Episode4 君影草を君に [事件編] 11
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マユは拝田がコーヒーショップに入っていったのを確認し、少し時間を空けてから自分もその店へと入った。
お好きな席へどうぞ、と言われ拝田の方にちらりと視線を向ける。隣の席が空いていた。拝田はというと、こちらを見て固まりながら不自然に見えないように必死に振る舞っているのが窺える。
あの感じなら隣に座っても不自然に思われる事はないだろう。
マユはカツカツとヒールを鳴らして、拝田の隣のテーブルへと座った。
「オレンジジュースください」
水とおしぼりを持って此方にやって来た店員に注文をする。拝田がマユを気にしているのは明らかだった。
オレンジジュース――。みゅーが最期に口にしたモノだ。
お前はオレンジジュースと聞いてみゅーのことを思い出す?
マユはぎりっと歯を噛み締めそうになるのを堪えながら、バッグからスマホを取り出した。
運ばれてきたオレンジジュースを飲み、気持ちを落ち着ける。
“少ーしの切っ掛けを与えてやれば”
そう言っていた武瑠の言葉を思いだし、早速実行することにした。
スマホに顔を向けたまま手を動かし、態とグラスを倒す。
ごめんね、店員さん。
「わわっ……やっちゃった」
隣で気になってる女の子があわあわしてるよ。放っとくわけないよね?
「ご、ごめんなさいおにーさん。服とかにかかってないですか?」
もう一押しというようにマユは拝田に声をかけた。
これで完璧。
「ああ、僕は大丈夫だよ。君はかかってない?」
拝田は待ってましたとばかりに笑っている。にやけてしまうのを必死で堪えているつもりなんだろうけど、全く堪えきれていない。
「あ、はい……。よかった、かかってなくて。というか、おにーさん優しいですね。私の心配までしてくれて。あ、一緒に拭いてくれてありがとう」
「いやいや、どうってことないよ」
あー、気持ち悪い……。お前の視線も何もかもが、その異常性を隠しきれてないんだよ。
マユが笑顔の裏でそんな事を考えていると拝田はもう一杯頼みなよと言ってきた。“奢ってあげるから”なんて恩着せがましい言い方をしているが、そんな事で今時の女の子が靡くとでも思っているのか。
こいつなら、思ってそうと思いながらも、「ええー、そんなの悪いですよ」と一応形だけ遠慮してみる。すると――、
「こうして隣の席になったのも何かの縁だろうし」
だってさ……。いやいや、何の縁だよ! お前と結ぶ縁なんか端っから無いわ!
マユの毒づきが増えれば増えるほど、顔に浮かべる笑顔が濃くなっていく。
「……ホントにいいんですか? じゃあ、優しいおにーさんのお言葉に甘えちゃおっかなぁ」
もちろん、実際に発する言葉は最上級の甘えた声で(ハート)




