Episode1自覚 4
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悟りっていうのはね、他人の心の中を見ることが出来る人のこと。そして、悟られっていうのは他人に自分の心の中を見せることが出来る人のこと。人間はね、絶対にこのどちらかの性質を持っているとされているんだ。ただ、それについて知っている人は割合としてはまだまだ少ない。いつどんな事が切っ掛けで開花するのかはその本人すらも分からない。開花してもしなくても、その性質を受け入れられない人は沢山いる。それを異端のものとして排除しようとしたり、悪いことに利用しようとしたりする人もね。だから、悟りや悟られの多くはその性質を他人に知られないようにしながら、生活しているんだ。
きっと武瑠の近くにも、今まで武瑠が知らなかっただけで、悟りや悟られはいたはずだよ。
僕達はね、子どもの頃に開花したんだ。舞花は悟られの性質で、僕は悟りの性質。小さかったからさ、知識なんて勿論無くて、それが当たり前だと思ってた。みんなが使えるものだと思ってたんだ。だから、周りにも普通にこの事について話してたし、性質も普通に使ってた。でも、みんな大人達は怪訝な顔をするし、自分と同じ年の子達にもおかしいって罵られて、攻撃されて。
それでやっと、分かった。普通じゃないんだって。この性質はみんなの普通じゃないんだって。それからは使わないように舞花と二人で試行錯誤しながら頑張った。でも、やっぱり子どもだからっていうのもあったかもしれないけど、コントロールするのが難しくてなかなか思うようにはいかなかった。何度も性質が暴走して、その度に気味悪がられて、傷つけられた。
みんな自分とは違う得体の知れない存在を排除したがるでしょ? だから、悟りや悟られの多くは自分の性質について口にしない。隠すんだ。それが処世術だから。社会の中で生活するにはそれが一番楽だから。そうなるとさ、必然的に悟りや悟られの存在を知る人は少なくなる。大して広まることもないから、理解者を増やすことも難しいんだよね。
「舞花が僕達と会話できるのは悟られの性質のお陰なんだよ。でも、普段は使わない。筆談かスマホで意志疎通して、悟られだってことを隠してる。便利なんだか、不便なんだかホント分かんないよねぇ」
というシロの言葉で話は終わる。
俄には信じられない話だが、実際に武瑠は舞花の声を聞いているわけで。
「以心伝心とか、目と目を合わせただけで通じあっちゃうみたいなこと、どっかで聞いたことあるでしょ? それには少なからず悟りや悟られの性質が絡んでるんだよ」
なるほどね。ということは――、
「俺にもその性質があるってこと?」
武瑠が尋ねるとシロはふにゃりと笑う。
「そうだよー。しかも、武瑠は特殊なんだよねぇ」
「俺が?」
「そー。普通はね、“悟り”か“悟られ”のどっちかの属性になるはずなんだ。僕は悟りで舞花は悟られ。マスターは……、悟りだよね?」
シロが確認するようにマスターへ視線を向けると「如何にも」と言ってマスターは微笑んだ。
「俺が特殊っていうのは?」
「武瑠はその両方を持ってるんだよ」
「両方?」
「そう。武瑠は悟りだし、悟られなんだ。他人の声が聞こえ過ぎるのは悟りの性質のせい」
「だったら、俺は悟りになるんじゃないのか?」
「それがねー、武瑠の心の声は駄々漏れ過ぎてたんだよねー。病院で武瑠を見かけた時、君の声が聞こえ過ぎたんだ」
武瑠の疑問に待ってましたとばかりに身を乗り出すシロ。
「僕、普段はこの性質を使わないようにちゃーんとコントロールしてるんだよ。だから、悟られが性質を発動していない限り、それかよっぽど危機迫った状況に陥っていない限りは、僕に声が聞こえるはずはないんだ。でも、武瑠の声ははっきりと聞こえた。しかも、悟りじゃない舞花にも武瑠の声が聞こえてた。僕達二人で悟られがいるねって話してたのに、なんと武瑠が相談しているのは悟りに関する話じゃあーりませんか。吃驚したよー。他人の声が聞こえ過ぎるんですって聞こえてきた時は。色々考えて僕達が出した結論は、武瑠は悟りだし、悟られだってこと。そんな人今まで会ったことなかったから、珍しくて君の名前を覚えてたんだー」