Episode5 束の間の戦隊ヒーロー 7
「パンフレットは別に勧誘とかでも何でもなく、ただ単純にみどりちゃんが美代ちゃんの為に用意したものだった。そして、そこはみどりちゃんの就職先。ほら、そこの写真にも少し見切れちゃってるけど、施設の名前が写ってるし」
武瑠の言った通り、就職おめでとうの写真にはパンフレットと同じ施設名が写り込んでいる。
「みどりちゃんと美代ちゃんがこの部屋で一緒にお茶を飲んでいた時、美代ちゃんが急に発作で倒れてしまった。みどりちゃんは直ぐに救急に連絡をした。目の前で大切な家族が倒れたんだ。びっくりして、焦った筈だよ。その時突然、玄関をドンドンと叩きながら叫ぶ何者かが現れた。どうしよう、怪しい人だったら。どうしよう、怖い人だったら。自分一人だけじゃ太刀打ちできない。そう思っていると静かになり、玄関の人影も見えなくなった。急いで助けを呼ばなきゃ! そう思ったみどりちゃんは玄関から急いで飛び出し助けを呼びに行った。自分が履いてきたパンプスを履いて慌てて外に出たもんだから、コレを落としたことには気付いていなかったのかもね」
武瑠は先程玄関先で拾ったモノを顔の前に掲げてユラユラと揺らした。
「あ、ソレさっきの!」とシロも反応する。
「それは……」
(パンプスのアンクルベルト)
田中が言う前に舞花が答えた。
「思ったよりも早く救急車が到着したのは、俺達が呼ぶ前に既にみどりちゃんが救急車を呼んでくれていたから。そして、それが先に到着した。それにたぶん、みどりちゃんも今頃美代ちゃんと一緒に病院にいるんじゃねーかな? 病院に向かう救急車がこの先のところで、一回停まってスーツを着た女の子を乗せていくのが見えたから」
「つまりは、お前らがこの家を訪ねたタイミングが悪かった事と、彼女がお前らを怪しい奴だと早とちりしちまった事と、お前らがこの家の状況を見て事件かもしれないと勘違いしちまった事。色んな事が重なって、それによってどうしようもなくややこしくなっちまった。そういう事だな」
人騒がせな奴等だ、と呆れる石川。
「ごめんねー、門吾さん」
武瑠がえへっ、と首を傾げると石川は下の名前で呼ぶんじゃねぇと顔をしかめた。
「まぁ、事件ではなかったという事ならば、そっちの方が結果的には良かったって事ですよね?」
うん、間違いなく田中さんはいい人だ。いっつも、この刑事のオッサンに振り回されてんだろうな。
武瑠は田中を見つめながらそんな事を考える。
「はぁ……、しゃーねーな。このまんまの状態でこの家放っぽり出して行くわけにもいかないし、後はこっちで引き受ける。お前らはもう帰れ……」
石川は武瑠達に早よ行けとばかりに、しっしっと手を動かす。
武瑠はサトルにちらりと視線を向けて、それから田中に話し掛けた。
「あの、田中さん。メモとペン貸してもらえません?」
「あ、はい。どうぞ」
武瑠はサラサラとメモを書くとそのページだけペリッと破いて切り取る。そして、石川にツカツカと歩み寄ると、コレよろしくと言ってそのメモを渡した。
「何だ、これは?」
「美代ちゃんでも、みどりちゃんでもいいからさ。渡しといてソレ」
んじゃ、と言って武瑠は背を向けた。そして、サトルの元へ行き、耳元で何かを伝える。すると、サトルはこくりと頷いてインコのみどりちゃんが入った籠を抱え、そのまま武瑠の後に付いて歩き出した。シロも舞花も武瑠達の後に続こうと歩き出す。
すると突然何を思ったのか、舞花はくるりと振り返り、石川の目の前まで歩いていくとじっとその瞳を見上げる。そして――、
(門吾……って呼んでいい?)
「っ!? ……はっ?」
石川はびっくりして思わず反応が遅れた。
「舞花、モンゴって響きが気に入ったみたいだねー」
シロが補足説明をすると、舞花はその通りだと頷いて見せた。
「…………、す、好きにしろっ……」
石川はじっと見上げてくる舞花から目を逸らしながら答える。
「えー、なら僕も門吾って呼びたいー。ねぇ、舞花が良いならいいよねー?」
シロはへにゃりと笑いながらぱたぱたと袖を振る。面白がっていることはまず間違いない。
舞花に好きにしろと言った手前、ダメだとも言えなかったのだろう。石川はいいともダメだとも言わなかった。
舞花は許可を貰えたことに満足したのか、石川の動揺をよそにくるりと向きを変え、そのままスタスタと武瑠達の後を追っていく。舞花の背中を見送る石川と田中の表情は終始ポカンとしていた。
そんな二人を見て、フフフっと笑うシロ。
「ごめんねー。舞花っていつもあんな感じだから気にしないで。そのメモちゃーんと渡してあげてね。じゃあねー」
シロもスキップをするようにふわふわとしながら、ポカンとしている刑事二人を置いて武瑠達の後を追っていった。




