に会った刑事さんの(コエ)が聞こえて。何か面白いこと考えてるみたいだったから、聞くのを()めるに()められなくなっちゃったんだよねー」


(私はシロに実況中継してもらってたの)


 本当にここにいる全員に聞こえていたのか、と田中は頭を抱える。


 ああ、何という事だ。あの恥ずかしい心のコエを全部聞かれていたなんて。


「まぁまぁ、何となくそれで田中さんが何でここに来たのか分かったからさ」


 武瑠は苦笑いしながらも、ドンマイと田中に声をかけた。




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