Episode4 君影草を君に [事件編] 1
この街には春になると、スズランの花を籐の手籠に入れて店先に吊るす――そんな花屋がある。
毎年5月1日になると、必ず吊るされているソレは、フランスのスズランの日に因んでいるのだろう。フランスでは5月1日に、日頃お世話になっている人にスズランを贈るという習慣がある。
“聖母の涙”とも言われるスズランの花は、“幸福の訪れ(再来)”や“純愛”という意味を持つ。純粋・癒しの花には、相手の幸せを祈り、思いやる心が込められているのである。そんな店先に飾られたスズランの花はいったい誰に向けられたメッセージなのか――。
その店の店主は花屋なんて無縁のように見える金髪ピアスの若者で、所謂イマドキの男だった。店に来る女性客は必ずと言っていいほど口説く。なんて言われており、店主自身もその噂を否定したことはない。実際そうだからだ。そんな花屋と武瑠達は思わぬ人物により、引き合わされることとなる。
◆
カランカラン――。
今日も古びた喫茶店のベルが来客を知らせる。
「あ、本当にここにいた!」
今しがた店に入ってきた少女は来店早々、ある人物を指さして言った。
その人物とは、カウンターの定位置に座り、大きな鉄板に盛られたナポリタンを頬張る大和武瑠――その人だった。
背中から自分に飛んできた声に武瑠ははて? と振り返る。
「……んぐっ。ゴホッゴホッ……」
少女を見た武瑠は驚き過ぎて、口の中の中太麺が喉の変なところに入ってしまったのか、ゴホゴホと咽せる。
「な、何で君がここに……?」
やっとのことで麺を飲み込んでから、武瑠はクスクスと笑うその人物に目を向けた。
「ハロー、お兄さん。おひさー」
顔の横で小さく手を振る彼女は、制服こそ着てはいないものの、武瑠が先日例の変なオッサン――もとい、ドクター神田のせいで関わることとなったあの女子高生である。
「お兄さんならここにいるからって、神田さんが教えてくれたのー」
ふふっと笑ってマユは武瑠の隣に座り、スラッとした足を組む。
「オレンジジュースください」
そして、マスターにちらっとだけ視線を向けてから自分の飲み物を注文し、また直ぐに武瑠へと視線を戻した。
「神田ってあのオッサンのことだろ? “神田さん”って……、君はあの人の娘じゃないの?」
「あー、そういえばあの時はそういう設定だったね」
「せってい……」
さらっと爆弾を投入してくるマユに頭を抱える武瑠。
“そのオジサン……、本当に自分が癌だって勘違いしてたのかな?”
“その別人の診断書も本物かどうか……”
“娘も本当にドクター神田の娘かどうか分かんないしー、ハデスって連中とも元々知り合いだったりしてねー”
あー、考えたくないけど白崎姉弟が言っていたことが現実だったようだ。
「あの人は父親みたいなものではあるけどね、“おとーさん”じゃないよ」
マユは目の前に出てきたオレンジジュースをストローを咥えて、ちゅるちゅると吸い込む。赤いリップによって、ぷるんとしていた唇が更に強調され、何とも艶かしい。




