Episode4 君影草を君に [解決編] 4
「分かった……」
「分かってくれたんだね! すみ――」
「――だったら、これを一緒に飲んで仲直りをしましょ?」
すみれが拝田の前に突き出したのは、二本の小さなペットボトルのオレンジジュース。
「……っ!」
拝田は目を見開き、ごくりと喉を鳴らした。
「そ、それは……。今は喉が渇いていなくて――」
「飲めないの?」
すみれは拝田の言葉に被せて確認をする。
「喉が渇いていなくたって、仲直りをする為よ。一口くらいいいでしょ?」
彼女の瞳は悲しげに揺れ、どこか狂気染みてもいた。
「わ、わかった……。一口、なら……」
拝田はすみれからジュースを受け取り、蓋をかちりと回して開ける。その手は少し震えていた。
すみれも同じく蓋を回してジュースを開ける。
「じゃあ、せーので飲みましょ。せーの――」
拝田の手からぽとりと容器が落ちた。床に広がるオレンジ色の液体を見つめ、拝田はその場に崩れ落ちた。
「勘弁してくれ……。僕は君と一緒に死ぬのなんてごめんだ!」
拝田の本音が漏れた瞬間だった。すみれは立ち尽くし、膝をついている拝田を見下ろす。
「君が……、心優の代わりだって? そんなものなれるわけがないだろう。彼女は……、藍沢心優は特別なんだ。君なんかが……、なれるわけがない!」
拝田はタガが外れたように嘲た笑みを浮かべながら話し出す。
「心優は特別で尊い存在だった……。周りの人間と一線を引き、その纏っている空気は洗練されていて、それでいてどこか危うく……、人を惹き付ける。彼女が生み出す作品にもそれが滲み出ていた。心優は唯一無二の存在なんだ!」
「クソ教師が何言ってんだよ……」
マユの呟きも今の拝田には聞こえていない。
「スズランを買ってきたのは僕への当て付けか? オレンジジュースまで用意して。あの時の僕のやり方と同じ方法で僕と一緒に死のうとでも思ったのか? ジュースに入れられたスズランの毒に僕が気付かないとでも? ハッ。残念だったね。僕は死なないよ。君となんて死んでやらない!」
(ぜーんぶ自分で喋りやがったな……)
武瑠は未だに此方に気付いていない拝田に声をかけようと口を開いた。すると――、
「ふざけんな、この変態教師が!」
武瑠よりも先に拝田に向かって飛んでいった者がいた。
バコっ――、と鈍い音が響く。
(あーあ、待ってろって言ったのに)
そう思いながらも、予想していたのかパーカーのポケットに手を突っ込みながらそのまま傍観を決め込む武瑠。
(ま、じっとしてるなんて無理だとは思ってたけどさ)
「隼ちゃん……」
マユも動こうとしていたのか、一歩足を踏み出した態勢のまま目を見開いて固まっている。
拝田の胸ぐらを掴み、チャラは再び殴ろうとしていた。武瑠はツカツカと歩み寄り、振り上げられているチャラの腕を掴む。
「はい、ストップ」
(ちゃんと見とけって言ったろ?)
武瑠は白崎姉弟に呆れた目を向けた。すると――、
(そんなの無理だよー)
(そんなの無理でしょ)
いつも通りのシンクロで返ってくる。
チャラは鋭い視線のまま武瑠をギロリと見るが、自分と同等か若しくはそれ以上の強い視線を向けられ、ふっと力が抜いた。そして、天を仰ぎ無意識に止めていた呼吸を再開する為、一度深く息を肺の中に取り込み、それからゆっくりと吐き出す。
チャラが横目でちらりと拝田を見た後、胸ぐらを掴んでいた手をパッと放すと、拝田はそのままズルズルと座り込んだ。




