Episode4 君影草を君に [事件編] 3
「……神田のオッサンはいったい何者なんだよ」
「あっ、言ってなかったね。神田さんは俺達のリーダーだよ。俺達に居場所を作ってくれた、謂わばハデスの創始者だね」
神田は、はみ出し者や行き場のない若者達の面倒を見るため、ハデスという場を作った。皆それぞれの理由で社会に馴染めなかったり、社会から疎まれたりして傷を負った者達ばかり。他人だけでなく身内とも上手くいかず、居場所を失くしてしまったそんな若者達がこの街には多く集まっていた。神田は、彼等がいつでも帰ることができる場所を作るためにハデスを作ったのである。
創始者って……。あのオッサンがハデス作ってたんかい。――ってことは、
「あの出来事は最初っから最後までぜーんぶオッサンが仕組んだ茶番劇だったってわけだ」
「あー、怒んないでね。アレ全部、俺のためにやってくれたんだから」
「別に怒ってはない。だから、ちゃんと説明はしてくれ」
「うん。あのね、俺が武瑠さんのことを神田さんに相談したんだ。悟りと悟られの両方の性質を持ってる人がいるって噂で聞いたんだけど、どう思う? って」
マユは元々知り合いの“悟り”のことで神田に相談をしていた。その“悟り”を助けてあげたくて、色々と調べたり、協力出来ることをしてはいたのだが、自分だけでは限界があり、結局何も解決できないまま五年が経ってしまった。
そんな時、ある日流れてきた武瑠の噂。マユの知り合いの悟りもその性質を使って情報収集をしていたが、思うような進展はなかったという。
だから、その人なら……、悟りと悟られの両方の性質を持つその人なら何か進展の為の手がかりを掴めるかもしれない。その人に協力を頼みたい。でも、どういう輩なのか、全く分からない。どうすればいいのか迷っている。――そう神田に相談した。すると神田はこう言った。
「だったら、そいつがどういう奴なのか、直接確かめればいい」
そこで一芝居うつこととなった。一芝居うって、信用できる奴かどうか、自分の目で見極めればいいと。そして、神田によってあのシナリオが準備されたのだった。
「親父狩りの被害者を助けてくれて、見ず知らずの変なオジサンのお願いも聞いてくれて、その娘――俺のこともちゃんと助けてくれて。武瑠さんが信用できる人なんだって分かったんだ」
マユはキラキラした目で武瑠を見ていた。
「そりゃどーも?」
親父狩りの現場で俺がオッサンを助けたこともマユを助けて逃げ回っていたことも、行き止まりまで行って追い詰められた状況になったことも、全てがオッサンのシナリオ通りだった。そういうことか。
「俺にハデスの情報を教えた奴等もみんな仲間なのか?」
「うん、そうだよ」
うわぁ、あのオッサンまじで何なの。
武瑠は神田にしてやられていたことが悔しくて――というより、まんまと神田の手の平で踊らされていた自分が情けなく感じて頭を抱えたくなった。
「試すようなことしてごめんなさい。でも、神田さんのシナリオ通り動いてくれたってことは、武瑠さんがいい人だったってことだから」
マユは申し訳なさそうに頭を下げた。
「……もういいよ。わざわざあの時のこと説明してくれてありがと。お陰でモヤモヤしてたのが何かスッキリしたわ。で、本題は? 今日は俺に頼み事をしに来たんだよな?」
「うん。ねぇ、俺のお願い聞いてくれる?」
ちら、とこちらを窺うように上目遣いで見てくるマユに、これは女の子の演技も上手いわけだ、――と武瑠は妙に納得してしまう。
「それは、内容次第じゃね? 俺にも出来ることと出来ないことがあるんだし」
マユのお願いとはこの街にある、とある花屋のことだった。




