Episode6 桜と月とあの日の約束 8
◇
カランカラン――。
古びた喫茶店のベルを鳴らして武瑠はいつもの定位置へと座る。
「お疲れさまでした、大和さん」
「おー、マスター。一仕事してきて腹減ったから、何か作ってくれー」
武瑠はカウンターに突っ伏した。
「おやおや、珍しいですねぇ。そんなにお疲れとは」
マスターは武瑠に出す料理の準備をしながら、にこにこと突っ伏している背中を見つめる。
「いやぁ、俺もこんなに疲れるとは……。思ったよりもエネルギーの消費が激しくてさ」
「いやはや、それにしても成功したようで何よりでしたね」
「ん……、まあね」
武瑠はエネルギー補給するまでは、もう起き上がれませんといった感じで、マスターとの会話も儘ならなくなっている。
「お待たせ致しました。今回はシンプルにステーキ1キロでどーぞ! 勿論、ニンニク増々ですよ」
マスターがドンッと熱々の鉄板に乗った肉の塊を武瑠の前に置いた。
「うおっ! 旨っそー」
武瑠はむくりと体を起こし、先程の電池が切れそうな状態が嘘のように目を輝かせる。
「どうぞ、紙エプロンです」
マスターに渡された紙エプロンをつけ、直ぐ様両手にナイフとフォークを持ち、そして
「いっただきまーす! ……んめぇ! マジ、生き返るわー」
武瑠はパクパクと肉を口の中に放り込んだ。目の前にあった肉の塊はみるみる内に減っていき、ものの数分ほどで姿を消してしまう。
「よほど、だったんですねぇ」
マスターは武瑠の食べっぷりを見てクスリと笑う。
「ほーなんだよ(そーなんだよ)。モグモグ。俺もさ、思い付きで出来る気がするなんて言っちゃったもんだから、成功するかどうか内心心配だった訳よ。自分でも気付かない内に実はものすんごく緊張してたみたい」
ハハハッと笑いながら武瑠は頬を掻いた。
「今回は夫婦二人とも悟られ同士だったからな。眠っている奥さんが夢を見ているのか、何かを考えているのか、はたまた何もない無の状態なのか……、それすらも河原町さんには知る術がなかった。河原町さんは自分が悟りだったら――、なんてことも言ってたけど、俺はあの二人が悟られ同士だったことにもちゃんと意味があるんだと思うんだ……。二人が悟られじゃなかったら、そもそも二人は一緒になってなかったかもしれないし、今回の約束だって叶えられてなかったかも……。二人が出会ってなかった可能性だってあるし。まぁ、そんなこと言い始めたら切りがないんだけど……。俺、今回のことでちょっと思った。その人が悟りであることも悟られであることも、その性質がいつ開花するのかも含めて、ちゃんとそこには意味があるんじゃないかって。だから、俺が悟りと悟られの両方の性質を持っていることにも何か意味があるのかもしれない。両方の性質があったから、今回河原町さんが死にそうになってたところを助けることが出来た……。悟りの性質を使って、眠ったままで分からなかった奥さんの心を探り出して、悟られの性質で河原町さんにそれを伝えて。――――なんて、思い上がりかな?」
武瑠はマスターに窺うような視線を向ける。マスターはそんな武瑠を安心させるようにいつものようににっこりと笑った。
「そんな事はありませんよ。きっと、大和さんがお二人を助ける運命だったのです。あなたはきっとこの世界にとって救世主となる存在なんですよ」
「救世主って、それは流石に大袈裟すぎるんじゃね?」
武瑠は冗談だと思い笑い飛ばしていたが、マスターにはこの先に起こる何かが見えていたのかもしれない。
この世界を助ける救世主。そんな存在が必要となるのはまた別のお話……
……かもしれない。
【episode6 桜と月とあの日の約束・・・おわり】
・・・But this story is not over yet.




