Episode4 君影草を君に [事件編] 9
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拝田は一人コーヒーショップへと入った。先程の女性が頭から離れない。あの道を通っていれば、また会えるだろうか。頼んだコーヒーに口をつけながら拝田は自分の気持ちを落ち着かせようと息を吐く。久しぶりのこの胸の高鳴りを噛み締めながら藍沢心優と心優に似た彼女に思いを馳せた。
“いらっしゃいませー”という店員の声がやけに耳に入ってきて、拝田は何の気なしに入口に目を向ける。
すると、何と言うことか――。心優に似た先程の彼女ではないか。
驚きのあまり彼女を目で追いながらも、固まる拝田。続けてラッキーなことに、お好きな席へと言われた彼女は拝田の隣の席へと着いた。
「オレンジジュースください」
可愛らしい声が拝田の耳を撫でる。
ああ、声までもが愛らしい。
何度も頭の中で反芻させながら、拝田は密かに一人で堪能していた。それにしても、またオレンジジュースとは、と拝田は思う。
心優が最期に口にしたのもオレンジジュースだった。
彼女は運ばれてきたオレンジジュースに刺さったストローを咥えてちゅるちゅるとそれを飲んでいる。ぷくりとした赤いリップが更に強調されて何とも艶かしい。
スマホを取り出し、それを操作しながら再びジュースを飲もうしていたが、彼女はグラスを掴み損ねてしまい、ガタンとグラスを倒してしまう。
「わわっ……やっちゃった」
テーブルに備え付けられているペーパーナプキンで溢れてしまったジュースを慌てて拭く姿に今話し掛ければ自然じゃないか、と拝田は気付く。そう考えている内に――、
「ご、ごめんなさいおにーさん。服とかにかかってないですか?」
向こうから話しかけられた。これは話すチャンスだ、と拭くのを手伝いながら拝田は彼女に笑いかける。
「ああ、僕は大丈夫だよ。君はかかってない?」
「あ、はい……。よかった、かかってなくて。というか、おにーさん優しいですね。私の心配までしてくれて。あ、一緒に拭いてくれてありがとう」
「いやいや、どうってことないよ」
拝田はにやけそうになるのを必死で堪えていた。初対面の男がにやけるなんて、気味悪がられてしまうかもしれないからだ。
「ジュースまだそんなに飲んでなかったんじゃない? 良かったら、もう一杯頼みなよ。僕が奢ってあげるから」
「ええー、そんなの悪いですよ」
「こうして隣の席になったのも何かの縁だろうし」
「……ホントにいいんですか? じゃあ、優しいおにーさんのお言葉に甘えちゃおうかな」
拝田は片手を上げて店員を呼び、オレンジジュースを頼んだ。
「ありがとーございます。あ、おにーさんお名前は?」
彼女の方から歩み寄ってきてくれるなんて、なんてラッキーなんだろうと思いながらも拝田は冷静を装い名乗る。
「拝田……」
「下の名前は?」
「あっ、菫人だけど」
「へぇ、菫人さんかぁ。かっこいい名前だねー」
しかも、名前呼びとは願ったり叶ったりだ。
「私はマユっていうのー」
「マユ……ちゃん」
ふふふと笑う彼女はやはり藍沢心優にどこか雰囲気が似ている。
ああ、心優……。君とまた話しているみたいだよ。名前も一字違いで似ているし、もしかして君がこの子を連れてきてくれたのかな。僕と引き合わせる為に……。
拝田はふわふわとした気持ちになりながら目の前の彼女を見つめていた。




