Episode1自覚 5
“悟り”とか“悟られ”とか、本来ならば急に何なんだと言いたいところだが、武瑠は不思議と納得していた。医者に気のせいだとか、精神的に疲れているんだとか言われるよりもずっと、シロの話の方がしっくりとくる。
「信じてくれたみたいで良かったよ」
武瑠が納得したのを感じ取ったのか、シロはへにゃりと笑う。
「まぁ、俺のこれまでの不可解な謎に答えをくれた訳だから。ということは、さっき聞こえた“危ない!”って声は舞花の?」
(そう言ったでしょ)
「言ったっけ?」
舞花に涼しい目を向けられ、シロに確認する武瑠。
「うん。ほら、“さっきは私の声に反応してくれてありがとう。私達がいた場所からあの子を助けるには少し距離があって間に合いそうになかったから助かった”って、さっき舞花の声で聞かせてあげたでしょ」
「あ、ホントだ。聞いてたわ」
ごめんごめん、と武瑠は舞花に笑いかける。
(別に……)
舞花はふいっと顔を背けると、マスターに“同じものをおかわり”と追加の注文をした。
「武瑠はそのヘッドホンをつけると他人の声がマシな気がするんだよね?」
「え? うん……」
「それは気のせいじゃないよ。実際にそうやって物を使って自分の性質をコントロールしている人は多いんだ。僕の場合はコレ」
そう言ってだぼだぼの袖を振るシロ。
「手をね……、自分の手を隠すことで人の心を読まないようにしてる。逆に言えば、手を出すと他人の声が聞こえまくりになっちゃう訳だけど」
「手……」
武瑠はシロの服の向こうにある手をじっと見つめる。
「ま、イーメジの問題だよ。僕は手から人の心を感じ取っちゃう気がしたんだ。だから、それを隠せば聞こえないっていう一種の暗示みたいなものだよね」
シロは袖から手を出さないまま自分の飲み物が入っているグラスを持ち上げ、こくりと一口飲むと、再び話を続ける。
「舞花の場合はね、ロケットペンダントだよ」
そう言われて、武瑠が舞花を見ると確かに彼女の首にはシルバーのロケットペンダントが掛けられていた。
「舞花はそのペンダントで自分の声が漏れちゃわないようにコントロールしてるんだ。その中に閉じ込めるイメージなのかな。小さい頃はそれでもコントロール出来なくて他人に心が聞こえちゃう事もあったけど、今では訓練して自分で聞かせたい時に聞かせたい相手に声を聞かせることが出来るようになったんだ」
なるほどな、と思いながらおかわりした大量のスイーツを再び食べている舞花を見つめる武瑠。