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Episode4 君影草を君に [事件編] 8




 拝田菫人(はいだすみと)は、今しがたすれ違った人物を振り返らずにはいられなかった。何せ、五年ほど前に自分が思いを寄せていた女性によく似た女性と今――、たった今すれ違ったのだ。容姿が似ているとかそういう事ではなくて、雰囲気が――ミステリアスで独特な空気感を纏った尊い存在。


 藍沢心優(あいざわみゆ)は、他の生徒とはどこか一線を引いているような、でもだからと言って自分の中に閉じ籠るような暗い性格で教室の隅っこに追いやられているとか、そういうのでもなく――。


 ただ自分の世界を持っている、彼女にしか見えない世界を持っているそんな生徒だった。心優は拝田にとって、生徒として、女性として、人間として他の誰にも汚されてはならない尊い存在だった。


 心優は絵を描いていた。彼女の描く絵は他とは比べ物にならないくらい、魅力的で魅惑的な何かを放っていた。拝田もその絵とその絵を描く彼女の姿の虜になっていた。美術教師だった拝田は心優を自分の近くへ置いておきたくて、必死に美術部へと勧誘した。しかし、何モノにも縛られずに自由に描きたいと断られてしまった。それでも何とか彼女と出来る限りの関わりを持ちたくて、拝田は部活のない時であれば、美術室を自由に使っていいと彼女に許可を出した。


 そんな事をしたところで、心優の拝田に対する態度が変わるわけではない。しかし、拝田はそれで良かった。藍沢心優(あいざわみゆ)という存在は何モノにも縛られてはいけない。自由で崇高な存在。例えそれが自分であっても彼女が何モノかに囚われてしまった時点で、それは彼女ではなくなってしまう。


 心優は孤高の存在で良かったのに……。いつからか、彼女の隣に余計なモノが引っ付くようになっていた。当たり前のように一緒にいて、彼女も(こころ)を許しているような――。


 どうしてだ、どうしてなんだ。君は何モノにも囚われない孤高で尊い存在のはずだろ――? 廣川真佑(ひろかわまゆ)、……目障りな奴だ。


 拝田の中の心優に対する執着心や嫉妬心は日に日に募っていくばかりだった。そして、黒く渦巻くものを抱えている中、目に飛び込んできた美術室で抱き合う二人。


 どうして彼女は泣いている?


 どうして彼奴なんかに縋っている?


 どうして僕を頼らないんだ?


 どうして――?


 僕は、毎日君に愛のメッセージを贈った。僕が如何に君の事を見ているかを証明する為、君の写真もたくさんプレゼントした。君は周りに騒がれるのが苦手だから、学校では適度な距離を保っていた。僕と君だけの、二人だけの秘密を君も楽しんでくれていたはずだろ? なのに、何故廣川に――、彼奴なんかに抱き締められているんだよ。彼奴なんかに囚われるなんて、君らしくないじゃないか――。


 ――誰かに汚されるくらいなら、僕がこの手で君を永遠に尊い存在にしてあげる。僕が君を救ってあげるから。


 だから、待っててね心優。僕の心優……。



 拝田は愛する女性――藍沢心優(あいざわみゆ)に雰囲気のよく似たその彼女から目が離せないでいた。しかし、声をかける切っ掛けがない。そのまま歩いていく彼女の背中を見えなくなるまで見送る事しかできなかった。




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