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Episode4 君影草を君に [解決編] 8

 



 あとのことは警察に任せて武瑠達はマンションを後にすることにした。


 簡単に話を聞かれただけでこんなにも早く解放された裏には神田が絡んでいるとかいないとか――。


 あのオッサン、マジで何者……。


 きっと、深くは考えない方がいいだろう。考えるだけ、エネルギーの無駄遣いだ。


 高級さが漂うエントランスから一歩外に出たところで武瑠達は足を止めた。後ろに続いているチャラが足を止めたからだ。チャラは先程までいた場所を真下から見上げている。


 すると、舞花がテクテクと近づいていき、チャラが握りしめていた拳を掬い上げ、自分の両手できゅっと包み込んだ。その握りしめられていた拳は力を入れ過ぎてふるふると震えていた。


(もう、我慢しなくていい)


 自分の拳を包み込んだ舞花を見つめて、チャラはふっと力を抜いて笑う。力が抜けたのを感じた舞花はチャラから手をそっと離した。


「ありがとう」


(こくり)


 チャラと舞花のやり取りを見ていたマユが呆れた声を出す。


「全く、隼ちゃんは優しすぎるんだよ。あんな女にまで情けをかけるなんてさ……。あの女も一発くらい殴ってやってもおかしくないくらいの事やったんだからね」


 俺の言ってること間違ってないよね、とチャラに詰め寄るマユ。


「まぁまぁ、マユちゃん落ち着きなさいって。俺もあの子の事を許した訳じゃないって言ったでしょーが。許せないよ、許せる訳ない。でも、ちょっと重なっちゃったんだよね、泣いてる姿がさ……、俺の母親と」


 どういう事? という顔をするマユにチャラは眉をハの字にしながら説明する。


「マユちゃんも少しくらいはみゅーから聞いたことあるんじゃない? 俺とみゅーの母親が違うってこと。俺の親父は母さんとは別の女性(ひと)と一度だけ関係を持ってしまった。その時にできたのがみゅーだ。みゅーの母親は元々体が弱くてみゅーを生んですぐに亡くなった。だから、親父がみゅーの事を引き取って俺達は一緒に暮らし始めたんだ。けど、親父もその後すぐに車で事故を起こしてそのまま死んじゃって。不慮の事故だったと思いたいけど、俺の母さんはどうしてもそうは思えなかったらしい。親父がみゅーの母親の後を追って死んだんじゃないかって。毎日毎日泣いて……。どうして? どうして私じゃダメなの? どうして私を残して死んじゃったの? あの女の子どもだけ置いていくなんて、私は自分が酷い人間になってしまいそうで怖いって、そんな事を言いながらずっと苦しんでた。母さんもみゅーのことを受け入れようとはしてたんだ。でも、結局は出来なかった。俺が一緒にいる時はまだ大丈夫だったんだけど、みゅーと二人っきりになると、母さんはみゅーに辛く当たっちゃって……、その度に泣いて……。みゅーも母さんが苦しんでいることを分かってたから何も言わずにじっと耐えてた。そして、みゅーが五歳になった時に母さんは親父の後を追っていった。自殺だった。遺書も残ってて。ごめんなさい、ごめんなさいって滲んだ文字が並んでた。みゅーも母さんも俺の前でずっと泣いてた気がするよ。だから、女性が泣くのを見るのは苦手なんだよ……。あの子の事は許せない……でも――」


「馬っ鹿じゃないの」


 黙って聞いていたマユがその一言で今までの話を蹴散らした。


「隼ちゃんのお母さんがどうだったかなんて知らないけど、みゅーが隼ちゃんの前でずっと泣いてたって? それしか思い出せないって? 馬鹿なこと言わないでよ! 俺、弱って隼ちゃんに甘えてるみゅーの姿何度も見たことあるけど、それ以上にみゅーが笑ってたところも見てるよ! っていうか、笑ってるみゅーしか今は思い出せないって。みゅーのこと言い訳にして一番前に進めてないのは隼ちゃんじゃんか!」


 マユの目からは涙が溢れていた。チャラは目を見開き、空を仰ぐ。そしてゆっくりとマユに近づき、ふっと笑った。そして、親指でその流れる涙を拭う。


「マユちゃんもやっと泣けたな。俺たち二人して格好悪ぃーの。みゅーに怒られちゃうな」


 マユはチャラの困ったような顔を見つめた後、隼ちゃんと一緒にしないでよ、とプイッと顔を背けた。



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