Episode4 君影草を君に [解決編] 1
◇
マユと拝田がマンションの前に到着した。二人の後を追って同じくマンションにやって来た武瑠達。ふと、脇に目を向けるとマンションの影にチャラいナリの男がいる。
(何故いる、チャラ!?)
(あ、花屋さんがいる……)
(あ、花屋のチャラい人~)
心が漏れずとも、三人が同じ事を考えているということはお互いに伝わった。
(マユ君、チャラに気付いてるよね。拝田に気付かれない内に中に入っちゃって)
マユは武瑠の指示で拝田がチャラに気付かない内に、中へ入ろうと拝田の服を引っ張る。そして、マンションのオートロックが解除され、二人は中に入っていった。それに続こうとしているチャラを舞花が引き止める。
(ねぇ、花屋さん。ここで何してるの?)
「っ!?」
武瑠達三人の存在には気付いていなかったのか、声にならない声を上げるチャラ。
(お願い、こっち来て)
舞花に服の裾をちょいちょいと引っ張られ、チャラは大人しく舞花に従う。
誰の目線も気にならないマンションの物陰まで来ると突然、チャラの首に腕が回され、ヒヤリとしたものが当てられる。
「手を上げろ。何してんの、ここで。あんたは店で待機のはずだろ?」
声の主は武瑠。チャラは首筋のモノが気になってそれどころではない。武瑠の指示通りにチャラは両手を上げた。
「おいおい、君達ってそーんな物騒な人達だったっけ? 首に当たってるソレをどけてもらわないと話せるもんも話せないでしょーよ」
チャラの声からは緊張が伝わってくる。
「ビビったんなら、成功かな」
武瑠はそう言って首に回していた腕を解いた。解放されたチャラが後ろを向くと銀色のソレを見せて笑う武瑠。
「何だよ、……スプーンか」
チャラは息を吐き出し、自然と肩の力が抜ける。
「冷たいモンを首筋に当てられたら刃物だと思うっしょ?」
「勘弁してくれよ。本気で殺られるかと思ったよ……」
にやりと笑う武瑠にチャラは苦笑いで返す。
(武瑠、悪趣味……)
「僕達は止めたんだけどねー」
共犯だったはずの白崎姉弟がやっぱりいつも通りの手のひら返しを見せてくる。
「はっ? お前等もノリノリだっただろーが!」
「僕達、そんな趣味ないもーん」
(こくり)
にゃろう……こいつ等、また俺で遊んでるな……。
分かっていても一度はツッコんでしまうから、この武瑠イジりが無くなることはない。武瑠もそれが分かっているから、早々にまともに取り合うのを切り上げる。この二人の相手をして疲れていたら切りがないからだ。
「あんたが勝手な行動するからだぞ。計画が狂ったらどーしてくれんの?」
武瑠はふぅ、と息を吐き出しチャラに呆れた目を向けた。
「ごめんねー、マユちゃんにまで何かあったらと思うと居ても立ってもいられなくってさぁ……それに……」
(花屋さんも心配だったんだよ)
「妹さんのことだしねー。自分だって何かしたいって思うよねー」
「ああ、もうお前等うるさい! 俺だってこの人の気持ちぐらい分かるわ!」
白崎姉弟の茶々入れに武瑠はやっぱり我慢できずにツッコんでしまった。
あぁ、また相手しちまった……。くそっ。
面倒くさいと分かっていながらも構ってしまう自分の性格を若干呪いながら、武瑠は再びチャラに向き合う。
「それに……、何? 何か今言いかけてたよね?」
武瑠に見つめられ、チャラはここに来る前の出来事を話す。
「店にあの子が来たんだ……」
「あの子って?」
「綾野すみれちゃん。みゅーの同級生で、美術室で最初にみゅーのことを見つけた子」
「綾野すみれが、店に?」
「スズランを……スズランの花を買っていったんだ。それが、何だか気になって……」