表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/91

Episode6 桜と月とあの日の約束 6

 



 数日後――。


 武瑠と河原町はキミカの病室にいた。窓もカーテンも閉め切って、この場所に一つの空間を作り出す。


「本当に、出来るんでしょうか……」


 河原町はぽつりと呟いた。


「二十何年も一緒にいたんだろ? 大丈夫だよ」


「そうですよね」


 武瑠に迷いなく言い切られて、河原町の不安もどこかへ吹っ飛んでいくようだった。


「都会のど真ん中にあるのに、あの場所だけが何か異空間って感じがしたな」


 武瑠は月明かりに照らされた桜を頭の中に思い浮かべる。


「はい。彼処にいると、何だか彼女と二人だけの世界にいるようで――」


 武瑠は河原町の顔をじっと見つめた。


「なぁ……、始めたら俺の存在は忘れろよ。キミカさんの事だけ考えて。彼女と一緒に二人で居ることだけ考えるんだぞ。な?」


 分かりました、と河原町は頷いた。


「よし、じゃあ準備できたし始めるか」


 武瑠は電気を消して、撮ってきた映像を天井に映し出した。彼女のちょうど真上に月明かりに照らされた桜の木が映し出されるように調整する。壁一面に貼られた桜の写真と、ひらひらと舞う花びらが流れる映像により、この部屋があの異空間へと変わった。


 武瑠はヘッドホンを首に掛け、フードを取る。そして、河原町とキミカに手を握らせ、その上からそれを自分の両手で包み込んだ。


 河原町は武瑠に言われた通り、彼女のことだけを考え、天井に映し出された桜の木を愛しそうに見上げる。


「キミカ……、今年も桜が綺麗だね」


 ここは病室のはずなのに、不思議とあの場所と同じように感じてしまう。彼女と二人で本当に月明かりに照らされた桜の木を見ているようだった。


 武瑠は眠っているキミカの意識の中を覗こうと意識を集中させる。本当にただ眠っているだけならば、彼女はずっと夢の中にいるのかもしれない。彼女がどんな夢を見ているのか。それが分かればいいんだけど……。そんな思いで彼女の(コエ)に集中する。すると、武瑠の中にキミカの(コエ)が流れてきた。


((オサム)くん、今年も桜が綺麗ね。ずっと、このまま二人でいられたら私、とっても幸せよ)


 キミカは夢の中であの場所にいた。月明かりに照らされた桜の木があるあの場所に。


 武瑠は河原町に(コエ)がそのまま届くようにと、きゅっと手に力を込める。悟りの性質(のうりょく)で彼女の(コエ)を悟り、悟られの性質(のうりょく)で河原町に彼女の(コエ)を悟らせる。彼がピクリと反応したところを見るとどうやら成功したようだ。


「ねぇ、キミカ。俺の為に、俺と一緒になってくれてありがとう。一年前、君にyesをもらえて俺はとても嬉しかったんだ。ずっと、俺と一緒にいてくれると君に言ってもらえた気がして。桜にも負けず劣らず美しい君だから、その分余計に儚くて消えてしまいそうで、俺はとても不安を感じていた。だけどね、君が形をくれたからそんな感情も愛しく思えるようになったんだよ。喜びも不安も何もかもが俺にとっては愛しい。来年も再来年も、この先もずっと……俺は君が消えてしまわないようにこの手を掴んでおくからね……。ね、キミカ……」


 彼女の指がピクリと反応を示した。


 また、反応だけだろうか。意識は……?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ