Episode4 君影草を君に [解決編] 11
「それは、無いねー。隼ちゃんは根っからの女好きだからー。アレは寂しいからとかそういう問題じゃないよ」
武瑠とシロの会話にマユも参戦する。
「確かに装ってるだけじゃ、あんなに何度も舞花のこと口説きにいかないよねー。あんなに冷たくあしらわれてるのに顔合わせる度に口説くなんて、メンタル強すぎっていうか、ただの馬鹿っていうか――」
「可愛い女の子はみんな口説かないと失礼でしょ、が隼ちゃんの口癖だからねー。出会う子出会う子可愛い子はみーんな口説いてる気がするな……」
「チャラいな……。ところで今更なんだけどさ――、“隼ちゃん”ってあの花屋のことなんだよな?」
武瑠の問いにマユはこくんと頷く。
「そうだよー。藍沢隼士だから、隼ちゃん。みゅーがそう呼んでたから、俺もなんか自然とそう呼ぶようになって――。って、前に聞きたかった事ってもしかしてそのこと?」
「そう、俺達あの人の名前ちゃんと知らなかったからな」
「だから、俺のことずっとチャラって呼んでた訳だ?」
舞花を口説くことを断念したのか、チャラが武瑠達の元へやって来る。
「え、ああ……まぁチャラいし……」
「チャラいからチャラなんて安易だねぇ」
武瑠が答えるとにっこりと笑うチャラ。
「武瑠の発想は単純だからねー。ねぇ、僕達も隼ちゃんって呼んだ方がいい?」
軽く武瑠をディスりながら、チャラに聞くシロ。
「いや、チャラのままでいいよ。なんか、愛称っぽくて気に入った。それにそっちの方が君達との距離も近くなって、なーんか仲良くなれそーじゃん?」
にっこりと笑うチャラは一般的には女の子にモテる部類に入る程顔は整っている。しかし、気が多くて誰でもかれでも口説いてしまうのが、玉に瑕ってところなのかもしれない。
「あっ、舞花ちゃんは隼士って呼んでくれていいからねー」
(……呼ばない)
「えぇー、照れなくてもいいのにー」
(照れてない)
――ホント、懲りないチャラ男だな。
武瑠はふと、店先に吊るされたスズランの花籠に目をやる。今日は5月1日ではない。しかし、先日の騒動以来またこの花屋の店先にはスズランの花籠が吊るされていた。
君影草――。
スズランの和名だ。その名の由来は、葉の陰に隠れてひっそりと花を咲かせる姿が、男性の影に寄り添う古き日本女性のイメージと重なったためだと言われている。
しかし、この花屋がスズランを吊るす理由は別の理由のような気がする。
頭を下げて愛しい人を待ち続ける姿を連想させる君影草。花屋は今でも待っている。帰らぬ人となってしまった最愛の妹を。幸福の訪れと共に――。
チリン――、と風に揺られて鈴が鳴った。
(隼ちゃん、ただいま)
誰もいない入り口を見つめながらチャラい花屋は優しく笑った。
【Episode4 チャラい悟りと君影草・・・おわり】
・・・But this story is not over yet.