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Episode4 君影草を君に [解決編] 3




(マユ君、どこ!?)


 武瑠はマユに語りかけると、


(武瑠さん、リビング! なんか……、綾野すみれがっ……ヤバい!)


 マユの焦った(コエ)が聞こえた。


 出来るだけ音を立てないようにしながら、武瑠がリビングに駆け込むと、何とも言えない空気が漂っており、緊張感に包まれていた。綾野すみれと拝田、そしてマユが対峙している。


 此方に背を向けている拝田は武瑠が来たことには気付いていない。マユはちらりと視線だけを武瑠に向ける。そして、武瑠が入ってきたのを視界に捉えている筈の綾野すみれ。彼女は武瑠に気付いているのかいないのか、反応を示すことはなかった。


 それをいいことに、武瑠は黙ってその場で状況を見ることにする。


「菫人、私はもう必要ないの?」


 すみれは震えた声でそう言った。


「……すみれ? 落ち着いて……。その花は……、すみれが買ってきたのかい?」


 拝田はゆっくりとすみれに語りかける。すみれの隣には、美しく花瓶に生けられたスズランの花があった。しかし、すみれが拝田の問いに答えることはない。恐らく、今のすみれには誰の声も届かない。


「私、先生の為に何でもしたよ……? 先生が私のことを必要としてくれたから。先生が学校からいなくなって私、また一人ぼっちになった……。だから、卒業してから先生のことを捜して……、追いかけた。先生、困ってたから一緒に住める家も用意して……」


 彼女の目は虚ろだった。目の前にいる拝田なんて見えていない。きっと今、すみれは高校時代に戻ってしまっているのだろう。その証拠に拝田の呼び方が“菫人”ではなく、“先生”になっている。


 すみれは誰に言うでもなく、只々話し続ける。


「先生に好きになってもらいたくて、メイクもファッションも苦手だったけど勉強して、私……先生好みになるように頑張ったの……。少しでも藍沢さんに近くなって……、私が藍沢さんの代わりになれたらって思ってた……。あの日、先生が私にオレンジジュースを藍沢さんに渡すように頼んで、それに毒物が入ってたなんて警察に言われて――」


「すみれ!」


 心優が死んだ日のことを話し出したすみれに拝田は焦ったように彼女の名前を呼んで言葉を遮ろうとする。きっと、マユのことを気にしているのだろう。しかし、すみれの言葉が止まることはなかった。


「先生、辛かったでしょ? 自分が買ってきたジュースに偶々細工がされててそれが原因で藍沢さんが死んじゃったなんて。先生のせいじゃないのに……、先生は優しいから……責任感じちゃったでしょ? 先生が負った心の傷を少しでも癒してあげたかった。だから、私が先生の力になれたらって思ってた……。ねぇ、どうして……? どうして、私じゃダメなの? 私、菫人の為なら何でもするのに……」


 そこでやっと、すみれは目の前にいる拝田へとはっきりと視線を向けた。


「ねぇ、菫人……私はもう必要ないの?」


「そんなことは……ないよ。いつも言っているだろう? 僕にはすみれが必要なんだ。君がいてくれて本当に感謝している……」


 拝田の声のトーンはどこまでも優しい。しかし、武瑠には聞こえていた。拝田の本当の(コエ)が。


(すみれ、君は本当に利用価値のある子だ。君は僕に心酔し、僕のことを疑いもせずに何でも言うことを聞いてくれた)


「君のお陰で僕は大切なモノを手に入れることが出来たんだ。ありがとう……」


(本当に君のお陰だよ。君があの日心優にオレンジジュースを渡してくれたから、心優を僕のモノにすることが出来たんだ。本当に感謝しているよ)


「これからも、僕には君が必要だ……」


(これからも僕の為に利用されてくれ)



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